4話
神騎士が異世界を謳歌する
4話
今回受注したクエストは城下街≪フィストア≫の北門を出て5km程行った場所にある森でよく出没する〈ワーウルフ〉の討伐だ。移動手段は徒歩。
この世界には騎獣と呼ばれる生物がおり、ポピュラーなところだと馬やランドドラゴンなどがいるとシーナが教えてくれた。他にもグリフォンやペガサス、小型の飛竜などを騎獣にしている冒険者もいるようだ。召喚士は召喚獣を騎獣にしたりもするらしい。
他にも時空間魔法で街同士を繋ぐ≪ポート≫と呼ばれる施設が街にはあるのだが、ポートを使用するのはかなり値段が張るらしく、稼ぎのある有能な冒険者以外はあまり使っていないとのことだった。
暫く歩いていると、俺の歩く速度がかなり早いらしくミリアとシーナは既に走っていた。俺自身は普通に歩いているつもりなのだが≪神靴 志那都比古の短靴≫の特殊効果で移動速度が上昇しているようだ。二人とも息が切れているので俺はもっとゆっくり歩くようにした。
小一時間程歩くと目的の森の入口に到着した。森の奥にはあり得ないほど巨大な木が立っているのが見える。この距離でも飛びぬけて大きいことが判る為、恐らく50m以上の高さがあるだろう。ゲームの知識から推測するとあの大木は≪ドワーフの護樹≫だ。
あの大木の麓に住んでいるドワーフは人間と友好的で、ランクの高い秘石を練成することが出来るため、装備を練成するときは必ずお世話になっていた。今日はドワーフに用はないのであの木の麓までは行く予定はない。
森には幅が5mほどの道があり通れるようになっている。この辺りはいかにもゲーム的だ。脇道に入って行く事も出来るが木と木の間隔狭いため剣を振る事が出来ないだろう。そのため脇道には入って行かないのが一般的らしい。ワーウルフもこの道に普通に出没する様だ。
ゆっくりと歩いていると脇道から4体のワーウルフが出てきた。こちらに向かって走ってくる。俺とシーナは腰に佩いている剣を抜き、ミリアを庇う様な陣形をとる。おもむろに一匹のワーウルフに向かって俺は魔法を唱えた。
「まずは魔法で先制攻撃する。二人とも俺の後ろに回れ!行くぞ!≪ファイアーボール≫」
直径50cm程もある大きな炎の玉が俺の掌から射出し、こちらに向かってくるワーウルフの先頭にいる一匹に直撃した。凄まじい爆発が起こり周りのワーウルフも爆発に巻き込まれる。4匹のワーウルフは力尽きる様にその場に倒れしばらくすると文字通り消滅した。
この世界の魔獣はゲームと同じように、死ぬと霧散して消滅するようだ。霧散したときにワーウルフから出たキラキラしたものが俺やミリア、シーナに吸収される。恐らく経験値だろう。パーティー登録している為だと思われるが経験値は三人に均等に分配されたようだ。
そしてワーウルフが死んだと思われる場所にジュエルが落ちていた。大した金額ではないが魔獣を倒すとジュエルが手に入るゲームでの仕様は、このような形でこの世界にも反映されているようだ。
俺は驚いていた。ここまで忠実にゲームの仕様が反映されているとは思わなかったからだ。この世界では腹も減るし、汗もかく。怪我をすれば血も出る。それなのに魔獣が死んだときに霧散するのは、なんだか納得がいかなかった。魔獣の遺体を道中見かけなかったのはこのような仕様がこの世界にはある為だったのだ。シーナに詳しく聞いてみると今更何を言っているのかといった口調で呆れられてしまった。
この世界に住んでいる者にとってはごく当たり前の認識らしい。冒険者の死んだ場合についてもシーナに聞いてみたが、冒険者が死んだ場合は話が違うようだ。端的に言うと冒険者は死ぬ。これはゲームの仕様は全く反映されておらず、普通に死ぬのだ。
ただし蘇生の魔法が存在するため、戦闘などで本人が寿命や病気以外の要因で死んだ場合、肉体が残っていれば蘇生の魔法で生き返ることが可能であるらしい。しかし蘇生の魔法が使える者などほとんどいないため、実際にシーナもミリアも蘇生した人を見たことはないとのことだった。
