家族のお守り
イヴェール祭の翌々日
エリカとレスターは
エリカの部屋で
旅立ちの準備をしていた
「えーと、服とかはこれでいいですか?」
「そうだね。このぐらいがちょうどいいよ。これ以上だと、他に荷物が入らないからね」
簡易で丈夫な
革製のリュックに
エリカは衣類を始めとした
旅の道具を詰めていた
「他には、携帯食料ですね?」
「うん、そうだね。人間って、飲まず食わずでも三日は生きられるけど、あるに越したことはないから」
「……レスターさん、前にそういうことがあったんですか?」
「……うん、あったよ……あの時はなんとか生きられたね……」
レスターは軽く悲愴な表情をしながら
遠い目をして呟いた
「……食料、切らさないようにしますね……」
旅に伴う最悪の状況の一つである
食料消失の恐怖を
想像したエリカは
食料確認をしっかりしようと
心に決めた
「あと、必要なの分かる?」
「衣類と食料と、水ですか?」
「そうだね。あと、簡易毛布も必要だよ。外で野宿する時は、風邪引かないようにしないといけないから」
「分かりました」
エリカはベットの上にある
毎日使っていた
粗末な毛布を折り畳むと
リュックの中に入れた
「あと、水でいいんですよね?」
「うん、大体の準備は終わったね」
旅の道具は色々ある
衣類、食料、水、毛布
最低限の荷物でも
四種類ある
そして、旅をしながら
生計を立てる職業では
行商人ならば売り物
傭兵団ならば武具
馬を扱うなら馬車も必要だ
値は張るが
屋根下で寝られるというのは
雨風を凌げるなどの
様々な利点に預かれるのだ
しかし、エリカとレスターは
馬車など無く
徒歩でしか交通手段は無い
「旅立つ時間までまだあるし、両親と話しをしにいく?」
「そう……ですね。最後になるかもしれませんし。悔いの無いように、していきたいと思います」
旅に出て、数年ぶりに帰郷したら
懐かしい故郷の様子が
様変わりしていたという話は
旅をするうえでの
覚悟でもある
不意にコンコンと
扉を叩く音が
二人の耳に入った
「エリカ、入ってもいいかな?」
「いいよ」
叩き主はエリカの父親
部屋主であるエリカの了承を得て
エリカの父親は
部屋の中に入る
「ちょうど良かった。これから、ご両親とエリカさんを交えて話そうと、伺おうとしたのですが、向かう手間が省けました」
「そうかね。そりゃ、レスターさんたちにとっても好都合だったようだ。エリカ、お前にこれを渡そうと持ってきたんだ」
エリカの父親の手には
緑色をした石に
穴を開け
麻紐を通して作った
首飾りが持ってあった
「これは……?」
「お守りだよ。旅の安全と私たちの想いが詰まった、ね」
それは子を想う親が
自身の子を
数多の災厄から守れるよう
祈りを込めながら作った
お守り
「お父さん、ありがとう」
エリカは嬉し涙を流しながら
父親に礼を言った
「エリカさん、そのお守り大事にしようね」
「……ええ、一生大事にします」
涙で濡れた首飾りは
仄かに黒みを帯びながら
主の温もりに包まれていた――




