10話
神騎士が世界を謳歌する
10話
「何故……??」
神官であるミリアは俺の呟いた疑問の答えを知っていた。ミリアの説明ではこうだ。ゲームの中とは違い、この世界では〈リバイブ〉の魔法は奇跡の魔法とされている。
確かに大神官や大司教といった高位の神官はこの魔法を使用することは出来るのだが〈リバイブ〉の魔法を行使することは多くの場合犠牲を伴うとの事だった。未熟なものが使用すれば行使した本人の命を脅かすことさえ稀ではないのだ。だから多くの者は〈リバイブ〉の魔法を好んで使おうとする筈も無く、成功例どころが使用例ですら極端に少ないらしい。そういった意味では俺が命を落とさず、Lvが下がっただけで済んだのはある意味僥倖と言えた。
その話を聞いて俺は少なからず背筋に冷たいものが走った。確かに良く考えれば安易に命を左右できるような力を一人の人間が持ち得る訳が無いのだ。この異世界はゲームとは違う。街にいる人々もそれぞれが意思を持ち、考え、生活し、愛するものを守るため、自分自身の未来や栄光のため、一人一人が精一杯に生きている。ゲームの中で同じ事しか話す事の出来ないNPCとは訳が違うのだ。
俺は心の底から自分の幸運に感謝した。今後恐らくはこの話を聞いてしまった以上、余程の事態が起こらない限り〈リバイブ〉の魔法を使用することは無いだろう。この話を一緒に聞いていたシーナの顔色も一気に蒼褪めてしまっていた。だが蒼褪めた顔のままシーナは俺と目が合うとゆっくりと口を開いた。
「ミスト、本当に済まなかった。そして感謝している……ありがとう。だがもし今後同じような事態が起こったとしても〈リバイブ〉の魔法を使うのは辞めて欲しい。この二度目の命を与えて貰った私はミストにこの恩を返せそうにない。」
そう言って苦笑いし、俺が返答に困っているとシーナは俺の目を見つめ続けて言った。
「だからミスト、お前が望むなら私は出来る限りお前に協力する。お前が望むものは私は全て是とすることを誓おう。」
シーナがそう言い終わるとミリアも話し始めた。
「私もミストさんには本当に感謝しています。多分シーナがあのまま死んでいたら私は後を追っていたと思います。シーナは私にとって家族と同じなんです。
いえ、今はたった一人の家族なんです。シーナが誓いを立てた以上、私もその誓いを立てましょう。」
そういって二人は凛とした表情で俺のほうを真っ直ぐ見つめて来た。二人がこんな事を言い出すとは全くの予想外だった。
「う……弱ったな…………二人の気持ちは嬉しいけど感謝の気持ちだけ受け取っておくことにするよ。俺なんかに誓いなんて立てる必要ないから。
こう言っちゃあ何だけど、俺がシーナを助けることになったのも本当に軽い気持ちだったんだ。だって〈リバイブ〉がそれほどの魔法だってことも今知ったんだから。そんなに感謝されちゃあ逆にこっちが恐縮しちゃうよ。……詳しいことは後で話すから取り敢えず場所を移そう。こんな場所で話す内容じゃない様だしね。」
そう言って周りを見回すと酒場にいた冒険者達は一斉に此方から目を逸らした。流石に話に入ってくることは無かったが周りの連中は俺達の会話に聞き耳を立てていたのだ。その雰囲気を感じた俺達はそそくさと酒場を後にした。話すにはどこがいいかと少しの間思案したが宿屋位しか思い付かなかったため俺達は先程来た道を戻ることにした。
宿に戻ると主人は俺達の顔を憶えていたらしく、どうされましたか?と聞かれたが俺は何でもないと答え、部屋を取る事が出来るか聞いた。流石にこの時間から部屋が埋まっていると言う事は無く昨晩と同じ3人部屋を取る事が出来た。部屋に3人が入ると、早速シーナが話し始める。
「ミスト、私達がお前に協力する事はお前にとって然程必要ないっていう事は判っている。だがどうしても私はお前に少しでも恩を返したいと思っている。迷惑かもしれないが私に出来る事はこれくらいしかない。」
シーナとミリアは既に決意しているようだ。朝話し合っていたというのも恐らくはこの宣言をするための話し合いだったのだろう。
「シーナもミリアもよく聞いてくれ。俺は単純に3人で旅をする事が楽しいと思っているんだ。仲間が傷ついたら助けるのは当然だろ?だから俺はシーナを助けた。それ以上でもそれ以下でも無いんだ。だからもし俺の願いを聞いてくれるというのなら、今まで通りで居てくれた方が俺は嬉しい。それに闘技大会まで協力するって約束したしね。」
俺は二人にそう言って笑いかけた。
「ミストさんがそう言うのなら仕方ありませんね。これからも迷惑かける事があると思いますが宜しくお願いします。」
ミリアは俺に向かってペコっと頭を下げた。シーナはまだ納得のいっていない様子だったがこれ以上言ってもしょうがないと思ったのだろう。
「そうだな。無理強いする事でもないか……だがこれだけは約束してくれ。〈リバイブ〉は危険だ。あの魔法を使ってお前の命が無くなったら眼も当てられない。使うなというのはおこがましいかもしれないが、出来れば使って欲しくない。」
俺も出来る事なら〈リバイブ〉はもう使いたくなかった。あの壮絶な痛みは正直耐えがたい。今回は運が良かったがそれこそ死んでしまう可能性すらある。
「判った、約束するよ。その代わりと言ってはなんだけど一つだけ俺のわがままを聞いて欲しい。これから俺と一緒にある場所まで来て欲しいんだ。着いてくれば判ると思う。」
俺は昨日考えていた事を実行する事にした。それは二人に俺が出来うる限りの最強装備を整えて貰うことだ。幸い秘石ならある程度は持っている。俺が秘石を出す事に二人は快く思わないだろうがこればっかりは俺としても譲れない。
SSランクの秘石は余り持っていないので流石に今回使う気はないが、Sランクの秘石から装備を作れば二人の安全はある程度確保できるだろう。本当は二人が最上級職になったらSランクの秘石から作った装備をプレゼントしようと思っていたのだが……
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