ゲームと現実の区別がつかない人がいるんだと思った話
「愛の無い結婚なんて、殿下がかわいそうじゃないですかっ!」
昼下がりの学園の廊下で、目の前の女子生徒が怒鳴りました。
いえ、女子生徒とは言いましたけど、彼女を知らないわけではありません。
ユーミル・ウィメック。去年、平民の母親が亡くなってウィメック男爵家に引き取られた男爵の庶子。地頭は良かったようで、引き取られて一年で学力がなんとか追いついたので貴族の子女が通う学園に入学してきた男爵令嬢です。
本来であればさほど関わり合いになることはないはずなのですが……。
なぜなら、わたくしはルシュギット公爵家の長女でこの国の王太子殿下の婚約者ですから。
こう言ってはなんですが、王族を除けばこの国で最も身分の高い貴族令嬢の一人です。この国に公爵家は四家あり、そのすべてに娘がいますが、年齢の釣り合いやその他諸々を鑑みて、王太子殿下の婚約者に据えられたのがわたくしです。序列で言うなら貴族令嬢の中では最高位と言えるでしょう。
そんなわたくしと、突出したところの無い男爵家の令嬢に共通点があるとすれば、同じ学園の生徒であることと女性であるということでしょうか。なんにせよ接点がそもそもありませんので、このように怒鳴りつけられる謂われも無いし、この場でわたくしが打ち据えてしまっても問題無いわけですけれども……。
「なんですの、あなた。無礼ではありませんか。まずは名を名乗りなさい! それにマージリア様を怒鳴りつけるなんてもっての外。あなたのような下位貴族の娘なぞが簡単に話しかけていい相手ではございませんのよ!」
お友達のご令嬢達がわたくしを守るために前へ出て、そう彼女に苦言を呈します。
まぁ、確かに公爵令嬢と男爵令嬢では身分に差がありすぎて、彼女が口を開くのにはわたくしの許可がいるのは事実ですわ。そうでなくともわたくしは現状、王太子殿下の婚約者ですから、元平民の男爵令嬢が気安く話しかけられる間柄ではありません。
「そ、そんなのおかしいです! 学園では身分に関係なく平等なはずです!!」
確かに校則にそのような記述はありますけれど、それはあくまで学業や成績の話でしてよ?
身分を笠に着て教師に成績の水増しや評価に手心を加えさせる者が学園創立当初に散見されたことでできた校則です。ひどい話になると、成績の良い下位貴族の子女に圧力を掛けたり、成績の取り換えを強要したり……。
ですので、学業においては身分は関係なく公平に公正に評価をするというのがこの学園の理念です。仮に不正を働く者がいれば、それも身分に関係なく処罰の対象となります。
それはそれとして、この国は身分社会でもあるため、学園に在籍中に身分に合った所作や考え方、マナーやルールなどを身に着けることも求められます。学園生である間ならば多少の失敗は許されますが、卒業して大人の仲間入りを果たせば少しの油断や失敗で身を滅ぼすこともあり得るのです。そうならないためにも、学園で学ぶことが重要なのですが……。
「おかしいのはあなたのほうですわ。もう一度、校則をきちんとお読みになってから出直してきてくださいませ」
「そもそも名乗りもせずに出会い頭に一方的に怒鳴るなど、身分の貴賤関係なしに相手に対して失礼なことだと思いませんこと?」
「そのうえマージリア様に意見しようというのですから。……まさかとは思いますが、あなたの言う殿下とは王太子殿下のことではありませんわよね?」
「でもこの方、マージリア様に『愛の無い結婚』とかおっしゃいましたわ。マージリア様のお相手は王太子殿下ですから……」
「まあっ! それでは男爵令嬢風情が王太子殿下のことを『かわいそう』などと憐れむ発言をしたということですの? なんて恐れ多いっ!!」
「あなた、何の権限があって王族の婚姻に口を出しますの? まさかご自分の身分を勘違いなさっているのではなくて?」
皆様が口々にそう言い募るので、わたくしの出番がありませんわ。ウィメック嬢も気押されています。
そもそも、なぜに王太子殿下との結婚について彼女から物申されるのか心当たりがございません。わたくしと同様、王太子殿下も男爵令嬢と昵懇になる機会などそうそうあるはずもありませんから。
同じことが気になったのでしょう。お友達の一人が疑問を彼女に投げました。
