3話
神騎士が異世界を謳歌する
3話
目が覚めると見慣れぬ天井に違和感を感じた。そうだった、俺は異世界に来たんだったな。二度寝しようかとも考えたが、そんなことを考えている内に目が覚めてきたので起きることにした。
今日は酒場に行ってクエストを受注する予定だ。外もだいぶ明るくなっている。時間は相変わらずいまいち判らないが、窓から見える外の雰囲気から、そんなに遅い時間では無いだろう。俺は宿の中庭にある水場で顔を洗うと漸く完全に目が覚めた。
朝食を食べる為宿の食堂に向かうと、俺と同じ冒険者と思われる二人組が隣のテーブルで朝食を摂っていた。俺は呆けながらゆっくりと朝食を摂っていたが、隣のテーブルに座っている二人組みの女性の一人が俺の顔を見るなり何か気付いたらしく突然話しかけてきた。
「あの~昨日の冒険者さんですよね?ソルドさんと喧嘩していた…」
「あ~。あの酔っ払いってソルドって名前だっけ?あいつの知り合いですか?だとしたらすいませんね。昨日はいきなり絡まれたもんで成敗しちゃいました。」
昨日の事を思い出し、ついつい喧嘩腰な口調になってしまった。嫌な事を思い出すと口調がきつくなってしまう。俺の悪い癖だ。
「違うんです。昨日私もソルドさんに絡まれたのであなたがソルドさんを倒したとき、すっきりしちゃいました。あのソルドさんを一撃で倒すなんて凄く強いんですね。よかったらお名前教えて頂けませんか?私はミリアって言います。冒険者でジョブは≪神官≫です。まだ駆け出しなんですけどね…。ちなみにLvは3です。」
よく見れば昨日酒場であの酔っ払いに絡まれたときにやめた方がいいと忠告してきた女の子だと思う。神官か…俺はゲームの設定を思い出しながら考えていた。≪神官≫は回復専門のジョブで初級職だったはずだ。しかもLv3ということは本当に駆け出しなんだな。だとするとあの酔っ払い野郎に絡まれても何もできないだろうな…。などと素早く考えながら俺も自己紹介をした。
「昨日は忠告ありがとう。俺はミストと言います。宜しく。冒険者でジョブは≪神騎士≫。Lvはまだ1ですよ。」
この子、結構可愛いななどと思いながら自己紹介をしていると隣にいた戦士らしき人物も話しかけてきた。
「私はミリアの護衛をしているシーナだ。宜しく頼む。私も冒険者でジョブは≪戦士≫。Lvは53だ。≪守護戦士≫になる為修行中だ。昨日の話しはミリアから聞いた。あなたは随分強いそうだな。今度手合わせでもしてくれないか?」
戦士か…これも初級職だったはずだ。しかし随分Lvが離れているな。護衛というのもそのままの意味だろうか。ちなみに守護戦士は戦士の上級派生職で防御に特化している。戦士の上級派生職は他にも物理攻撃特化の≪狂戦士≫や平均的な能力の≪剣士≫などがある。戦士派生職は魔法を苦手とするがその分特化した能力値が他の職種と比べ非常に高い。判りやすい能力のため、ゲームでも人気のある職種だった。
「こちらこそ宜しく。今度機会があれば手合わせしましょう。」
そう言って俺は二人と握手を交わし暫くの間この世界についての情報収集のため雑談を交わした。大した情報得られなかったがこの二人の話しから推測すると、俺が思っている以上に秘石が貴重な品である事だった。この辺りの地域では秘石が殆ど入手できないらしい。
シーナの持っている槍はBランクの秘石を練成した槍らしく、大いに自慢をしていたが、俺にとって秘石は大して貴重なものではなかった。何故なら俺はマスタードラゴンばかり狩っていたため、あらゆる属性のSランクの秘石を併せて100個以上持っていたからだ。俺が今装備しているのも全てSSSランクの秘石から練成した装備であり、Bランク秘石から練成された槍が凄いとはとても思えなかった。冒険者であったとしても神騎士という名前は知っていてもその強さや神騎士になる為の条件などはあまり知られていないようだ。
ミリアとシーナは今日は二人でクエストを受注する予定らしい。Dランクのクエストを受注したらしいのだが、ミリアの護衛が一人しかいないため不安なのだとシーナは言っていた。昨日のうちに酒場でパーティーメンバーの募集をしていたのだが、ミリアが絡まれたり俺と酔っ払い野郎の喧嘩があったりしたせいで人が集まらなかった様なのだ。俺も今日はクエストを受注する予定だということを二人に話すと、話の流れで一緒に行くことになってしまった。
