薬草摘み
回想編スタート
それはある初秋の
昼頃の時だった
「ん、ロカリス草が足りないな」
「お父さん、それならあたしが摘みに行こうか?」
「ああ、エリカか。そうだな、頼むよ。くれぐれも遅くならないようにな」
「分かったわ。バスケット一杯分摘んでくるわね」
「気をつけてな」
薬草が足りないという事態は
突然の危機への対応が
遅れることを意味する
それを回避するために
薬草医の娘であるエリカは
村隣にあるルドニの森へと
ロカリス草を摘みに行った
それが己の危機を招くことなど
思いもせずに――
「これぐらいでいいかな」
太陽と夜が交錯する夕暮れ
昼過ぎにバスケットを
腕に下げながら
ロカリス草を摘みに
やってきたエリカは
ロカリス草が生えている地へと
やってきたのだ
しかしロカリス草は
一カ所に生えている数が
とても少なく
バスケット一杯分と
父親と約束してしまったエリカは
森の中を歩き回ることになったのは
必然としかいいようがないのである
それもようやく
終わりを告げたのだ
しかし
最後に摘み取った場所は
森の奥深く
ルドニの村まで
結構の距離がある
時刻は夕暮れ
夜行性の獣が
森を徘徊する時でもある
そこに人間が
それもか弱き人間の
少女がいるならば
獣の糧になることは必須
嗚呼、生命の危機は
刻々とエリカに迫っている――