第2章:専心祭-1
苑子、へこんだり浮上したりする。の巻。
結局、私は制服を着て専心祭に行くことにした。
私は、いつになく何度も玄関の鏡の前で制服を見直した。髪の毛、OK。おろしたての紺色のハイソックス、OK。前日によく磨いた靴、OK。制服、リボン(ちなみに1年生はモスグリーンだ)、スカートのプリーツ、OK。
聡太お兄ちゃんに、現場を見られて「苑子、気合入ってんなあ~」と笑われてしまった・・・恥ずかしい。でも、内藤さんが案内してくれる(勝手に想像)かもしれないんだから、どうしても気にしてしまう。
途中で、聡太お兄ちゃんが剣道部への差し入れを買うのに付き合い、開始時間すこし過ぎた頃に専心館高校に到着。
「こんにちは、聡太先輩、武内さん」人で混み始めた正門に、内藤さんが立っていた。
「こ、こんにちはっ。」私はどぎまぎしながら、お辞儀をした。
「あれ、どうした内藤。彼女と待ち合わせか?」聡太お兄ちゃんが不思議そうに尋ねる。
彼女・・・そっか。内藤さんに彼女がいてもおかしくないよね・・・・私は、なんだか急に気合を入れた自分が恥ずかしくなってしまった。
「俺、彼女いませんから。先輩たちを案内しようと思って待ってたんです。先輩のことだから、混みあう前にくるかと思って・・・正解でしたね」と内藤さんが笑う。
「お。そうか。悪いなあ。俺はよく知ってるけど、苑子は知らないからな。助かるな。」
「内藤さん、ありがとうございます」私も聡太お兄ちゃんにならってお礼を言う。
すごい、樹理ちゃんの予想が当たったよ!! あと、彼女いないって言ってた・・・・一転、私は気持ちが浮上していく。
「じゃ、まずは剣道部に行くか。差し入れ持ってきたからな」聡太お兄ちゃんがビニール袋を持ち上げた。
「ありがとうございます。剣道部は今年、ポップコーン売ってるんですよ」
「昨年も、ポップコーンだったよな。俺、売った覚えがあるんだけど」
「昨年は塩だけでしたけど、今年は味が増えました。メープル味と塩の2種類です・・・武内さん、好きなの注文していいからね」
「は、はいっ。ありがとうございます」急に内藤さんに話しかけられて、動揺してしまった。挙動不審に見られたら、どうしよう。
正門から校舎入り口に続くメインの通路沿いに様々な模擬店が並んでいる。
剣道部は、ちょうど真ん中に模擬店を出していた。
聡太お兄ちゃんが顔を出すと、2年生や3年生(と思われる)は、「聡太先輩。お久しぶりです」と次々と挨拶していく。1年生も、先輩に続いて挨拶していく。
挨拶してきた部員に、聡太お兄ちゃんは、私を「妹だ。泰斗の1年生なんだ」と紹介するんだけど・・・・みんなの視線がなんか、がっかりしているみたい。
確かに、これといった特徴のない外見だからなあ・・・お兄ちゃんたちは、父に似て端正で精悍な顔立ちしてるから、母似の私とあんまり似てない。
やっぱり、内藤さんも私が残念な妹だと思っているのかな・・・そう思って内藤さんをチラリと見ると、私の横にいた内藤さんと目が合ってしまった。
「どうしたの?」内藤さんが不思議そうに聞く。
「い、いえっ。兄って剣道部で慕われてるんだなあ、と思って。」
「聡太先輩は、稽古中は厳しいけど普段は気さくだからね。家でも、あんな感じ?」
「うーん・・・家では、いつも伊織兄さんにやられっぱなし、かな」私は家での聡太お兄ちゃんを思い出してしまった。
「伊織さんって、どんな人?」内藤さんは、私たちの話しによく出てくる伊織お兄ちゃんに興味をもったみたいだった。
「優しくて頼りになる兄です。小学生の頃、私が男の子に泣かされると、必ず伊織兄さんがなぐさめてくれて。宿題や受験勉強もみてくれました。」私を泣かせた男の子は、翌日からちょっかいを出さなくなったけど、なぜか怯えているように見えた。
「へえ。」
「優しいのは苑子にだけ。伊織兄さんは、苑子には激甘。」いつのまにか挨拶が終わったらしく、聡太お兄ちゃんが内藤さんとの会話に割り込んできた。
「さ、あちこち見て回ろうか。苑子、ポップコーンはあとで買ってやるから我慢しろよ?」
「そうくん!!」もー、まるで私がお腹すいて我慢できないみたいな発言は止めてほしいっ。
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第2章から気持ちを自覚した苑子の一喜一憂が始まる・・・はずです。