俺は蘇生の魔法を覚えている。Sランク光の秘石を使用して覚える≪リバイブ≫魔法のはずだ。ということは俺と一緒に戦闘をする者は俺が死なない限り死ぬことは無いということになる。
先程の戦闘で判ったことだが≪神騎士≫のステータスはかなり高い様だ。ワーウルフという弱い部類の魔獣ではあるが、Eランクの魔法である〈ファイヤーボール〉で4匹一度に瞬殺してしまう魔法攻撃力は、騎士の時には無かったと思う。せいぜい1匹か2匹倒すのが関の山だろう。魔法攻撃力は魔力に依存するため、この計算だとLv1の神騎士はLv255の騎士より魔力が高い計算なのだ。これからLvが上がっていったらどれほどの強さになるのか俺には想像もつかなかった。
このことについてはシーナやミリアも驚いていた。あんな威力の〈ファイアーボール〉は見たことがないらしいのだ。シーナはLv50程の≪魔術師≫と一緒にクエストを受けたことがあるのだが〈ファイアーボール〉は10cm程度の火球だったようだ。初級職であるとはいえ、魔術師は魔法に特化したジョブであるのにも関わらず、単純計算では俺の魔力の5分の1程度だということになる。
俺はなんだか少しだけ自分が怖くなってきた。強いことに越したことはないがあまりにも突き抜けた強さに、俺が本気を出したらどうなるんだろうと思ったからだ。
よほどのことがない限り上級魔法を使うのはやめようと、俺は心に決めた。
先程ワーウルフを倒した際に落ちていたジュエルを一応拾い集め、シーナとミリアにすべて渡した。分配しようとシーナは言っていたが、その程度のジュエルは俺には必要ない事を伝えて二人で分ける様に言った。
何のため周りを警戒しながらゆっくりと歩いているとさっきと同じように脇道から、今度は3匹のワーウルフがこちらに向かって走ってきた。今度は魔法で迎撃するのをやめて剣で対応する。
俺は走ってワーウルフの目の前まで行き、胴を薙ぐように斬りつけた。殆ど手応えもなくワーウルフは胴で両断され地面に倒れ霧散する。残りの2匹も反撃する間もなく一瞬で両断された。
なんとなく予想はしていたが俺は物理攻撃力も相当高いらしい。両断する時も豆腐を斬る様な感触しかなかった。剣にはワーウルフの血すら付いていない。
シーナとミリアには俺の動きが最初しか見えなかったようだ。二人には気がついたら3匹のワーウルフが両断され霧散していた様にしか見えなかった。
クエストのノルマである10匹討伐までの残り3匹はシーナとミリアに倒してもらうことにする。俺とシーナ違いをの強さの差を確認するためだ。俺はミリアを守ることだけに専念するをシーナに伝えた。
暫くするとちょうど3匹のワーウルフが脇道から出てきたため、シーナが先頭に立ちワーウルフを迎撃する。ミリアは≪プロテクト≫の魔法をシーナにかけ、シーナは1匹のワーウルフを槍で突いて攻撃している。3匹からの同時攻撃を受け少しだけ苦戦しているようだが、盾をうまく使っているため殆どダメージはくらっていない様だ。ミリアも後方から魔法でうまく支援しているようだ。一匹が俺の方に来てしまった為俺は剣で斬りつけ一撃で霧散させた。シーナも1匹倒したようだ。最後の一匹もシーナが応戦し、暫くするとシーナがワーウルフを槍で貫き霧散させた。
やはりシーナは俺のようにあっさりとワーウルフを倒すことは出来ないようだ。武器の違いもあるがLv50前後の戦士と比べても俺の物理攻撃力は段違いのようだ。正直なところシーナとは差がありすぎて俺の強さを測るための参考にならなかった。
シーナは肩口から少しだけ血を流していたがミリアが≪ヒール≫の魔法をかけて回復させた。二人とも少しだけ息を切らしていたがこの程度ならまだ余裕がある様だった。
クエストのノルマも達成したので俺達はさっさと城下街≪フィストア≫に戻ることにした。俺の強さを垣間見たシーナとミリアは尊敬の眼差しで俺のことを見ていたが、余計なことはあまり言いたくなかったため二人の眼差しを気付かない振りをしてやり過ごした。
俺は街に着いたら二人に色々聞かれそうで嫌だなぁなどと考えていた。
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