11話
神騎士が異世界を謳歌する
11話
Sランク以上の秘石を加工し装備を作るには3人で初めてクエストを受けた〈フィストア〉の北部の森の奥にある≪ドワーフの護樹≫の麓まで行かなくてはならない。ドワーフであればSランク以上の秘石を加工する事が出来るのだが、人間と友好なドワーフが居る場所は≪ドワーフの護樹≫の麓しか詳しい場所を知らなかった。他にもいくつかあるらしいのだが、いつも≪ドワーフの護樹≫の麓を利用していた俺は他の場所の情報を持っていなかった。
取り敢えず〈サーグス〉の街の中心部にあるポータルから王都〈フィストア〉に移動する。ポータルの使用料金は5000ジュエルだ。サーグスの街の宿が一人部屋で一泊800ジュエルという事を考えると割高である。しかし徒歩で移動するとなると丸3日程かかるがポータルを使用すればものの数秒だ。単純に移動の際の滞在費やその他の経費などを考えると、ポータルを使用した方が安全且つ経済的なのである。
だがポータルを安価に使用するには条件がある。それはポータルを使用するパーティーのメンバーの誰かがAランク以上の時空間属性の秘石をポータルに寄与していなければならないのだ。寄与を行うとポータル優待チケットなるものが貰え、安価にポータルが使用できる様になる。ちなみにこのチケットは永続的に使用可能だ。
俺は既にゲームの時に優待チケットを手に入れてあったので何の問題もないが、チケットを持っていない一般の人達がポータルを使用する際は10倍の金額がかかる。流石に毎回払う金額としては大きすぎる金額である。
だがLvの低い冒険者や冒険者以外の者はAランク以上の秘石を手に入れる事が困難であり、更にはこの世界では秘石がゲームの時よりもレア度が高く、買おうとすれば値段も張る為ゲームの頃よりは10倍という金額も妥当だと思えた。
俺達三人はフィストアの街のポータルを出るとそのままの足で≪ドワーフの護樹≫の麓に向かった。この時はまだミリアにもシーナにも行き先と目的を告げていなかった為、街の外に出るときは何やら訝しげな様子で頻りにどこへ向かうのか俺に聞いてきた。俺は二人はまだ行った事がないかもしれない所だが、間違いなく二人にとっても必要な場所だと言う事を伝え、詳しい内容については着いたら詳しく説明するとだけ言って内緒にしていた。折角だから驚かしてやろうと心に決めていたのだ。
≪ドワーフの護樹≫までの道中、何度かワーウルフと遭遇し戦闘になったが、一月前と比べると大分戦闘にも慣れ、肉体的にも精神的にも強くなっていた俺達3人は苦戦などする筈もなく麓に到着する事が出来た。
目の前には見た事もないような大木が悠然と聳え立っていた。余りの大きさに神々しささえ感じる。幹の太さは目測で直径20メートル程あるだろうか。高さは木の余りの大きさの為麓からでは計り知る事が出来ないほどだ。太陽から降り注ぐ強い日差しも≪ドワーフの護樹≫の麓では天を覆い尽くさんばかりの枝葉によって淡い木漏れとなっている。
そんな≪ドワーフの護樹≫をぐるりと囲むように小さな集落が形成されていた。建物は人間が住むものと比べると一回り小さい。建物の中からは金属を加工するような、カンカンといった音が聞こえ煙突からは真っ白な煙が立ち上っている。
その建物の周りでは身長が1mもない、ずんぐりむっくりとして髭を蓄えた、いかにも【ドワーフ】といった出で立ちの者達が手に金属の塊や見たことない武器や鎧などを抱えて何人も忙しそうに走り回っている。その中にはドワーフの女性や子供と思われる者もおり、その身長では考えられない程の重そうな大きな荷物を担いでいる者もいた。
ドワーフばかりではなく冒険者もちらほらと見受けられる。俺達と同じようにドワーフに秘石の加工をしてもらう為にここへやって来た者達だろう。数人のグループで来ている者もいれば一人で来ている者もいる。真新しい武器を掲げて嬉しそうに眺めている者もいた。
