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6話

神騎士が異世界を謳歌する


6話


 街の入口には街道をふさぐような形で簡易的な関所が設けられていた。俺達が朝街を出るころには無かったはずなのだが、関所は何やら物々しい雰囲気で衛兵達が街道を通る馬車や通行人を止め、各々に話を聞いていた。関所の街側には既に長い行列が出来ている。シーナが関所の衛兵に何があったのか聞いてみると、どうやら王宮から皇子が攫われたとの知らせがあり、城下の各出入口で簡易的な関所が設けられ皇子とその誘拐犯を街から出さないようにしているようだ。

既に街中でも厳戒態勢が布かれているらしく、街の各所では小隊を組んだ衛兵達が警邏をしているらしい。俺も馬車の荷台でその話を聞いていたのだが目の前にいる皇子は大事になってしまったと小さな声で呟き、何やら苦い顔をしていた。しかし半裸のまま神妙な顔つきをしている為俺には笑いを誘っているようにしか見えなかったのだが。



 俺は馬車から降りて関所にいる衛兵に皇子を救出して馬車に乗っている事を伝えた。衛兵は馬車の中にいる皇子を確認すると件の携帯を懐から取り出し皇子の無事をどこかに報告し、皇子の身柄を預かってもいいか俺に確認してきた。俺が構わない旨を伝えると、皇子は半裸のまま衛兵と一緒に詰め所だと思われる所に行くようだ。

詰め所に行く際、皇子は俺達に対して優雅な仕草で礼を言っていたが、なにぶん半裸ではそんな仕草すら滑稽に見え、俺はただ必死に笑いを堪えるので精一杯だった。序に一緒に乗っていた盗賊達も馬車ごと引き取ってもらった。どうせ馬車なんか必要が無く拘束してあるとは言え、盗賊達といつまでも一緒にいることに嫌悪感を覚えていたからだ。皇子が詰め所に入った後、簡易関所は衛兵達の手で早くも撤去され始めていた。

先程話をした衛兵にここで暫く待っている様に言われたのだが、俺は思い出したようにミリアとシーナは皇子と一緒に行かなくてもよかったのかと二人に聞いてみた。シーナは今話すと長くなるから後で話すとだけ俺に言い、何故かミリアはすいませんと俺に謝っていた。

そうこうしているうちに城の方から大きな馬車が二台迎えにきた。そのうちの一台に皇子達が乗り込み、もう一台に俺達三人は乗ることになったのだが、俺は王族の馬車の乗り心地に感服していた。先程の馬車の荷台は人が乗る様には作られていなかったとはいえ、雲泥の差があったからだ。ほんの少しの時間乗っただけなのにお尻が痛かった先程の馬車の荷台とは違い、この馬車は殆ど揺れすら感じず滑るように街中を進んでいった。



 街のほぼ中央に位置する王城に到着すると王と謁見する手筈になっているらしく、謁見の用意が出来るまでの暫くのあいだ待合室の様な場所に通された。待合室行くまでの通路には、いかにもお城らしい煌びやかな装飾や豪華な調度品が随処に散りばめられており、初めてみる光景に俺は田舎者が初めて都会にでも来たかのようにいちいち驚きながら城の中を歩いていた。

ゲームの中でも王城は存在していたが、中に入る為には特殊なクエストを受けなければならず、殆どの時間を神騎士になる為だけに費やしていた俺は王城に入った事がなかったのだ。俺の後ろを歩いているシーナとミリアはやや呆れ顔で俺のことを見ていたが、初めて城の中に入ったのだからテンションが上がってしまうのはしょうがないじゃないか!と心の中で自分で自分に言い訳をし、周りの目を気にせず俺は初めての王城を楽しんでいた。

ちなみに王との謁見とか言っていたが緊張などは全くしていない。それどころかテンションが上がりすぎて、妙にハイな気分になっていた。

待合室に到着すると見たことも無い様な大きなソファーがいくつか置いてあり、床には何か熊っぽい動物の毛皮が布いてある。部屋の隅にはメイドらしき人が控えており、飲み物をお持ちしましょうか?と聞かれた為俺は適当にお願いしておいた。冷やした紅茶の様な飲み物が運ばれてきてので、それを飲みながら暫くシーナ達と雑談しながら待っていると、部屋の扉がノックされ用意が出来た為謁見の間まで移動するように言われた。



