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狼・前編
彼は独りだ
最初は仲間がいたが
反りが合わず
己のやりたいように
やってきた
しかし
彼の仲間は彼のやり方を
嫌っていた
コミュニケーションを
取らなければならないのに
彼はコミュニケーションを
破り続けていた
彼のせいで
得られたはずの獲物が
逃げ切られるはめに
なってしまい
余分な空腹感を
仲間に味わうことになったのだ
だからこそ群頭は
彼を群から追放したのだ
仲間と協調できないものは
群から追放する決まり
それは己たちの始まりから続く
遺伝子に則った行動
追放されたものは
別の群に入るか
それとも
住み慣れた山を下り
獲物が少ない森へと
居場所を移すかの
二つに一つしかないのだが
彼の素行の悪さを知る
他の群れは
彼を受け入れない
選択の余地なく
彼は山を下ることとなったのだ
それは己が愚行を
重ね続けた結果であり
不変なる事実
ゆえに彼は
自らの意思で山を下り
獲物の少ない森へと
居場所を移した
独り空腹の身で
餌を求めて
森中を彷徨う日々を――