「そもそもあなた、王太子殿下とどのような関係ですの? まさか、お知り合いなわけありませんし……」
それに返ってきた言葉は耳を疑うものでした。
「ゆ、友人です! 殿下とは同じクラスで共同課題のグループも同じで……。だから、お話だってしたことあります!」
「「「「「「??????????????」」」」」」
「それは授業中の話でしょう? 課題についての打ち合わせや話し合いならば会話しても何の不思議もありませんけど」
「クラスメイトではあるでしょうけれど、課題グループのメンバーというだけでは友人とは言えませんわ」
「せめて、世間話や趣味のお話くらいはいたしませんと」
「あら、それでもお知り合い程度で友人と呼べるかどうか……。やはり、たわいもない、意味も意義もない会話を楽しくできてこそ友人なのでは?」
「一理ありますわね。ええっと、ユーミル……様でしたかしら? あなた、王太子殿下とそのような会話をしたことがおありですの?」
「友人と豪語するからには普段からしてらっしゃるのよね。でもおかしいわ、だって……」
王家から付けられた影の報告にはそのような内容のものはありませんでしたわ。
王太子であられるダリアン殿下とその婚約者であるわたくしには、婚約したその日から王室儀典に則って王家直属の複数人の影が付けられています。
将来の国王、王妃ですもの。少しの瑕疵もあってはならない、そういう存在ですから国王陛下が平等にわたくし達に影を付け、お互いの情報を交換しているのです。当然、その情報は国王陛下にも共有されております。
お互いの家族関係、友人関係、素行、学業成績などなど、それこそプライベートなんてあって無いようなものです。
そうやって手に入れた相手の情報の中に気になる項目があれば、まずは二人での話し合いの場を設けます。とはいっても、定例のお茶会の時にすることがほとんどですけれども。
この場合、不安や不満、心配事などの胸の内を打ち明けあって、相手への要望を提示しあったり譲歩しあったりなど、お互いをよく知り理解を深めるための行為となります。わたくしなどは、事前に頭の中を整理したり感情を落ち着けるための相談に乗ってもらうために、差支えない範囲でお友達にも情報共有することがありますわ。
国王、王妃としての資質に問題ありと思われる項目があれば陛下から注意喚起があり、改善が見込めないとなれば貴族院の会議に掛けられ、婚約の白紙撤回へと動くことになります。
ですから、ダリアン殿下がウィメック嬢と友人になったのであれば、殿下の影が陛下とわたくしに報告しないはずがないのです。
少なくともわたくしに届いている殿下とウィメック嬢の関係性の情報は、たったいま彼女が自分で言った程度のものでしかなく、そしてそれに該当する女生徒は他にもいらっしゃいます。課題グループは基本的に男女比が半々の八人で組まれるからです。
確かに、課題グループの仲間から友人へと関係が発展する場合もあるでしょう。ですが、殿下は聡明な方です。周りに誤解を与えないよう、特に女子生徒との必要以上の接近や不必要な会話をできるかぎり避けておられます。そのために、普段から殿下の周りには側近でありご友人でもある殿方達が侍っているのです。それは、わたくしも同様です。同じ理由からこうしてお友達がわたくしに侍ってくださっているのです。
ですから、殿下とウィメック嬢はクラウスメイトで課題グループの仲間なので顔見知り、それ以上でもそれ以下でもありません。
「し、してます、たわいもない会話っ!」
「まあ、例えばどのような?」
「あ、えっと、お天気の話とか、オルス通りにできた新しいお店の話とか、中庭の花壇のお花の話とか……っ!」
「それらに王太子殿下はなんとおっしゃってましたの?」
「え? あ、…………」
「もしかして、殿下ではなくリアージュ様かモンテルオ様かハーサム様が応じていらっしゃったのではなくて?」
三人とも、殿下の側近で課題グループのメンバーですわね。
「…………」
「では、王太子殿下からそういう話を振られたことはおありですの?」
「……………………」
なにも答えないということは、〝無い〟のでしょうね。
実際、報告にもありません。ウィメック嬢が殿下に話しかけるたびに側近の誰々が代わりに応じたという内容ばかりです。殿下はただ、それを眺めているか、そもそも関心を抱いていないかのどちらか。
