1.社長杯はいつやるんだ?
1.社長杯はいつやるんだ?
異常なほど暑かった夏が過ぎ、ようやく涼しくなってきた。 この時期になると、小林商事では毎年恒例の行事が行われる。
良介は、町会の祭りの後、年末に始まるプロジェクトの企画に追われて休む間もなく働いていた。
そろそろそういう時期だとは気が付いていたが、知らん顔をしていた。
毎年、良介が段取りしている恒例の行事。
どうせ、自分が言い出さなければ、誰もやらないだろう。
そんな折、企画会議が開かれた。 良介はプロジェクトの趣旨と企画の内容を報告した。
「というわけで、エンドユーザーの購買意欲を掻き立てることを最終的な目標としています。 すでに、インターネット上でCFをアップして宣伝を行っております」
報告が終わると、企画書を見つめている社長の志田の方を見た。
志田は穏やかな表情で企画書をテーブルの上に置くと、良介の方を見た。
「いいだろう。 このまま進めてくれ… ところで、もう一つの企画の方はどうなっているんだ?」
「もう一つの企画ですか?」良介は聞き返した。
志田は笑顔でうなずき、ボウリングの投球動作をおこなった。
「社長杯は今年もやるんだろう?」
「もちろんですよ」良介は苦笑いしながら答えた。
「いつやるんだ?」
「はい…」手帳を見ながら日程を確認するふり。
「今月末の金曜日です」
志田も自分のスケジュールを確認する。
「分かった。予定しておく」そう言うと志田は満足そうな笑みを浮かべて席を立った。
会議が終わると良介は喫煙所に直行した。
タバコに火を付けると、深呼吸するように大きく煙を吸い込んで吐き出した。
携帯電話をスライドさせてボウリング場の電話番号を呼び出しプッシュした。
すぐにボウリング場の予約受付係が出た。
「レーンの予約をお願いしたいのですが…」
良介が日程と人数を告げると、係の者が確認し、空いていると答えたので即答で予約を入れた。
携帯電話を切ると、もう一度、タバコを吸ってから深呼吸をして胸をなでおろした。
「まさか、社長から言い出すとは… 焦ったなあ。 空いていて良かった」