家族団欒
「そういえば、秋頃からあった物憂いさが無くなったけど。あれって恋患いだったのねぇ」
エリカの母親が
茶々を入れる
「ちょっと! お母さんってば、そういうのはやめてよ! うぅ恥ずかしい……」
「あら、でも本当のことでしょ?」
「本当のことでも、言っていいことと悪いことがあるでしょ!」
物事は事実を述べていいときもあれば
悪いときもある
エリカの母親は
その区別がつかない
悪い癖があった
「ははっ、この人たちは面白いですね。旅をしていると、こういうやりとりは稀にしか見られないので楽しいですよ」
エリカと母親のやりとりを見たレスターは
笑い出した
見るとエリカの父親も
笑みを浮かべている
「そうでしょう? これが我が家の日常なんです」
十六年も続いた日常
それももうすぐ終わろうとしている
「ところでレスターさん、この村にはいつまでいる予定ですか?」
エリカの父親は
レスターの村の滞在期間を訊いた
「そうですね……明後日の昼頃までいようと思います」
つまり、明後日の昼には
エリカはルドニの村を
去るということ
「分かりました。明後日の昼頃までですね」
エリカの父親は
悲しみを宿した瞳で
頷いた
「レスターさんって、明後日まで、どこで寝泊まりするんですか?」
「あっ……それは考えてなかったな……」
「あら、そうなの? お父さん、家だとどこが空いてるかしら?」
「そうだな……レスターさん。この時間だと誰も来ないだろうし、医療室のベットで我慢してもらえないですかな?」
「いえ、野宿よりはましなので、ありがとうございます」
寝泊まり場所を失念していたレスターに
エリカの家族が
寝泊まり場所を提供し
それにレスターは礼を述べた
やがて、夜も更けはじめ
エリカは自分の部屋へ
エリカの両親は自分たちの寝室へ
レスターは医療室へ
それぞれの寝場所へと向かい
睡魔に誘われていった――




