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夏と夕海と海の家

作者: リンリン

はじめましての方もそうでない方もこんにちは!

爽やかさが出てるといいなぁ…

 同じコンクリートが延々と続く景色を、黙々と駆け上がる。汗が目に染みても、止まらずに走る。だって、その時間すらも惜しいくらいにあの場所にいたいから。あの場所が好きだから。

 長い、長い坂道を駆け上ると、その苦労を忘れ去れるくらい綺麗な場所が見えてくる。夏の汗をかいた肌に、潮のベタついた感触が纏いくし、大きく空気を吸い込めば、鼻孔を磯臭さが擽う。汗をかいた肌がベタつくのは好きじゃないし、磯臭いなんてもっての他なのに来てしまう。

 目の前にはキラキラと輝くディープブルーの海が広がっていた。頭上を真っ白なカモメが過ぎて行く。

 萩は額の汗を拭い、海岸に腰をおろした。幼い頃から千葉の母の実家の近くのこの海が大好きだ。夏休みの間は日焼けしたって皮が剥けたって平気だ。この土地の子供になりきる。

 萩は張りきってパーカを脱ぎ捨て、この夏のために買ったビキニを披露した。と、言っても千葉はまだ夏休みに入っていないためにこの海には人っ子一人いない状態なのだが。

「あー!」

 大きく叫んで海岸の岩からサーフボードと一緒に飛込んだ。すると水面から顔を上げた瞬間、すぐ隣に笑い声とサーフボードが目に入った。

「アハハハハ!」

 青年はボードを抱えながら涙を流して笑っている。萩は一瞬激しい羞恥を感じたが、同時に怒りが込み上げて、勝ってしまった。

「な、なによっ! 見ず知らずの女性を笑うなんて、無神経な人!」

 そう言って青年はどんな面かと顔を覗き込んだ瞬間にバッと目を背ける。真っ黒な目は同じ色の髪とあっていて、なんだか神秘的な印象を受ける。長い睫は女性かと疑う程の美しい顔立ちを更に引き立て、筋肉がついてホッソリした体つきには丁度よい感じだ。

「ごめん、ごめん。だってお前があまりに面白いから」

 青年はまだ笑いが止まらないようで、必死に涙を拭っている。

「大体、貴方が学生だよね? 千葉の学校はまだ夏休みに入ってないはずじゃ……」

「お前は学生じゃないのか」

 顔のわりに口の悪い青年だ、と思いつつ自分は決してサボりでは無いことを話した。

「ふーん。俺サボり」

「不良じゃん」

「まぁね」

 青年は手をグッと太陽に向かって伸ばした。萩はその横顔がちょっとだけ、かっこいいと思う。

「この海が好きなんだよ。時々学校サボってでも来たくなるくらい、好きなんだ」

 波風が頬を撫でた。青年はボードを持って沖に泳ぎだす。萩は仲間ができた気がしてもう少しだけ青年の事を知りたいと思った。

 結局その日は青年とはそれ以降話す事もなく、付き合いはそれっきりになったまま千葉の学校は夏休みに入った。

「萩ー! ほら、焼きそば12番に持って行きなさい!」

 夏休みに母の実家き帰る理由は、この毎年開く海の家にある。幼い頃からこの店の看板娘として働いてきたために萩がいないと寂しがる客がいるのだ。

「わーったから!」

 萩の祖母は優しい顔立ちとは裏腹に意外に人使いが荒い。

「イチゴみるくです」

 美味しそうに盛られたかき氷を置いて早々に立ち去ろうとする萩の手首を大きな濡れた手が引き留めるように掴んだ。

「!? は、離して」

「君……この前の子じゃね?」

 萩は黒髪の青年かと思い振り向くと全く別の金髪の青年が手首を掴んでいた。

「誰?」

「俺、君に一目惚れしたんだよね。ねぇ、遊ばない?」

 毎年手伝いに来てはナンパされる萩はこの手の輩が危険なことを知っている。

「いや、誰。アンタなんかに興味ないし」

「連れないなぁ」

「どーせセックスしたいだけでしょ。盛ってんじゃないよ!」

 青年の手を払い除けようとする。大抵のナンパ男はあそこまで核心を突かれると怯んで何も出来ないのだが、この青年は違ったようだ。

「ふーん。わかってるなら話は早いじゃん。おばさーん!」

「何だよ?」

「萩借りて良いですか? 俺、友達なんス!」

 さも友達かのように振る舞う青年に萩は訳がわからずに只呆然とするのみだ。

「わかったよう! うちも忙しいんだから、早いとこ返しとくれ!」

「なぁっ!?」

 待ってよおばあちゃん! そう叫ぶ前に萩は手を引かれて海の家を出ていた。

「ちょっ……痛っ……離して!」

「ダーメ! ほら、早くラブホ行くぞ!」

 だんだん近付くラブホテルに、もう駄目だと抗がう気力もなくした時だった。

「ソイツを離せ」

「んだ?」

 ホテルに入る直前に、金髪の青年の手首をほっそりした腕が、力強く掴んだ。「離せよ!」

金髪の青年は抵抗しようともがくが離れない。

「……あ!」

 そこには萩がこの前会った黒髪の青年がいた。

「離せ」

「テメェに関係ねぇだろ!?」

「コイツは俺の連れの彼女だ」

 前に会ったときの柔らかい雰囲気とは違い今目の前にいる青年の氷つくような声に萩は少しだけ圧倒された。

「ちっ。命拾いしたな、萩ちゃん。また迎えに行くから」

 ドンッと黒髪の青年の方に突き放され萩はよろける。金髪の青年は去っていった。

「お前……駄目だ。ついて行ったりしたら」

「ちがっ! 伊達に海の家の看板娘やってないし! そんなの知ってるの! でもアイツ……おばあちゃんに嘘ついて」

「ふーん。ついて来な」

 どうやら送ってくれるらしい青年は先々歩く。

「……」

 萩は青年は自分の事を忘れたのかと思い少しだけ寂しく思った。

「あー……お前萩って言うの?」

「そうだけど。アンタは?」

「さぁな」

「はぁ!?」

 普通名乗ったら名乗り返すでしょ!? と心中で怒鳴った萩とは裏腹に青年は有り得ない道を歩き出す。

「ちょ……ここって、屋根じゃん!」

「シーッ。見付かったら怒られるぞ」

「当たり前!」

 見付かるのも嫌なので小さく叫ぶ。

「そうそう。小さくな。いい子」

「ガキ扱いしないでよ!」

「お前中学生だろ。ガキじゃん」

「アンタもでしょ?」

「ハズレ」

 青年の正体は謎なまま、一旦止まった。見ればもう、街の中心まで来ていた。

「ここって、時計台?」

「うん。ほら」

 青年は海の方向を指した。次の瞬間萩は、感動せずにはいられなかった。

「き、綺麗……」

 それは夕日を浴びて橙色に輝く海だった。

「特等席なんだ」

「何で、アタシに?」

「お前も好きなんだろ? あの海が」

 青年と萩は夕日が沈むまで海を見つめていた。







 後程、萩を送り届けた時に萩が祖母にこっぴとく叱られるのを青年が全力で止めたのは当然である。

 萩が青年の名が、唯斗と言う事を知るのはまだ先の話。


 end


 今回、夏が書きたくなり(早すぎ!)書いちゃいました。下品な言葉なども一部(※ラブホなど)含みましたが、自分が中学生の時なんかも普通に使っていたので、今回はあえて使わせていただきました。

下品な言葉が苦手な方々には申し訳ないです。

では、またテーマ小説等でお会いしましょう!

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