9話
神騎士が世界を謳歌する
9話
シーナの前でパニックになっているミリアを諭し、シーナの首筋に指を当て脈を取ってみたが、まだ体温はあるものの既に心肺は停止していた。心なしか顔色もどんどん悪くなっているようだ。こんな筈ではなかったと思いながらも俺はすぐに蘇生魔法〈リバイブ〉を使うべくシーナに掌を向け魔法を唱えようとしたときだった。
理由はわからないが背中にゾクリと冷たい物を感じ、咄嗟に振り向いたがそこに何かある筈も無く、あるのは涙でぐしゃぐしゃになった顔で此方を不安そうに見つめるミリアだけだ。何故背中に冷たいものが走ったのか判らなかったがそれよりも、少しでも早くシーナを助けてやろうと俺は先程の違和感を頭の隅に追いやり魔法を唱えた。
「〈リバイブ〉!!」
瞬間今まで感じたこと無いような強烈な痛みが俺の身体中を駆け巡った。俺は立っている事も出来ずその場に蹲ろうとしたが、それすらも許されず全身がひきつけを起こしたように硬直し動くことも出来ない。それどころか声すら上げる事も出来ず、全身の骨が折れた様な錯覚を感じながら気を失いかけたその時、シーナに向けて突き出した俺の掌から強烈な輝きを発する光の玉がシーナに向かってゆっくりと放たれた。放たれた瞬間俺は痛みから解放された。
光の玉はシーナの胸の中央辺りにゆっくりと吸い込まれると、シーナの身体から魔獣を倒したときに身体に入ってくるようなキラキラとした光が大量に放出され大気に霧散していく。その次の瞬間シーナがゆっくりと眼を開いた。
「私は……一体……???」
シーナは周りをきょろきょろと見ながら自分に起こったことが判らないでいる様だった。そんな様子のシーナに俺の後ろにいたミリアが飛び付く。
「シーナ!!!……良かった……本当に良かった……」
そのままミリアはシーナの胸に辺りに顔を埋め尚も泣きじゃくっていた。シーナが無事助かったことを確認すると俺はそのまま倒れ、意識を手放してしまった。
気が付くと俺はシーナに背負われていた。シーナは俺を背負いながらミリアと一緒に森を抜け、既に≪サーグス≫に向かう街道まで出ていた。運よく道中で魔物に襲われることも無くここまでこれたようだ。俺はシーナにもう大丈夫といって背中から降ろして貰い、ミリアとシーナに話を聞いた。
俺が気を失った後、ミリアは俺に〈ヒール〉をかけようとしたがシーナに多量の魔力を使用してしていたため、既に魔力切れを起こしており立っているのもやっとな状態であった。何が起こったか判らないでいたシーナもミリアから詳しい事情を聞き、身体の奥のほうに違和感を感じながらも、3人の中では一番動く事が出来た為、俺を背負い警戒をしながら森を出てきたのだ。魔物と出会わなかったのは不幸中の幸いというしかない。この状態で魔物と遭遇していたら3人とも命が無かったに違いないだろう。
何はともあれ俺達3人はなんとか街までたどり着くことが出来た。俺も先程の魔法を使用した後遺症なのか、身体中に強い疲労感を感じていた。気を抜くとまた気を失ってしまいそうな状態だった。
ミリアとシーナも完全に疲労困憊な様子で3人で亡者のような雰囲気を出しながら、足を引き摺る様にして何とか宿屋に辿り着くことが出来た。
宿は混み合っていた為、俺達は3人で1つの部屋に泊まることになったが、そんなことは気にならない程疲労していた為文句も言わずに部屋に入った。俺はそのまま鎧も脱がず倒れこむようにベッドに横になり、そのまま眠ってしまった。
余りにも寝苦しかったかった為眼が覚めてしまった。腕時計を見ると深夜の3時だ。とりあえず鎧などを全部脱ぎ捨て身軽な格好になった。さすがにシーナもミリアもベッドで寝息を立てている。窓から外を見ると空には煌々と光る月が出ていた。
改めて今日、正確には昨日の出来事を思い出して、とんでもない一日だったな……と一人呟いてしまった。二人を危険な目に合わせてしまったどころか、シーナに至っては本来ならば取り返しの付かないことになっていたのだ。この世界が魔法のある世界で本当に良かったと心の底から思えた。もし魔法が無かったら、俺に力が無かったらと考えると改めてゾッとした。
もう二度と二人を危険な目に合わせることの無いよう俺はある決意をしてもう一度眠りに付こうとベッドに向かった。だが眼がさえてしまい、暫くの間二人の寝息を聞きながら眠れないでいた。それでも疲れは完全に抜けていなかったせいか、知らぬうちに深い眠りに落ちていた。
「ミストさん!起きて下さい!!もうお昼ですよ~!」
そう声を掛けながらミリアが俺を揺すっている。どうやら寝坊してしてしまったらしい。昨日感じていた身体の違和感は既に取れてはいるが寝すぎてしまったため、なんとも気だるい寝起きだった。窓の外は既に日が高く昇ってしまっている。
俺は急いで身支度をしてミリアが用意してくれた朝昼の食事をいっぺんに済ますと早速3人で出掛ける事にした。話を聞くと実はミリアもシーナも流石に疲れていたのか、いつもならこんな時間まで寝ていることは無いのだが俺が起きる1時間程前まで寝ていたらしい。俺が起きるまでの1時間の間、二人で昨日のことについて話し合ったようだ。話し合った詳しい内容については教えてもらえなかった。
とりあえず俺達はこの町の酒場に向かうことにした。ここ1ヶ月、街にいる間は朝一番で酒場に行くことが日課になっていた。クエストを受ける為でもあるのだが、それよりも最初に酒場に行く理由はLvを確認するためだ。自分の強さや力を計るための指標が今のところLvしかない為でもあるのだが、そろそろミリアの転職できるLvも近づいてきているため最近は特にこの日課を欠かさない様にしていた。
酒場に着くと、ここのマスターである髭を生やした老紳士風の男がいつもの様に無愛想に出迎えてくれた。あくまでも一度視線を此方にやるだけでそれ以上は声すら掛けてこない。だからこその【無愛想な出迎え】である。
俺達は早速マスターに一声だけかけてLvを計るスフィアに手を翳す。まずはミリアがスフィアに手を翳すとLvは56と表示された。流石に昨日レッドアイの経験値がミリアにも加わっているため、かなりLvが上がっていた。小躍りしそうなほどミリアは喜んでいる。次はシーナだ。シーナがスフィアに手を翳して表示された数字は10。やはりゲームと同じように復活をした後はLvが下がってしまうようだ。所謂デスペナルティというやつだ。
俺は何となく予想していたがシーナは初めての体験であった為自分のLvが下がっていた事が始めは理解できないようでいた。俺が恐らく……と付け加えてデスペナルティについて説明をすると何とか納得したようだった。あの時シーナが眼を開ける直前にシーナから発せられた光芒は恐らくデスペナルティによる経験値の光なのだろう。
そして最後に俺がスフィアに手を翳した。まだLv2かな?などと思いながらスフィアに表示された数字をみると、何故か1と表示されていた。
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