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【連載版】教師ですもの、当然ですわ~婚約者のいる生徒は、他者と適切な距離を保つことを心がけましょう~  作者: 赤林檎


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7.解雇されました

「マリサ嬢を受け入れてくださったこと、感謝いたします」

 わたくしは今、隣国であるヴィア王国の謁見の間にいた。

 ヴィア王国の国王陛下と王妃殿下が玉座に座っており、王太子殿下、第二王子であるアウレリオ殿下がその横に立っている。


 アウレリオ殿下は、わたくしたちがヴィア王国を発つ少し前に、ヴィア王国に呼び戻されていた。ヴィア王国の国王陛下が連絡帳を読んで、ミセリア王国を見限ったのよ。


 ヴィア王国の王族たちは、バターブロンドの髪に、新緑の色の瞳をしていた。王妃殿下も、元は公爵令嬢で王族だったらしいから、同じ王族カラーをされているわ。


 わたくしはマリサ嬢と共に、四人の前でひざまずいていた。

 真っ赤な絨毯はやわらかく、手入れが行き届いている。


 サウル先生は、ここにはいないわよ。ヴィア王国からの帰り道で、盗賊に襲われたらしいの。恐ろしいこともあるものね。

 サウル先生も、往路は当然ながら無事に過ごされたようね。

 だけど、帰路は、やっぱりそうはいかなかったわ。

 同じ道を通ったからといって、同じ結果にはならないのよ。


 サウル先生を襲った盗賊の名は――、おそらく『ヴィア王国の第二王子アウレリオ』。

 アウレリオ殿下は、ご自身の『王家の影』を通じて、わたくしがサウル先生をヴィア王国に派遣したと知ったはずよ。抜け目のない方ですもの。


「先生、お礼を言うのは私の方です。マリサ嬢を無事にここまで連れてきていただき、ありがとうございました」

 アウレリオ殿下がおっしゃった。

 ああ、本当にうれしそうだこと……。


「わたくしは、教師として当然のことをしたまで。真面目に勉学に励む者を守るのが、わたくしの務めですわ」

 マリサ嬢は優秀できちんとした生徒だったのだけれど、男爵家の庶子という身分のせいで、フラヴィオ殿下たちの標的となっていたのよ。

 そのせいで、ベアトリス嬢にまで目をつけられて……。

 さらに、そのことを相談したサウル先生にまでつきまとわれ……。

 マリサ嬢は、サウル先生に図書室の本棚の陰で襲われそうになったことまであるの。

 アウレリオ殿下は、そんなマリサ嬢を助けて、わたくしのところに連れてきてくれたのよ。


 わたくしは自分が借りた本を図書室に返却しに行って、サウル先生とアウレリオ殿下がヴィア王国語で言い争っているところを見てしまった。

 わたくしはヴィア王国語ができるから、内容を理解すると、すぐにその場を離れたわ。

 アウレリオ殿下に任せておけば、マリサさんの安全は問題なかった。


 ――あの時ほど、自分がただの貧乏子爵家の四女であることが悔しかったことはない。


 サウル先生は、五男とはいえ侯爵令息。わたくしが正面から戦って勝てる相手ではなかった。


 マリサさんはアウレリオ殿下の上着に包まれて、わたくしのところにやって来た。

 わたくしは震えるマリサさんを腕に抱き、覚悟を決めたの。


 ――わたくしが、本当に問題のある者をなんとかする。


 それが格上の侯爵令息様だろうと。

 宰相閣下の息子だろうと。

 王太子殿下の婚約者だろうと。

 大商会や騎士団長がついていようとも。

 王族だろうが、なんだろうが、関係ない。


 わたくしが、マリサさんを守る。