ですので、ウィメック嬢が何をもってわたくし達の結婚を「愛が無い」と思い込んでいるのか、その理由が分かりません。
いいえ、心当たりが全く無いわけでは無いのですけれど…………。実際にダリアン殿下とわたくしの間に愛があるかどうかを知っているのは、それこそこの世に二人だけ。仮に愛が無かったとしても、お互いの側近やお友達、親兄弟は愛がある前提で動くものです。なぜなら、愛があろうが無かろうが、皆様やることは同じですもの。でしたらある前提で行動したほうが、なにかと都合がよろしいのですわ。
「…………で……ょ」
俯いてしまったウィメック嬢がぼぞりと呟きましたがよく聞こえません。
「え?」
お友達の一人が、反射的にそう聞き返すと
「なんでよっ!? なんでダリアンがあんなに塩対応なのよっ!? おかしいでしょっ!? リアージュもモンテルオもハーサムも、み~んな、おかしいっ!! 私はヒロインなのにっ!!」
いきなり大きい声で怒鳴り始めました。
いまにも掴み掛ってきそうなウィメック嬢を前にして、お友達が懐から笛を取り出して思いっきり吹きました。
ピイイイイイイィィィィィィィィィィィィィッ!!
突然の大きな音に、ウィメック嬢の昂ぶりが一瞬だけ止まります。その間に周りから男子生徒が三人駆けつけて、我に返ったウィメック嬢がまた激昂する前に取り押さえました。
この方達はきっと、わたくしに付けられた影の方達ですわね。男子学生の制服を着ていらっしゃいますが、学園生ではなさそうです。
「離してっ! 離してってばっ!! 離せって言ってんのよ、この野郎!!!」
ウィメック嬢が聞くに堪えない下品な罵声を上げます。まるで、このあいだ観賞した劇の場末の飲み屋の女役のようです。
わたくしはその様子に耐えられず、眩暈がしてふらついてしまいました。
「マージリア様っ!」
お友達の驚いた声が聞こえます。だけど、今のわたくしには彼女達に「大丈夫よ」と言うことが叶いません。気が遠くなっていきます。
ああ、そういえば彼女達はわたくしをウィメック嬢から守ろうと、前のほうに固まっていたのでしたわ。ふらついたせいで後ろに倒れそうなわたくしを支えようとしても、位置的に無理があります。
それではこのまま倒れてしまうのね。廊下の床に頭を打ち付けないように受け身を取らなくては。
でも、身体が思ったようには動いてくれません。このままでは身体のどこかを激しく打ち付けてしまいますわ。
そう思ったのと同時に気持ちだけは覚悟を決めました。痛いと分かっていれば、きっと痛みにも耐えられるはず。
ですが、わたくしの身体は途中で柔らかく受け止められました。
背中に感じるのは……。
「マージリア、大丈夫かい?」
焦ったような声に導かれて上を向くと、とても近い位置に逆さまのダリアン殿下の端整なお顔がありました。
……これって、もしかしなくても殿下が受け止めてくださったということ?
背中のぬくもりは殿下の胸ってことですの?!
ダンスの時でさえこんなに密着することなんてありませんのにっ!
たちまち、カーッと体温が顔に集中するのが分かります。
恥ずかしさのあまり身体が硬直してしまって、結局は殿下に後ろから抱きしめられる形で支えてもらいました。
どうやらお友達の吹いた緊急事態を知らせる笛の音を、影の方達以外に近くにいたダリアン殿下達も聞きつけて駆けつけてくれたようです。周りには殿下の側近の方々もいて、ダリアン殿下とわたくしを守るようにわたくしのお友達が、さらにそれを守るように殿下の側近達が囲ってくださっています。
「直答を許す。ユーミル・ウィメック、これはどういうつもりだ?」
なんとか気を落ち着かせたわたくしをお友達に任せて、ダリアン殿下が前に出てウィメック嬢に問いかけました。
そのお声はとても低くて冷たくて、静かですのに怒気を孕んでいるのが解ります。
「ヒッ! あ、あの……その……ち、違うの! 私はただ、ダリアンに幸せな結婚をっ! 好きでもない相手なんてかわいそうだからっ、わ、私はずっとずっとダリアンが推しで、あなたのことならなんでも知ってる! 攻略本も読み込んだし、ボイスドラマも何回も聴いた。公式ファンブックの裏設定ですっごく泣いた!
