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12話

神騎士が異世界を謳歌する


12話


「ところでシーナとミリアはどんな装備が欲しいんだ?」


俺がそう聞くとシーナが飛びつかんばかりの勢いで言った。


「もう欲しい装備は決まっているんだ!長年の夢だった『銘』付の装備をこんなに早く揃える事が出来るなんて夢にも思わなかったよ。本当に私達はミストに世話になってばかりだな。

このままではこれまでに受けた恩を全て返すのは大分先の話になってしまうがミストはそれでもいいのか?」


シーナは表情を面白いくらいに次々と変化させながら答え、それでも嬉しそうにしていた。夢とまで言わせるほどに欲しい装備がシーナにはある様だ。俺はシーナ達が喜んでくれるならそれでいいよとだけ答えておいた。どんな場合であれ人にプレゼントを贈って喜ばれるのは嬉しいものだ。

シーナとは対照的にミリアは顎に手を当て必死に頭を悩ましていた。


「……私はまだ決まって無いです。『銘』の入った装備なんて今まで想像した事もなかったので……。正直なところどんな装備を作る事が出来るのかでさえちゃんと判ってないんですよね。どうしましょうか?」


本当に困った様子でミリアはうんうん唸って考えていた。


「どうしましょうかって言われてもなぁ……ミリアは神官だし、これからいろんな回復魔法や補助魔法なんかを使っていくだろうから、回復魔法の多い光属性の装備で揃えたらいいんじゃないか?」


俺がそう答えるとシーナも付け加える様にミリアにアドバイスをする。


「私もその案に賛成だ。私は闇属性の装備で揃えようかと考えているんだ。光と闇属性は他の4属性に比べてバランスがいいからな。

それに全ての装備の属性を揃えるとその属性の特有効果が付加するらしい」


その話を俺達の後方で聞いていたドワーフのおじさんもうんうんと頷いている。

ちなみに各属性ごとの特有効果を説明すると、火は攻撃属性付与。通常の攻撃に火の属性が付与される。Sクラスの秘石では単純に物理攻撃力が1.5倍程になる。ただし火と水の属性の魔獣に対しては攻撃力が半減してしまう。

水は自然回復力の増強。土は腕力増強、風は敏捷増強、光は魔力増強、闇は体力増強のはずだ。少なくともゲームではそうだった。


「では私は光の装備一式にしようと思います。ミストさん、それでいいですか?」


ミリアはまだ若干迷っているようだがシーナの薦めもあり、ほぼ光属性装備一式で決まったようだ。シーナは相変わらずニコニコしながらこれから作成する装備に思いを馳せている。


「じゃあ早速装備の作成をお願いしよう」


俺は腰の袋から光と闇のSランクの秘石をそれぞれ6個づつ取り出し、俺たちの後ろに控えていたドワーフの職人に渡した。


「じゃあこれで二人の装備の作成をお願いします。俺は先に宿に行ってるから、二人は職人さんと作成する装備について話し合うといいよ。採寸なんかもしなくちゃいけないだろうしね。スリーサイズを俺に知られてもいいなら残るけど?」


「「!!!!」」


二人とも顔を真っ赤にして見事に絶句していた。ミリアは俯いて何やらぶつぶつと言い、シーナは何か言いたげに口をパクパクさせていたが、何か言われる前にさっさと退散することにした。


「じゃあ後は宜しくお願いします」


「おう。任せておけ。嬢ちゃん達に飛びっきりの装備をこしらえてやるよ。Sランクの装備を作るなんて久しぶりだしな。腕が鳴るよ」


とびっきりのいい笑顔でがははと豪快に笑っているドワーフの職人に後はすべて任せることにして、二人を残し俺はさっさと工房を後にした。


(さて、これからしばらく時間があるけど、どうするかな……)



 

 工房を後にしたのはいいが、俺は特に予定があるわけではなかった。ぶらぶらと周りを見渡しながら宿のほうに向かって歩いていると、後方からドタドタと盛大な足音が聞こえてきた。俺は咄嗟に振り向くが目の前には誰もいない。


「下じゃ!下!!」


下方に目を向けるとそこには年老いて白髭を蓄えているドワーフが俺を見上げている。


「俺になんか用でも?」


俺がそう聞くとドワーフのじいさんは俺の顔は見ずに腰辺りを見ながら、わなわなと震えて腰に佩いている剣を指差しながら言った。


「つかぬ事を聞くがの、冒険者殿。あんたの腰にあるその剣はもしかしてあれかね?……あの『草薙の剣』かね?」

 

「よく知ってるね、じいさん。この剣は『天羽々斬』とも呼ばれてる『草薙の剣』で間違いないよ」


俺がそう答えるとドワーフの爺さんは突然平伏して土下座の姿勢になった。


「冒険者殿。いきなりこんな事を言われれば迷惑であることを承知でお願い申し上げる。この老いぼれにその剣を鍛えさせてもらえはせぬか?わしは生涯をかけてその剣を探しておった。300年もの間ずっとじゃ。」


ドワーフの老人はその身体のどこから出たのかと思えるような大声でそう言い、顔を上げた瞬間に滝のような涙を零しながら必死に俺に懇願した。


「……詳しい話聞かせて貰ってもいいですか?」


俺とドワーフのじいさんはじいさんの家であるこじんまりとしているが実に立派な工房に移動して話を聞くことにした。

詳しい話の顛末はこうだ。


『草薙の剣』


この集落のドワーフに代々伝わる伝説の剣。

神々の時代にスサノオがイザナギから譲り受けたとされる八つ首の竜を屠った剣。

その剣は英雄と共に姿を現し、そして英雄と共に消えていくと言われている。

その剣を鍛えた者は鍛冶の最高の喜びを知るという。


爺さんは『草薙の剣』を見たことは無かったのだが感じた(・・・)のだそうだ。俺のこの剣が『草薙の剣』であるということを。そしてその直感は見事的中した。

この剣の見た目は、鞘や柄を含めけっして見事とは言いがたい剣だ。禍々しいまでの威圧感と切れ味を持ってはいるが、古めかしく金属にある筈の光沢も薄らとしかみえない。一見みすぼらしくもあるのだが、それでもこの目の前の老人はこの剣の本質を見抜いた。

老人は見た瞬間に雷に打たれたような衝撃を感じたらしい。この剣を鍛えるのは自分しかいないと思ってしまった(・・・・・・・)。そして自分の全てを投げだしてでもこの剣は自分が鍛えなければいけないと思ってしまったのだと言う。

俺は最初迷っていたが、爺さんの熱意に負けてしまった。剣の切れ味を損ねてしまうのではという懸念もあったため、正直この剣に手を入れることはしたくなかったのだが、爺さんの話ではこの剣はまだまだ中途半端なものらしい。伝承での『草薙の剣』は一振りで大地を割り、海を切り裂き、天を轟かすのだと言う。いわば今のこの剣の状態は封印状態らしいのだ。


爺さんは俺に『草薙の剣』を3日間預からせて欲しいと懇願した。

俺は腹を括って剣を腰から外し、爺さんに預けた。爺さんは目を輝かせ恭しく剣を受け取り、すぐさま奥の工房に入っていってしまった。


「3日後の正午に取りに来てくだされ。」


奥から爺さんの声が聞こえ、しばらくするとカーン、カーンと金属の鳴り響く音が響き渡った。

ここにいてもしょうがないと思った俺は工房を後にした。外に出ると既に日は沈み夕闇が辺りを包み込んでいる。剣を佩いていない腰に若干の違和感を感じたが、そのまま俺は宿に向かって歩き出した。



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読んで頂けたら嬉しです。


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