俺は今日は自分の力を試すためにクエストを受ける予定だったのだが、どうせ暇なので一緒にクエストを受注する事を承諾した。ゲームとは違う為、勝手がイマイチわからなかったのでパーティーリーダーはシーナに任せる事にする。適当に付いていってぱっと魔獣を討伐して帰ってこようと俺は心に決めていた。どうせDランクの討伐クエストなど大したことはないのだ。恐らくは昨日喧嘩をした酔っ払い野郎よりも手ごたえが無いだろう。
シーナが一時間後に酒場で待ち合わせでと提案してきた。しかし俺は時間が正確に判らない為そのことを伝えると、酒場で時間が判る道具を売っているらしい。待ち合わせ時間にはまだ大分早いだろうが早速酒場に向かうことにする。酒場に到着すると相変わらず冒険者で賑わっていた。俺はマスターのおねーさんに先程の時間の判る道具について聞いてみた。
「それなら10万ジュエルかEランクの時空間属性の秘石と交換よ。簡単に説明するわね。この時計という道具は太陽が出ている時間なら正確に時間を知る事が出来るわ。魔力を通すとこの真ん中 についている秘石が太陽の位置を図って時間が判るようになっているの。」
俺はEランクの時空間属性の秘石を持っているかどうか魔法のバッグを確認した。だがEランクの秘石などゲームではすぐに売り払っていたので持っていなかった。割高ではあったが10万ジュエルを払い時計を受け取る。形は少し大きめなブレスレットの様だ。真ん中に秘石が付いている。早速魔力を通してみると[9:15]と真ん中の秘石に表示された。まんま腕時計と同じだ。しかもデジタル表記だったので少し笑いそうになった。アラーム機能も付いているらしい。
そしてもう一つ。携帯電話もある様なのだ。マスターのおねーさんは今日入荷した事を教えてくれた。値段は100万ジュエルかCランクの時空間属性の秘石と交換。俺はCランクの秘石も持っていなかった。Aランクの時空間属性の秘石なら沢山持っていたので、交換できるかマスターに聞いてみたらとても驚かれてしまった。マスター曰く
「何個でも持って行っていいわよ~。」
とほくほく顔で言われたため、1個しか使う予定はないがせっかくなので3個ほど貰う事にする。この携帯電話は形も機能もまんま俺の知っている携帯電話と一緒だ。違うのは魔力で動かす事くらいだ。さすがににメール機能はないが、折りたたみ式で上半分に液晶画面のかわりだと思われる平たく加工された秘石が付いていた。暫く携帯電話をいじっているとミリアとシーナが酒場に入ってきた。
俺は早速ミリアとシーナに先程交換した携帯電話をあげることにした。シーナは既に持っているので必要ないといっていた。ミリアはこんな高級品貰うことは出来ないと言い張っていたが、俺も貰った様なもんだからと言って無理やり受け取らせた。余ってしまった残りの一つは必要が無いのでマスターに返した。二人と早速フレンド登録する。赤外線通信をするように携帯端末の魔力情報を交換するとフレンド登録出来るらしい。この世界ではチャットやフレンド登録はこの携帯電話を使って行うようだ。
通信の手段がないと不便でしょうがない為、ある程度の稼ぎのある冒険者はみんな持っているとマスターは言っていた。魔力を媒介にしているので通信出来ない場所は基本的には無いとのことだった。地底深くの迷宮ですらこの携帯電話はいつでもバリ3だ。
一通りフレンド登録が終わったのでマスターのおねーさんからクエストを受注し、出掛けることにした。今回の討伐対象は〈ワーウルフ〉10体だ。対象Lvは初級職ならLv40以上。〈ワーウルフ〉は簡単に言うと2足歩行をする武器を持った狼だ。知能はあまり高くないため魔法などは使ってこない。ちなみに討伐クエストなどでは証明部位を提出したりはしなくてもいいらしい。というのもクエストを受注する際にスフィアでLVを計るのだが、その際に測る経験値と魔獣を倒すと勝手に吸収される経験値から、倒した魔獣の種類や数を勝手にスフィアが判断してくれるらしいのだ。とても便利である。
確かにゲームでもステータス画面で討伐数など確認できたが、この世界ではそれと同じことをこの携帯電話で確認ができるらしい。クエストを携帯電話に登録して酒場のスフィアと通信をしておく。そして携帯電話に魔力を通すと俺の経験値の情報などを携帯電話が魔力から読み取り、酒場のスフィアと通信をして携帯電話に表示されるのだ。この携帯超便利だ。買っておいてよかった。
俺は感心しながら暫くこの新しい携帯電話をいじっていた。
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