私だけっ! 私だけなのっ!! 本当のダリアンを解ってあげられるのはっ!!
ダリアンのファンは他にもいっぱいいたけど、あんな連中、全然ダリアンを解ってないっ! 設定の表面だけなぞって分かった気になってる人達なんて、同担拒否してあたりまえでしょ? ダリアンが嫌ってるマージリアなんて、問題外じゃん!
私なら、ダリアンを幸せにしてあげられるっ! 何度も何度もプレイして何回も何回も幸せにしてきた! どうすればダリアンが幸せなれるか知ってるのは私っ!」
殿方に跪かされて、両側と後ろから両腕と背中を押さえられて、その状態でよくこんなに叫べるものです。
わたくしは場違いにも、ウィメック嬢の蛮行ともいえる胆力に酷く感心してしまいました。ですが、この場ではとても悪手と言わざるを得ませんわ。
「誰が、誰を、嫌っているって?」
「だからっ、ダリアンがマージリアを、………………っ!」
必死に訴えていたウィメック嬢ですが、ようやく殿下の機嫌がすこぶる悪くなっていることに気付いたのでしょう。ヒュッと息を呑む音がしてからは顔を青ざめさせ、黙ってしまいました。
「ただでさえ訳のわからない妄言を吐き散らかした上に、僕や僕の側近達のみならず、マージリアまで呼び捨てにするとは……。学力はそれなりにあると聞いていたが、ウィメック男爵家では礼儀や作法を教え忘れたようだな。
今そのような体では、この学園では過ごし難いだろう。学園長と相談の上、男爵家に戻って一から礼節を学んではいかがか」
前方で放たれる冷たい言葉の数々は、自分に向いていないからこそ聞いていられますが、こんなふうに言われてしまいますとさすがにウィメック嬢に同情したくなります。
ですが、それは許されません。
ユーミル・ウィメックは、それだけのことを仕出かしてしまったのですから。
ダリアン殿下が頷くと、ウィメック嬢を押えていた影の方達が彼女を引っ立ててどこかへ連れて行きました。
こうしてこの度の騒動は終わりを告げたのでした。
その日の晩、わたくしは自室で一人、今日の出来事を振り返っていました。
ウィメック嬢も転生者だったのですね。
わたくしの他にもいるかもしれないとは思っていましたが、まさかあのような人物だったなんて……。
おおよそ予想はしていましたが、彼女の物言いから、やはりこの世界は乙女ゲームの世界のようです。
自分が異世界に転生したと自覚したときに、なんとな〜くそうじゃないかと思っていました。なぜなら、家族や周りの人どころか、街を行き交う人々……つまりはモブまで、やたら顔面偏差値が高いのです。
極め付けは婚約者となったダリアン殿下をはじめ、側近の方達の見目麗しいこと!