 謁見の間の扉の前では全身鎧を着込んだ兵が身の丈程もある槍を持ち立っている。扉を開けるといかにもゲームにありそうな雰囲気の謁見の間が目の前に広がっていた。無駄に広いその部屋は玉座までの通路に赤絨毯が敷いてあり、20人ほどの兵が部屋の左右の壁際に並んでいる。作法など知らない俺はずかずかと王の前まで進んで行ったのだが、シーナに小声で窘められ玉座の手前にある階段の下で足を止め、取り合えず頭を下げておいた。俺の左右にいたシーナとミリアは膝を付き頭を下げている。俺だけ立っている状態だったが王は別に構わないとう素振りをして俺達に楽にするように言った後、厳かな雰囲気で話し始めた。


「この度は皇子を盗賊の手から救ってくれ、本当に感謝する。ついては何か褒美を取らせたいのだが貴殿は何か望むものはあるか?」


俺は暫く考えたのだが特に欲しいものなど考え付かなかった。強いて言えばジュエルだろうか。ただジュエルを要求するのは芸がない気がして何かないものかと考えていたが、なにも思いつかないので思いついたことをありのまま言ってみる事にした。


「ん~別に欲しいものは今のところ余りないですね。強いて言うならジュエルですが、ジュエルも今のところ困って無いので必要ないかなと思っています。なんでも良いのであれば俺の横にいるこの二人に褒美をやってもらえないですか?」


そう言うと俺の左右にいたシーナとミリアは驚いたような顔で膝をついたまま俺を見上げた。俺は二人に向かってニッと笑い王の方に顔を戻すと話を続けた。


「俺はこれからこの世界のことを知る為の旅に出ようかと思ってます。だから余計なものは別に必要無くて。この二人に褒美を貰う権利を譲るのは可能ですか?」


俺がそう言うと玉座に座った王は大きな声で笑い出した。


「わはははは。面白い事を言う青年だ。では貴殿の望むとおりにしよう。してそこの二人、貴殿等は何を望む?」


シーナとミリアは顔を見合わせた後、シーナは小さな声で俺に言った。


「本当にいいのか?私達は何もしていないのだぞ?確かに私達に望みはある。だが出会って間もないのにこんなことをしてもらうのは些か気が引ける。」


ミリアも同様に俺に向かって困ったように言う。


「そうですよ。確かに私達は目的のために城を出て冒険者となりました。ですがミストさんにはお世話になっているばっかりで申し訳ないです。それにミストさんには私達が何を望んでいるのか、何故冒険者をしているのか話してませんよね?」


確かに俺は何故姫であるミリアとその護衛のシーナが冒険者を選んだ理由を聞いていなかった。だが姫と言う立場を捨ててまで冒険者になったのはきっと深い理由があると考えていた。しかも俺は王から貰う褒美に大した魅力は感じていなかった為、思い付きではあるが二人に褒美を譲ることにしたのだ。


「いいんだよ。俺は王からの褒美なんて本当に要らないんだ。というより今は本当に欲しいものなんて無いんだよ。俺はこの世界に来ることが出来ただけで……」


そこで俺は口を噤んだ。まだ誰にも俺が異世界からの訪問者だということは明らかにしていない。そしてこれからも誰にも言うつもりはない。今自分で言って改めて気がついたのだが、俺はこの世界に来ることが出来たことだけで今は本当に満足してしまっている。確かにほんの少しだけ望郷の思いはある。ただこの世界に来ることが出来た喜びの方がずっと大きいのだ。この異世界に別れを告げるくらいなら俺は元の世界に帰れなくてもいいとすら思っていた。

そして俺はこの世界で作ることのできた人との繋がりを大切にしたいと思っている。元の世界の俺はゲームの中以外では腹を割って人と接することなど殆ど無かったのだから……。



 暫く俺達が揉めるように話しこんでいると玉座の王は待ち草臥れた様に言った。


「何やら揉めているようじゃの。今すぐに決められないのであれば後日でも構わないのだがどうする?」


王の言葉にシーナはミリアと目を合わせゆっくりと頷いた後、覚悟を決めたような強い口調で王に望みを伝えた。


「王、我等の望みは半年後に行われる王宮闘技大会の参加資格です!ここにおります今は亡きミネア第3王妃の娘でありますミリア様に参加資格をお与え下さい!」


先程まで草臥れた様にしていた王は前に乗り出す様に姿勢を正し、大きく目を見開いて驚いた様子で俺達を見ていた。王の周りにいる兵士や文官などもざわざわと騒ぎ出していた。



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読んで頂けると嬉しいです。


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