第5章:クリスマスの風景-1
苑子のお願い。の巻
樹理ちゃんにも試食を協力してもらった結果、紅茶とチョコレートのケーキを焼くことにした。私はアールグレイが好きなんだけど、あの香りが苦手な人もいるからダージリンを入れることにした。
前日に、内藤さんからメールが来た。今まで、私が先に送って内藤さんが返信するばかりだったから、「内藤さん」のメール受信を見てどきどきしてしまった。
「明日の待ち合わせは、14時にあの本屋の前でどう?」
「わかりました。」シンプルなやりとりだけど、私の心は舞い上がりっぱなし。
クリスマスに片思いでも好きな人と約束があるって、なんだか幸せだ。
私が本屋に到着して、程なく内藤さんも現れた。外は寒いので、以前に二人でお茶をしたカフェに行くことにする。
それぞれ注文を終えたので、私は紙袋を内藤さんの前に置いた。
「あの、これ・・・紅茶とチョコレートのケーキです。お口に合えばいいんですけど」
「ありがとう。武内さんの作るケーキは美味しいから食べるのが楽しみだな。」
「そういう風に言ってもらえてうれしいです」
会話が途切れる。
ちょうど、各々注文したものが来たので、私たちは黙って飲み物を飲んだ。
内藤さんと一緒のときは沈黙が続いても全然平気。
「武内さんに、ケーキのお返しをしないとね。」内藤さんが口を開いた。
「お、お礼なんて、気にしないでください!」
「でも、もらいっぱなしだから悪いし。あ、武内さんの誕生日はいつ?」
「1月です」
「ちょうど試験だなあ」
「ですから、気を遣わなくていいですよ?」
「受験が終わったらになるけど、誕生日プレゼントを贈るよ」
「・・・あ。じゃあ、お願いがあるんですけど」
「ん?」
「内藤さんが、合格したら私にも教えてください」
「え?」
「ダメですか?」
「それは構わないけど、それだけでいいの?」
「はい」
「わかった。でも誕生日のプレゼントも渡したいから、何かほしいものってあるのかな」
“じゃあ、私と付き合ってください”なんて言えないし・・・。
「じゃあ、内藤さんの合格を教えてもらったら考えますね」
「受かること前提かあ・・・武内さんも言うね~」
「す、すみません」
「こりゃあ、絶対合格しないとね」真っ赤になって謝る私を見て、内藤さんが笑った。
カフェでしばらくおしゃべりをしたあと、久しぶりに同じ電車に乗った。
「ショッピングモールに巨大ツリーがあるんですけど、見ましたか?」
「でかいよね。いつも予備校の行きかえりに通りかかると見上げちゃうんだよ」
「私も、いつも見上げちゃいますよ。」
「予備校が終わるとね、ツリーが光ってるんだ。で、昼間にツリーの説明看板をみたわけ。そしたら8時から10時までライトアップしてるんだって。」
「そうなんですか。知らなかったです」
来年は、内藤さんと見られたらいいな。
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ケーキをわたして、少しだけ一緒に過ごす二人です。