ただ、悲しいことにわたくしは前世で乙女ゲームをしたことがありませんでした。友人がプレイしているところを眺めたり、友人の話を聞いたりしていただけです。
ですから、乙女ゲームの世界かもとは思ってもそうでない可能性もあって、どちらか判断できないならそうでない可能性の方が高いと考えて行動したほうが、ここで生きていくには良いだろうと判断しました。
そこでわたくしは、ここで生きていく上での決まり事を自分に課しました。
それは〝社会のルールやマナーに準じる〟ということ。たったこれだけ。
大層なものでもなければ大仰なものでもありません。もっと言うなら、どこの世界だろうが関係なく、そこで生きるには大事なことです。
幸いにも両親も兄弟もわたくしを愛して大事にしてくれ、公爵家の令嬢として厳しくも温かく育ててくれました。
公爵家という高位貴族であれば特権階級に他なりませんが、それに伴う義務も大きいものですし、慈善活動の類などは義務ではありませんがやらなければ家格に傷が付きます。ノブレス・オブリージュというものです。
わたくし自身、公爵家の娘ではありますが爵位を持っているのは父です。わたくしそのものは何者でもありません。生まれのお陰で高度な教育を受けられ、身だしなみを整えてくれる使用人がいてくれるからこその今のわたくしです。
身分はひけらかすものではなく己を律するもの、と教えてくださった両親の期待に応え、学園に入学後は校則を守り、それを当たり前として振る舞ってきました。
そうして時の王太子殿下の婚約者に選ばれて、今があります。
もし仮に、わたくしがもっと下の貴族……男爵令嬢であったなら、やはり平穏に生き抜くために、男爵令嬢としての礼節を守り、上位貴族や王族を敬いながら過ごしたことでしょう。もし仮に何か理不尽なことがあれば、法や規則に沿って行動はするかもしれませんが、それが適わないほどこの国は理不尽でもありません。
だから……だからこそ、ユーミル・ウィメックの行動が理解できませんでした。
殿下の影から上がってくる報告の数々。
殿下とウィメック嬢が同じ課題グループになる前から、ウィメック嬢の殿下への働きかけはありました。
挨拶を待たねばならないのに先にする。やたらに話しかける。腕や肩に触れようとする。手作りの菓子を差し入れする。二人っきりになりたがる……。
全て、貴族の子女としては〝上位貴族にやってはいけない〟とまずは親から躾されることばかりです。ましてや、相手は王太子殿下。ダリアン殿下が温厚な方で、側近の方達が上手く捌いてくださっていたのでこれまで大事になってはいませんでしたが……。
今日の騒動は致命的でしょう。
わたくしに名乗りもせずに声を掛けたこと。怒鳴りつけたこと。王族の決定に正式な手順を踏まずに異議を申し立てたこと。王太子殿下を憐れんだ発言。わたくしに暴力を振るおうとした(ように見えた)こと。この世界の人にとっては妄言の数々。
何よりも、ダリアン殿下とわたくしの間に「愛がない」と決めつけて殿下を怒らせたこと。
普段からきちんとダリアン殿下を見ていれば、殿下がわたくしをとても溺愛しているのは判ったはずです。でもユーミルは判らなかった。
ゲーム内の二人は不仲だったから。
彼女は自分を〝ヒロイン〟だと言った。
それならば今までの彼女の行動も納得がいきます。
ユーミルはゲーム知識に沿って動いていたに過ぎないのでしょう。しかもダリアン殿下が推しキャラだったようですし。
きっと、やり込んだゲームの世界に転生して、浮かれていたのでしょう。そして、ゲームのヒロインに生まれ変わったのだからと夢を見てしまったのですね。
それにしても変質者級の執着と粘着です。前世でも生き辛そうな性格をしているという感想しか出ません。
今日の殿下のあの言い回し、ユーミルに伝わったかどうか……。きっと理解していないでしょうね。
殿下の、あの最後の言葉。あれは実質的な退学の勧告に近いものです。
もちろん、その権限は殿下ではなく学園長にありますが、影が作った報告書、側近の方達やわたくしのお友達の証言、そのほか目撃者等の証言などの証拠を学園に提出し、ユーミル・ウィメックの退学を嘆願するという宣言なのです。
ですから、それらの証拠を会議に掛けて、学園側がそれに相当すると判断すれば処罰されるのです。そしてユーミル・ウィメックの行動はこの貴族社会ではどうしようもなく処罰の対象となるものであり、学園生であるからこそ退学で済む、ということでもあります。
ああ、可哀想なウィメック嬢。己の愚かな行いのせいで、もう社交界にも出られません。王太子殿下どころか、貴族の令息に近づくことすら難しい立場になってしまいました。
三日後にはユーミル・ウィメックの退学が決定し、学園から姿を消しました。
そのあとは、平穏な日常が戻りました。
わたくしはお友達と仲良く授業を受け、ダリアン殿下と愛を育み、卒業後に結婚して王宮に入りました。
王宮入り後、わたくしは一通の手紙を認めました。
その手紙が送り先に届いたであろう時期に、ユーミル・ウィメックが自害した……ということを、その一週間後くらいに伝え聞きました。
本当にお可哀想なウィメック嬢。結局、彼女は現実を現実として受け止めきれなかったようです。
誤字報告、ありがとうございます。助かります。




