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8話

神騎士が異世界を謳歌する


8話


 俺達三人は奥深い森の更に奥にある一つ目巨人の集落の手前に来ていた。ここに来るには王都フィストアの城下街にあるポータルを使用して大地と森の都≪サーグス≫まで転移した後、更に丸一日ほど森を北へ進まなければ来る事が出来ない。あの時王宮闘技大会に出場する事を決意してから既に1カ月程経っていた。Lv60になったシーナは念願の上級職である守護戦士に転職し、今やLvも11まで上がっている。ミリアもあれからあらゆる戦闘にも愚痴すら零さず潜り抜けそろそろ転職が出来るLv48にまでなっていた。

俺はと言うと未だLv2だ。確かに今まではシーナとミリアに併せ、低いLv帯の魔獣ばかりと戦ってきたのだが明らかにLvの上がる速度がおかしいと感じていた。シーナとミリアのLvが相当上がっていることからも判るようにLv帯の低い魔獣ばかりを相手にしてきたとは言え、ここ1カ月かなり無茶なLvの上げ方をしてきた。どのくらい無茶を繰り返してきたかと言うと1日平均12時間は戦闘に没頭してきた。確かにこの1カ月の間、俺自身が魔獣と戦って苦戦する事は皆無だったが経験値としてはそれなりに稼いでいるはずなのだ。



 以前ゲームではLvの上がり方に法則があった。下級職と上級職のLvが上がる為に必要な経験値量の差は約2倍だ。最上級職では上級職の更に2倍になる。そしてLvが1上がるごとに稼がなければならない経験値は約1.5倍になっていくのだが俺達3人はパーティーを組んでいる為、戦闘の貢献度によって多少の差はあるものの経験値はほぼ均等に割り振られる。なのでLv1だった俺はLv3だったミリアのおよそ6分の1程度の速さでLvが上がっていくはずなのだが俺は未だにLvが1しか上がっていない。確かにゲームでは無くなった為Lvの上がる速度の定義は一概にどれくらいと言えるものではないが俺のLvの上がり方が遅々としているのは明白だった。なかなかLv1から抜け出せずにいた俺は酒場でLvが2になった事を確認できた時は余りにも嬉しくてシーナとミリアが呆れるほどに喜んだほどだ。今回は俺がLv2になった祝いも兼ねてシーナにとってもややLv帯の高い魔獣が跋扈するこの森までやってきたのだった。理由はこの森にいる『ブルオーク』という大型の豚人間からドロップするCランクの火属性の秘石狙いだ。既にここに来るまでの間に一つだけ手に入れていた。

ちなみに今回は一つ目巨人の集落の中に入る予定はない。一つ目巨人の集落にいる『サイクロプス』はAランクの秘石をドロップするのだが今のシーナとミリアには少しLvが足りない。しかもこの一つ目巨人の集落にはボスモンスターの≪レッドアイ≫が居る可能性がある。レッドアイは見た目は殆どサイクロプスと変わらないのだが、名前の通り眼が赤く強さはサイクロプスの2倍ほどのステータスを持っているのだ。もしレッドアイに出会ってしまったら神の名を持つ装備の恩恵がある俺はともかくシーナとミリアは瞬殺されてしまうだろう。

更に俺は未だに一度たりとも上級魔法を使用していない事を懸念していた。仮に俺の上級魔法の威力がレッドアイを一撃で屠れる程の威力があれば危険無く集落の中で狩ることも出来るのだが、今まで上級魔法を使用する機会すら無く、一度も使用した事がないのだからこればかりは何とも言えない。実のところ俺は、上級魔法を使う事が怖くなっていた。下級魔法ですら俺の予想をかなり上回る威力を持っていた為、上級魔法の威力を推し量ることが俺には出来ていなかったからだ。最悪仲間を巻き込んでしまう可能性を考えると安易に使用できない。その思いが更に輪をかけて俺に上級魔法を使う事を躊躇させていた。



 ここ1カ月に何度か感じてきた事なのだが、ゲームで俺がやっていた頃の戦闘と今俺が居るこの世界での実際に行う戦闘では、戦闘に対する意識が全く違っていた。戦闘自体、苦戦するわけでもなく今まで戦った魔獣はほぼ一撃で倒せる相手だったのだが、何よりも自分や仲間が命を賭けて危険と共に戦っている事が大きいのだろう。ゲームであれば当然のことながら、死んでも痛みもなければ恐怖もない。だがこの世界では全てが実戦であり、俺自身の痛みどころか仲間の痛みですら自分の痛みの様に辛く、恐怖を感じるのだ。確かにシーナもミリアもこの1カ月でかなり強くはなった。だが戦いによる命の危険は少なからずどんな時でも存在する。まだ短い期間しか二人とは時間を共にしていないが、それでも俺にとって二人はかけがえのない存在になっている。たかが一月の期間でも3人で寝食を共にし、笑い、励まし、命を預け合えば嫌でも信頼は生まれるものだ。とにかく俺は戦闘では二人が危険に冒される事態が起こらない様に気を配っていた。


