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11.宴もたけなわ

11.宴もたけなわ



 表彰式も終わり、メンバーたちは今日の成績や成果について自慢したり、反論したり、話がはずんでいる。

 そんな中で、秋元だけは浮かない表情だ。 良介が「どうかしたんですか?」と聞くと、秋元は元気なく答えた。「ボウリングは向いてないなあ。 それにしても、馬券は当たったと思ったのになあ…」

「いいじゃないですか。 遊びなんですから」良介は慰めの言葉をかけた。

「こっちは生活かかってるんだぞ!」と秋元。 語気を強めて言う。 すると、井川が秋元を怒鳴りつけた。

「バカ言ってんじゃないよ! グダグダ文句言うくらいなら、はじめから参加するな」そう言って秋元の頭を引っ叩いた。 純と優子が井川を止めに入る。

「そう言うつもりで言ったんじゃないよ」びっくりした秋元が申し訳なさそうに言った。

そんな秋元を尻目に井川はさらに続けた。「俺なんか4位で賞品も何もねえんだぞ」 何だそれが本音か。 みんながそう思った。

 それを聞いていた志田が、井川に「それじゃあ、俺が貰ったのをやろうか?」その言葉が火に油を注いだ。

「俺より下手くそが取った賞品なんざ要らねえよ」井川は志田が差し出した映画のチケットを振り払った。 すると、チケットは志田の手から離れ、鍋の中へ落下した。

「あー!」中川が慌てて拾い上げる。 それを見た井川はさすがにバツが悪かったようで立ちあがってみんなに詫びた。


 青田は、会社に入って以来、ボウリング大会の馬券を全て当てている。「なんかコツでもあるのか?」志田が聞くと、青田はこう答えた。「まず、自分を買わないこと。 それから、新聞をよく読むこと」そう答えた。

 良介は「えっ?」と思った。「新聞って俺が書いたやつか?」そう聞くと青田は頷いた。

「この新聞はよく出来てるんですよ。 データはともかく、個人のコメント欄が参考になるんです。 たとえば、今回、小暮はどうしてもディズニーチケットを取って帰らなければならない状況だし、知美さんはハンデ。 それに今回、日下部さんと同じ枠じゃないですか。 僕は日下部さんが勝つと思ってましたから」と解説する。

「私もそうなんですよ。 日下部さんが優勝すると思ったから8枠から買ったんですよ」と知美。 良介も実のところ、今回は自信があった。 結果は散々だったが結果的には同じ枠の知美が2位に入って馬券が的中した。

「ふ~ん…。 そうか! 今度から俺にも教えてくれよ」と志田。 だが、実際その時になれば、青田の言うことなど聞かないのは目に見えている。


 今回のボウリング大会は、結果的に参加した女の子全員に何かしらの賞品が行った。 良介にとってはそれが何よりだった。 そして、宴もたけなわになると、志田が「そろそろか」と口にした。 良介はうなずいた。

「えー、それではみなさん、宴もたけなわではございますが、そろそろお時間になったようですので、この辺で中締めとさせていただきます」良介が言うと、みんな立ち上がった。

「それでは、中締めの音頭は、今日の優勝者、小暮君にお願いします」良介に促され、小暮が中締めの音頭を取り、その場を終了した。


 全員が店の外に出ると、二次会に行く者、早く帰る者に分かれた。 残ったのは、良介、井川、名取、小暮、今日子、秋元、純、本田の8人だった。

 名取がみんなの先陣を切って、8人入れる店を訪ね歩いた。 何件か訪ねて、8人入れる店を探し当てると、良介に電話を入れた。「日下部さん、黒木屋で場所を確保しました」

良介は、名取から連絡を受け、メンバーを居酒屋チェーンの黒木屋へ誘導した。 途中、井川が呼び込みの女の子に捕まった。 なにやら話し込んでいる。 そして、みんなを呼び止めると、その女の子が紹介した店に行くというのだ。

「いいじゃんか、飲み放題で一人一時間五百円だと」そう言って強引にみんなを引っ張って行った。

 良介は名取にそのことを報告をしようと電話をかけた。 『ただ今電源が入っていないか、電波の届かない場所に…』そう言えば、黒木屋は地下だったな。「まっ、いいか!」


黒木屋の10人用の席で待っていた名取は、みんながなかなか来ないので、先に生ビールを頼んだ。 ところが、飲み終わっても一向に来る気配がしない。 電話を取り出すと“圏外”だった。 電話をするために外へ出ようとしたら、店員に呼び止められ「一度清算して下さい」と言われた。 生ビール一杯分を清算すると、外に出て良介に電話した。

『ただ今電源が入っていないか、電波の届かない場所に…』「うわっ! マジかよ」


 女の子に案内されてきた店は地下だった。 店内は結構広く、なかなかいい雰囲気の店だった。 良介は携帯を確認したら“圏外”だった。 名取のことが気になったので、一旦外に出た。 心配して純も一緒に出てきた。 出た途端に電話が鳴った。 名取だ。

「どこにいるんですか?」どうやら怒っているようだ。『当たり前か』


 良介と純は名取と合流すると、井川達と違う店に入った。

「良ちゃん、いいの? 井川部長達」純が心配して聞いた。

「いいんじゃないか。 それに、あの店、さっき出てくるときに気が付いたんだけど、最初、一人一時間五百円で飲み放題だと言ってただろう?」良介が言うと、名取が食い付いた。「えー! そんなとこあったんですか?」良介は続けた。

「そうなんだよ。 言っておくけど、ここは割り勘だからな。 おまえ、向こうに合流するか?」

「そうですねぇ…。 二人の邪魔をしちゃ悪いですし、五百円の方がありがたいので」名取がそう言うと、良介はさっきの店の場所を説明した。

「俺たちは先に帰ったと言っておいてくれ」良介は名取にそう伝言した。

「それで、その店なんだけど、一人一時間どれでも一杯五百円って書いてあったんだよなあ」良介は人ごとのように言った。

「良ちゃん、それ教えてあげないとかわいそうだよ」純はそう言ったが、良介はこう続けた。

「名取に教えようと思ったんだけど、その前に行っちゃったからなあ」

「わざとそういう風に仕向けたんじゃないの?」

「いやあ、最後まで話を聞かないあいつが悪いんだよ」

「それもそうだけど…。 名取君かわいそう」

「いいさ。 名取にはさっきの馬券の金を渡したから。 それにスポンサーもいるから心配ないさ。 さあ、俺たちも長居しないで1杯飲んだら違うところに行こうか」

「もう、良ちゃんったらあ」


 井川達はピッタリ一時間で店を出ようとした。 清算をしてもらうと、一万円だった。 井川はそこにいる人数を数えた。 ひい、ふう、みい…。 6人だろう? ということはゴロク30で三千円じゃないのか? 井川は店員に食ってかかったが、丁寧に説明されると、自分が聞き間違いた事に気付いて、足りない分を自分で払った。 店を出ると、そう書かれた貼り紙が貼ってあった。「ちくしょー!」人通りも少なくなった路地裏に、井川の雄叫びがこだました。


 良介と純がタクシーに乗ろうとすると、どこかで聞いたような叫び声が聞こえた。 良介は一瞬、耳をすました。

「良ちゃんどうしたの?」

「いや、何でもない。 ちょっと耳鳴りが…」

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫」そう言うと良介は運転手に車を出すように言った。

 二人を乗せたタクシーの背後で、井川がまた雄叫びを上げた。



 

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