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カーメルの処罰と公認式

聖人祭の翌日

村人たちはそれぞれの仕事の前に

村長の家へと集まっていた


「こんな朝から俺たちを集めて、いったい、なんだって言うんだ?」


「なにやら重要な報告があるらしいぞ」


「エリカとカーメルの付き合いが正式に決定したとか?」


「でもエリカって、カーメルのことを無視してたんじゃなかったっけ?」


集まり合った村人たちは

村長からの重要報告がどんなものか

それぞれ推理しあっていた

やがて、村長が青ざめた顔のカーメルとともに

彼らの前に姿を現すと


村人たちに重要な報告を

し始めた


「みなさん、朝からよく集まってくれたことにワシは感謝しよう。集まってくれたのは他でもない。昨夜、冬の聖人であるイヴェール様を称える祭に、この場におるカーメルがエリカに暴行を働いたのじゃ。これは、いくら掟じゃからと言っても許されることではない。カーメルにはそれ相応の罰を与えるとする」


掟という範囲内で

女性への暴行は

罰に値する


カーメルに下る罰に

村人たちはざわめき始める


「カーメルに下る罰はなんだ?」


「今まで、こういうのはなかったからねぇ」


「掟破りするとは、嘆かわしいな……」


「最近のカーメルは、色々おかしかったから、自業自得じゃないかね」


ルドニの村では

掟破りするものは

今までなかった


掟破りの処罰は

村長のみ知っており

村人たちは罪人が

どういう処罰を

カーメルが受けるのか

ざわめきの中で興味が生まれていた


「カーメルよ。掟破りの処罰として、お主にはミルジュと婿入りとして婚約してもらう」


「ええっ!? ミルジュってあのミルジュですか!?」


「そうじゃ、あのミルジュじゃ。掟破りを犯したお主に文句は云わせんぞ」


ミルジュとは、ルドニの村の娘たちのなかで

一番危険な家業――すなわち、鉱山掘りの仕事――

を営む家系の一人娘の名


その家系に入る男は

皆、鉱山掘りの仕事を

しなければならない


細身な外見のカーメルには

生活するために必要なだけの

筋肉しかついておらず


鉱山掘りの仕事は向かない

「……そ、そんな……」


だが村長は、掟破りの処罰として

カーメルに厳命した


確かに、情状酌量の余地が無いカーメルにとっては

相応しい罰だろう


「ボクはただ……エリカが好きなだけだったのに……」


いくら好きだからといっても

婦女暴行を犯そうとするのは

愚者がやることだ


「ミルジュと婚約か……」


「カーメル、大変だろうけど頑張れよー」


「んじゃ、エリカはどうなるんだ?」


「村長! エリカは誰と婚約するんだー!?」


カーメルの処罰を不憫に思うもの

とりあえずカーメルにエールを贈るもの

カーメルが好きだったエリカについて

村長に問うものなど


村人たちはざわめきだった


「静粛にするように!! エリカについては、もう決まっておる。エリカ、出てきなさい」


「はい、村長さん」


村長に呼ばれたエリカは

レスターとともに

村人たちの前へと現れた


「はは、これってなんか恥ずかしいね」


「あたしもです」


周囲に見られ慣れてない二人は

緊張しながらも笑っている


「あれって、旅人さんじゃないのか?」


「もしかして、あの二人って……?」


「なんだか二人とも、似合ってるわねぇ」


「うんうん、お似合いだ」


村人たちはエリカとレスターを見て


口々に褒め言葉を

出している


「昨夜、カーメルの罪をワシに報告してくれたのは、この二人じゃ。この二人は、旅人と村娘という立場じゃが、互いに愛し合っておる。ワシはレスター殿の強い決意に、エリカを掟で縛るのは間違いじゃと思った。ゆえに、エリカに対しては掟を無効にする。みなさん、異存はないかね?」


村長から村人たちへの問い

それはエリカを

掟という鎖から

解き放つことを

意味している


この問いに疑問を投げかければ

以後、己を除く村人たちから

白い目線で見られることを意味する


それは村という閉鎖社会では

異端が生き辛いのと

同様の意味を持つ


だからこそ

答えは明白と

言わざるを得ない


「「「「「「「異存は無し」」」」」」

「だそうじゃ。エリカよ、良かったの」


村の住人たちの賛同

それはエリカとレスターの仲を

阻むものは無くなったことを

意味している


「はい。ありがとうございます」


エリカは喜びのあまりに

目尻に一筋の涙を

流した


「最後に一つだけ、報告がある。レスター殿、あなたがこの村を立つ日はいつでしたかの?」


村長は確認のため

言質を取るため

ルドニの村の住人たちに

出発の時を聞かせるため

レスターに訊いた


「えーと、明日の昼ですね」

「旅にはエリカも付き添うと」


「そうです」


「あい分かった。みなさん、聞いての通りエリカとレスター殿は、明日の昼ルドニの村を立つこととなった。あまりにも早い別れじゃが、この二人に旅の無事と幸せを願うため、村人全員で祝福をしたいとワシは思う。エリカ、レスター殿、幸せに旅をしてくれ」


レスターの答えによって

村長の問いを通して

旅立ちの言質は

村人全員の耳に入った


そして村人たちは

二人を祝福するために

息を揃え合唱するように

手を前に構えて

笑顔で一言、叫んだ


「「「「「「二人ともお幸せに!!」」」」」」


パチパチパチパチパチ!!

パチパチパチパチパチ!!


大合唱と共に拍手が巻き起こる


ルドニの村の掟の一つに

祝いごとがある時は

村長を介して

村人たち全員が祝福するのだ


「ホッホッホ。良かったのぅ、エリカ。みんながお主のために祝福してくれている。この日を忘れぬようにな」


「はい、ありがとうございます」


「僕からもありがとうございます」


エリカとレスターは

村長と村人に

祝福の礼を述べた


「みなさん、ワシからの報告はこれにて終わる。祭りの後じゃが、怪我の無いように仕事するようにの。では、解散とする」


村長が締めの言葉を述べると

ルドニの村人たちは

それぞれの仕事へ向かうために

花の蜜を吸い終わったミツバチのように

集まりから去っていった――

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