だがそれは思いもかけないタイミングで起こってしまった。



 遭遇率が高いため一つ目巨人の集落の近くで俺達はブルオークとせっせと戦っていた。二人もブルオーク狩りに慣れてきた頃、5匹同時に遭遇したときのことだった。後方から来た3匹のブルオークは俺が引き受け集落側からきた2匹のブルオークの相手をシーナとミリアに任せていた。

俺は気合と共に3匹のブルオークに斬りつけたが、さすがに一振りで3匹に止めを刺す事は出来なかった。2匹は仕留めたが1匹のブルオークが逃げ出そうとした為、俺は〈ファイアボール〉の魔法を逃げようとしたブルオークに放つ。〈ファイアボール〉は相変わらずの威力で背を向けたブルオークを焼き焦がし、絶命させるとともに幾許かのジュエルを地面に残し経験値の淡い光と共に霧散させた。

俺が振り向くとシーナとミリアは集落の方に逃げ出したブルオークを追っていた。1匹は問題なくミリアの援護の元シーナが仕留めたがもう1匹を仕留め損なったらしくシーナは追っていた。


「深追いはダメです!」


とミリアはシーナに叫びながらそれでも援護すべくシ彼女の後を追っていた。その時悲劇は起こってしまった。



 手負いだったブルオークはシーナにすぐさま追いつかれ背を向けたままシーナの槍で一突きにされていた。少しの間ブルオークは抵抗するように自分を貫く槍から逃れようとジタバタしていたが、やがてグッタリするとそのまま霧散していった。シーナはそのままミリアの方に振り向くと大丈夫だと言わんばかりにそのまま槍を掲げて見せた。だがその背後にある大木の陰から3mはあろうかと思われる赤目の巨人がぬぅっと出てきたと思いきや、シーナに向かって大きな斧を薙ぎ払った。ミリアは驚愕の表情でそれを見ていたが声すら出す事が出来ずにシーナに向かって何かを掴む様に手を伸ばしただけだった。シーナは咄嗟に盾を構えた為、斧に直撃こそしなかったものの、余りにも強い衝撃に耐えきれず、5m程吹き飛ばされ木に背中から直撃した。

ガハッと言う咳と共に真っ赤な鮮血を大量に吐き出し、盾は拉げそれを持つ腕はあらぬ方向に曲がっている。虚ろな目をしたシーナはミリアに向かって


「来るな……」


とだけ蚊の鳴くような声で言い、そのまま意識を手放してしまった。


「いやぁあああ~~ぁぁぁ~~~~~~~~~~」


その光景を目にしたミリアの絶叫が森の中に響き渡った。ミリアはそのままがくがくと震える自身の足を叱咤し全力でシーナのもとに駆け寄る。そしてそのまま〈ヒール〉の魔法をかけ続けていた。俺は一瞬何が起こったか理解できず、呆然としながらただ見ていることしか出来なかった。

赤目の巨人はシーナとミリアの居る方向に向かって周り小さなの木々を薙ぎ倒しながら近づいていく。ふと我に返った俺は正に神速ともいえる速度で赤目の巨人に向かって走りながら咆哮した。


「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」


その声に反応したレッドアイは俺に向かって手に持っていた大きな斧を投擲する。俺は走りながら手に持った神剣で斧を全力で弾くとバリンとガラスが割れる様に斧は粉々に砕け散った。そのまま俺はレッドアイが立っている場所とシーナとミリアがいる場所の間に滑り込むように移動しレッドアイに正対する。そして俺は二人のいる後方に向かってSSランクの光魔法である〈ラピュチャフィールド〉を唱えた。二人のいる場所が半径2m程の光の円陣に包まれる。この魔法は全ての事象を断絶する領域を生み出す魔法である。領域の内と外を全ての事象に於いて完全に隔離する。簡単に言うと安全地帯を作る魔法だ。そして俺はそのままレッドアイに向かって左手を突き出し続け様に魔法を唱えた。


「〈ヘルフレア〉!!!」


ドンっと言う音と共に真っ黒な炎がレッドアイ足元から噴き上がり、高さ10m程にまで達する程の黒い火柱を上げた。その火柱の熱風で周りの木々が発火している。術者である俺自身にも熱波が押し寄せるが神兜【火迦具土(ほのかぐつち)】のお陰で何ら影響はない。10秒ほどで辺り一面を焦がし焼きつくすと全ての炎が火柱に収束し渦を巻いて、消し炭だけを辺りに残して地面に帰って行くように黒い炎は消滅した。レッドアイは影すらも残っていない。どういう訳かレッドアイが立っていたと思われる場所にジュエルとドロップした秘石が転がっていた。戦闘の終わりと共にシーナとミリアを包んでいた光の円陣も解除されていた。



 俺はすぐさま振り向きシーナとミリアのもとに駆け寄った。だが見た目は完全に治癒しているシーナにミリアは泣きながら〈ヒール〉をかけ続けていた。


「シーナが……シーナが呼吸をしてないんです!!傷はもう治っているはずなのに……」


そう言いながら尚もミリアはシーナに〈ヒール〉をかけ続ける。だが何度ミリアがヒールをかけてもシーナが眼を開ける事はなかった。




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読んで頂けると嬉しいです。


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