 元平民で、男爵家の庶子で、派手なピンクブロンドで――。

 だけど、人一倍努力家な子よ。

 いつも一人ぼっちで、放課後は図書室で勉強していたの。


 わたくしは、時に『王師』とも呼ばれる王立学園の教師。

『王師』には、王者の軍勢という意味もあると聞いたことがある。

 わたくしは、たった一人でも、弱き者のための軍勢となることに決めたのよ。


 それが結果として、他の真面目な生徒たちや、ミセリア王国を守ることにもなると信じて――。


「ミセリア王国の国王と王妃は、対処してくれなかったのですか?」

 王妃殿下がおたずねになった。


「わたくしの予想通り、マリサ嬢を排除するようにと言われ……。それは教師として、わたくしにはできないことです。ですので、貴国を頼ったのです」

 マリサ嬢が悪いなら、もっと簡単で楽だったわね。わたくしの仕事は、マリサ嬢を退学させたら、それで終わりですもの。


 ――マリサ嬢は、本当はクーラ男爵家の養女なの。


 クーラ男爵ご夫妻は、お子様に恵まれなかったのよ。だから、長年仕えてくれた老執事の孫娘が生んだ私生児を、男爵家の庶子としてお迎えになられたの。

 マリサさんの実母は、行方不明よ。マリサさんの実父を追いかけて、マリサさんを残して出ていってしまったの。

 クーラ男爵ご夫妻は、穏やかでやさしい方々だったわ。マリサさんのことも、とてもかわいがっておられた。

 わたくしの力及ばず、マリサさんを手放させることになってしまって申し訳ない……。


「ロザンナ先生も、ミセリア王国になど戻らず、こちらに残られては……? もっとお話したいことがあります」

 わたくしたちの横から、国王陛下の末の弟であるケルヴィン殿下がおっしゃった。

 ケルヴィン殿下は王命により、国境までわたくしたちを迎えに来てくださった方なの。ヴィア王国の王族らしいバターブロンドの髪と新緑の瞳を持つ、国王補佐官であり、王位継承権を持つ王弟殿下でもある方よ。お仕事が忙しすぎて、二八歳でまだ独身なのですって。


「先生、私からもお願いします」

 ああ、アウレリオ殿下まで……。

 わたくしの脳裏に、王立学園の生徒たちの顔が次々と浮かんだ。

 ドミンゴ君の婚約者だったエステラさんを始めとして、真面目に勉強に励んでいた生徒たちがたくさんいたわ。

 あの子たちは、これからどうなってしまうのだろう……。

 みんなが心配だけれど、わたくしはもう、ミセリア王国には戻れない……。


「わたくしも、先生がいてくれたら心強いです」

 マリサ嬢が小さな声で言った。

 そうよね。マリサ嬢も、知らない国で一人ぼっちは不安よね……。

 アウレリオ殿下は、マリサ嬢を気にかけてくれるだろうけれど……。

 相手はお世話になる国の王族ですもの。

 気軽に頼ったりできないわよね。


「お二人とも、ご家族が心配でしたら、こちらに呼び寄せても良いのですよ」

 王妃殿下のお気遣いも、とてもありがたかった。

 わたくしは、こんな王族のいる国で生きていきたいと思った。


 ――でも……。


 わたくしはアウレリオ殿下との縁にすがり、ヴィア王国に対し、すでに『いざという時は、マリサ嬢を受け入れてほしい』という厚かましいお願いをしていた。


 さらに、アウレリオ殿下は、わたくしが作ったチャンスを生かし、サウル先生を排除してくれていた。こちらは、わたくしがお願いしたわけではないけれど……。アウレリオ殿下は、わたくしの望みを叶えてくださった。


 その上……、わたくしまで、この国のお世話になるなんて……。

 厚かましいにも程があるわ……。


 ――こんなわたくしでも、ミセリア王国でも、ヴィア王国でもない場所で、また教師ができるかしら……?


