-3:武内聡太の観察
聡太は見た!の巻
泰斗祭から数日後、「聡太先輩、来週の専心祭の食券もらったのですが、妹さんと一緒にどうですか」と内藤から食券の束を渡された。
「苑子と?」内藤がこんなこと言うなんて珍しいな。
「はい・・・この間のお菓子のお礼ということで。」
「あ~、あのケーキか」確かに、苑子の作るお菓子はうまい。ちなみに料理も美味いぞ。しかし、俺はあれから苑子の家庭教師と化している。ケーキの代償はでかかった。
「はい。」
「本人に美味かったって伝えてやれよ。電車で会うだろ?」
「い、いや・・・それはちょっと・・・」うわー、内藤が動揺している??
苑子は、本人が鈍いので自覚してないだろうけど、第三者から見ると内藤の事が好きなんだろうというのは丸分かり。
俺としては、妹に好きな男が出来たというのは何だか複雑な気分だけど、妹は見る目があるじゃん、とも思っている。無愛想で無口な奴だけど、内藤は信頼できる人間だからだ。
以前、内藤が苑子のことを「小動物みたいで面白い」って言ってたけど、この動揺ぐあいは認識を改めたんだろうか。気になる。
俺は目の前で「と、とにかく。食券をお渡ししますから来てください」と焦り気味の内藤が、何だか面白いので、俺は「ありがとう。苑子を連れて差し入れを持っていくよ」と受け取った。
苑子は出かけるまえのチェックに余念がない。俺たちと出かけるだけのときとは雲泥の差だ。兄ちゃんは少し複雑だぞ。
専心祭に行くと、内藤が正門で待っていた。まあ、内藤の性格からして券を渡しただけで終わりってことはないだろうと思っていたけど、正門で待っていたのには正直驚いた。剣道部の模擬店に向かうまでの間、二人と会話をしていて気がついた。いつの間に、内藤は苑子に話しかけるときの敬語をやめたんだろう。
その後も、苑子を見る剣道部の後輩に対しての、内藤の視線の厳しいこと。苑子に話しかけようとする部員たちが、皆ひるんで俺に挨拶し、苑子をチラッと見て持ち場に戻っていく。
その後も、内藤は苑子が人にぶつかりそうになると、さりげなくかばったりして、本当に伊織兄さんみたいだった。もしかして、内藤って伊織兄さんみたいなタイプか・・・守りたいものにはとことん過保護になるタイプ。一度、二人を会わせてみたいけど、同族嫌悪か類は友を呼ぶかどっちになるだろう・・・・。
だいぶ混雑してきたのと、内藤の当番の時間が迫ってきたので、俺たちは家に帰ることにした。その前に、俺は苑子だけをポップコーンを買いに行かせる。苑子はぶうぶう言ってたけど、俺には俺の思惑があるんだ。
戻ってきた苑子は相変わらず俺のことを勝手だと怒っていたが、内藤は俺がわざと二人きりにしたのに気づいたみたいだった。
苑子に聞こえないように「お前さ、剣道部の連中が苑子に話しかけようとするのを、邪魔しただろ」と内藤に言った。
「えっ。なんで知って・・・」内藤はちょっと焦って口をつぐんだ。
「いくら心配だからって、お前、過保護すぎ。」
「・・・・そうでしたか?」試合のときの鋭さなんて今の内藤には微塵もないな。こいつも普通の男だったか。
「それとも、小動物から別のものに変わったか?・・・ま、苑子が付き合う相手は、俺はお前ならOKだけど、伊織兄さんの攻略法は一緒に考えてやるからさ。」と俺は内藤の肩をたたいた。
内藤が戸惑うのをよそに、俺はなんだか楽しくなってきてしまった。苑子と内藤が付き合うことになったときの、伊織兄さんが見てみたいもんだ。
その後、俺は苑子から「なんで、そんなに機嫌がいいの?気持ち悪いなあ」と不気味がられてしまった。
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「家○婦は見た」ならぬ聡太は見た、です。