ミリアとシーナはここへ来たのは初めてらしい。二人はうきうきした様子で周りの様子を見ていた。特にシーナはドワーフや周りの人達が持っている武器や防具を見て、レアな装備だと言う事が判るらしく、より一層気分を高揚させていた。
俺達三人は早速秘石を加工してくれるドワーフのもとへ向かった。そのドワーフが居る場所は≪ドワーフの護樹≫の一番近くにあり、この集落のほぼ中央だ。周りの建物と比べて2回りほど大きな建物で、中に入ると所狭しと武器や防具が陳列されている。中には明らかに呪われているのではないかと思われるような禍々しい造形の盾や、どんな大男が使うのかと思う様な巨大な大剣等が雑多に並べられている。
シーナは我を忘れて大小様々な武器や防具に魅入られたかのようにゆっくりと近づいていき、まるで少女がウェディングドレスを見ているかのようなキラキラとした目でそれらを見ていた。
ミリアに言わせるとシーナは所謂武器マニアらしい。その中でも自分が使用している槍については事の他詳しい様だ。今も槍が陳列されている場所の前で真剣な眼差しで唸っている。そういうミリアも何か見つけたらしく異様にそわそわしていた。どうやら目の前にある神官用の杖に心魅かれている様だ。
そんな二人を見て俺は嬉しく思った。ここに来た甲斐があるというものだ。だが今回はここに陳列されているものを買うつもりはない。何故なら秘石から加工して作成した武器や防具は自分の『銘』を入れる事が出来るからだ。
本来『銘』というものは作成者の名が彫り込んであるものを指すのだが、この世界での『銘』はその武器が自分専用のものである事を指す。当然ながら俺の装備も『銘』が入っている。『銘』が入っている装備品は『銘』が入っている本人しか装備する事が出来ないのだ。もし『銘』が入っている装備品を本人以外の者が装備すると、10分の1以下の性能に落ちてしまう。この仕様は装備品をマーケットで転売できなくするためのMMO故のものであるのだが、何故かこの異世界でも適用されていた。
この異世界で装備に『銘』が入っていることの利点は、装備を盗まれる心配が少なくなる事がまず一つ。そしてもう一つ、これが一番重要なのだが『銘』の入った装備は自分の身体に適応するようになるのだ。
目の前に居るドワーフも言っているが『銘』を入れる事は装備に命を吹き込む事であるらしい。自分の魔力を装備品に溶け込ませることで『銘』は入れられるのだが、それによって『銘』を入れた者を装備品が認識し、仕様者の身体つきに併せて装備が変形するのだ。これが『銘』を入れた者以外は装備する事が出来なくなる最大の理由である。
1ミリ単位で『銘』を入れた者の体型に完全に変化するため、使用者にとっては最大限の使用感を齎し、それ以外の者にとっては下手をすれば物理的に装備すらできないのだ。
ちなみに『銘』を入れる事の出来る装備品はSランク以上の秘石から加工した装備品に限られる。である為、今俺達の目の前に並んでいる装備品は全てAランク以下の秘石から作られたものであり、これらはすべて量産品と同じだ。専用に作られたものではない。
俺はシーナとミリアに今回ここに来た理由を話す事にした。二人に『銘』の入った装備を作ってもらう事である。秘石は俺が全て出す事を二人に伝えると案の定凄い勢いで遠慮されたが、これは俺の安心のためでもある事を伝え強引に納得してもらった。
俺の話を聞いたシーナは先程遠慮したにも関わらず、これから作成する装備に思い浮かべて今まで見た事もないような笑顔になっていた。ミリアもシーナ程ではなかったが嬉しさを隠す事が出来ずにいる様だ。今にも二人で小躍りせんばかりである。
俺はそんな二人の様子を見て、ここに来てよかったと改めて感じていた。
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読んで頂けたら嬉しです。