 わたくしは自国の王族を相手に無茶をした結果、己の身を守ることもできず、国外追放になってしまった。

 愚かで……、不甲斐なくて……。

 それでも……。


「ロザンナ先生」

 ケルヴィン殿下が、わたくしの前まで来てくださった。わたくしなどの両手をとり、立たせてくださる。


「ケルヴィン殿下……」


「貴女がマリサ嬢を守るために、最後まで勇敢に戦い抜いたことは、ここにいる者全員が知っています。私は……、そんな貴女に早く会ってみたくて、出迎え役を買って出てしまいました。ロザンナ先生、遠慮する必要はありません。どうか、こんな私のためにも、この国にいてくれませんか?」

 ケルヴィン殿下は、わたくしの手を握り、少しだけ力を込めた。

 これでは、まるで愛の告白でもされているみたいではないの……。

 わたくしは自分の顔が熱くなるのを感じた。


「ですが……、わたくしは……、敗軍の将ですわ……」


「マリサ嬢を守り抜いたではないですか。貴女は、誰にも負けてなどいない」

 ケルヴィン殿下の声には、わたくしがこれまで知らなかった不思議な熱があった。

 なにかに誘われるように顔を上げると、ケルヴィン殿下の新緑の瞳と目があった。

 ケルヴィン殿下は、この時とばかりに、会心の笑みを浮かべられた。

 頭がくらくらするような、華やかで甘い笑顔だった。


 この王弟殿下は、ご自分の端正なお顔の使い方をよくご存知なのね。

 いまだ王弟殿下として、王位継承権を手放さずにいられるわけだわ。

 なかなか手強そうな方……。

 ええ、そうね。こういう方、嫌いではないわ。


「マリサ嬢だけでなく、わたくしまで受け入れていただけるとは……。心から感謝いたします」

 こうして、わたくしとマリサ嬢は、家族を呼び寄せて、ヴィア王国の民となったの。


 さらに、わたくしはマリサ嬢と共に、ヴィア王国の侯爵家の養女になったのよ。

 マリサ嬢はヴィア王国の王立学園を卒業すると、アウレリオ殿下に嫁いだの。

 わたくしもマリサ嬢から一年遅れて、ケルヴィン殿下の妻にしていただいた。


 アウレリオ殿下も、ケルヴィン殿下も、あまり強い後ろ盾のない妻を娶りたかったらしいの。王太子殿下や国王陛下の座を脅かす気がないことを、アピールしたかったのですって。

 実際には、アウレリオ殿下も、ケルヴィン殿下も、公務でも舞踏会でも、マリサ王子妃とわたくしにべったりで……。

 わたくしたちを妻に迎えるために並べられた言葉なんて、すべて建前だと知れ渡っていると思うわ。


 今では、わたくしは教育担当の国王補佐官なのよ。国王補佐官の仕事はとても忙しいけれど、気持ち的には王立学園の教師よりずっと楽ね。

 わたくしは、ヴィア王国の王立学園に優秀な平民のための特待生制度を作ったり、平民学校を作るための意見書を出したり、教師と学園事務員の待遇を改善したり……。

 国王陛下の強いご希望により、教師学校の教師もやらせていただいている。


 マリサ王子妃も、『王太子殿下がご即位されたら、国王補佐官になりたい』なんて言ってくれているの。


 ……ミセリア王国がどうなったかですって?


 内乱が起きて大変なことになっているわ。

 フラヴィオ殿下はずっとマリサ嬢につきまとって、ベアトリス嬢のことはないがしろにしてきたのですもの。ベアトリス嬢のご実家だって、終いには蜂起するわよ。

 わたくしはそういうことになってほしくないから、問題を学園内で上手く収められるよう、動いていたというのに……。


 ミセリア王国の国王からは、『マリサ嬢の付き添いが終わったなら、早く戻って来い』なんていう手紙や使者が何度も来たわ。

 自分から追放しておいて、なにを言っているのかしら?

 戻るわけないじゃない。

 わたくしが戻ったからって、どうなるの……?

 それで内乱が収まるわけないのに。

 もう遅いわよ。


 ミセリア王国が崩壊するのも時間の問題らしいわ。

 まあ、それも当然のことよね――。

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― 新着の感想 ―
完結おめでとうございます。 短編版で語られなかったところが描写され、物語の理解が深まりました。 ミセリア王家がアホなのが、謎のままですが() 連載版も面白かったです。
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