プロローグ
神騎士が異世界を謳歌する
プロローグ
いつも通りパソコンの前に座り、俺はゲームをプレイしている。
俺のお気に入りのゲームの名前は【ロストグローリー】
ゲーム内容は世界中に散らばる秘石と呼ばれる魔法石を集めるため世界中を旅をするゲームだ。
秘石を手に入れると封印されている様々な魔法を使えるようになる。剣や杖、鎧、盾などに秘石を埋め込むことができ、装備を強化することもできるのだ。秘石にはランクがあってE~SSSまでありSSSランクの秘石ともなると、マーケットでの取引価格は5億ジュエル以上にもなる。
自慢じゃないが俺はこのゲームのために仕事を変えた。今はほぼニートみたいなもんだ。収入は月々ぎりぎり生活できる程度の稼ぎしかない。でもいいんだ。β版の頃から毎日10時間以上【ロストグローリー】に費やしていたお陰で、とうとう念願の『神騎士』に転職することができるのだ。
騎士のLVを255まで上げ、更に条件を満たすと転職が可能なジョブなのだが、この条件がとんでもなく厳しいため今まで誰も神騎士になったものはいない。
ちなみに騎士は兵士の上級派生職でLVが60を超えると神殿で転職ができる。神騎士になる為の条件とは特殊な鎧、兜、靴、盾、手甲、剣を揃える事なのだが、これらを揃えるのはかなりの時間と手間が懸かる。
何故なら各装備を練成する毎にSSSランクの秘石が必要になるからだ。最低でも6個のSSSランクの秘石を集めないと装備を練成することができない。しかもSSSランクの秘石であれば何でもいいわけではなく、それぞれ異なる6属性の秘石を手に入れなければならないのだ。
このゲームの魔法属性は大きく分けて6種類あり、火、水、土、風、光、闇がある。他にも召喚魔法や時空間魔法などもあるのだが、これらは特殊魔法に分類される。魔法は魔力によって威力に差が出るのだが、基本的にどのジョブでも使用することはできる。ただし魔力のステータスが低い職業の場合、魔法は使用できるが効果が低い。
騎士はほぼオールマイティなジョブで特化した技能がない代わりに物理攻撃も魔法攻撃もそこそこに使えるジョブだ。騎士からの上級派生職には魔術騎士や戦騎士
他にも召喚騎士などがある。それぞれのジョブに転職すると特化した技能が与えられ、ステータスがジョブによって特化していく。
はっきり言って俺も何度も魔法騎士に転職しようとおもったかわからない。神騎士を目指して秘石を集めている間、当然Aランクの秘石やSランクの秘石も手に入る訳で、すべて魔法を覚えるために使用したり、既に魔法を覚えている秘石については売り払ってSSSランクの秘石を買うための資金にした。
お陰で魔法騎士でもないのにあらゆる属性の魔法は覚えてしまった。
ただ属性ごとの極大魔法はSSSランクの秘石を使用しない限り覚える事はできないため、1つも覚えていない。SSSランクの秘石のドロップ確立は悪すぎると思う。龍種の中でも最強のマスタードラゴンを倒さないとドロップしない上に、そのドロップ確率は正確な数字は定かではないが1万分の1とも言われている。しかもLV100以上の最上級職のパーティを6人で組んでも負ける事もあるのだ。俺も何度死んだかわからない。
結局これまでにSSSランクの秘石は自力では2つしかドロップしなかったため、マーケットのオークションやアイテムトレードでもう2つは手に入れた。アイテムトレードではやっとの思いで手に入れたSSランクの秘石20個とトレードした。オークションでは値段が吊り上がり7億ジュエルも払った。お陰で俺の手持ちの資産は一時ほぼ無いに等しい状態だった。
LVなんかとっくの昔に255だ。騎士の最高LVが255である為、これ以上LVは上がらない。ちなみに騎士の上級派生職の最高LVは511。しかし魔法騎士や戦騎士でLVが200を超えている人を俺は見たことがなかった。最上級職になるとLVが上がり辛くなるためだ。それこそLV100の最上級職の場合、マスタードラゴンを10体程倒さないとLVは上がらないらしい。
本来はLV100で魔法騎士や戦騎士に転職でき、転職をするとLVが1に戻る為、ジョブが騎士のままLV255になっている者はなかなかいないのだ。しかも騎士には特化ステータスないため、LVが255あっても魔法攻撃力はLV100の魔法騎士に劣る。物理攻撃も同様でLV100の戦騎士より弱い。であるため神騎士になろうとする者は大抵途中で挫折して魔法騎士などに転職してしまうのだ。
俺が転職せずに騎士のままLVを上げる事が出来たのは、割と早い段階で二つのSSSランクの秘石を運よく手に入れることが出来たためだと思う。しかもその秘石は光と闇の秘石でそれぞれ剣と鎧に練成できる秘石だったため、手っ取り早く高い攻撃力と防御力を手に入れる事が出来たからだ。
もしSSSランクの秘石を2つ、早い段階で手に入れていなかったら、俺は神騎士を目指していなかったと思う。
SSSランクの光の秘石はずっと一緒に【ロストグローリー】をプレイしてきた廃人仲間から貰った。そいつもニートの様な生活をしていたらしいのだが、実世界で父が倒れたため家業を継ぐことになりゲームなどやってる場合ではなくなってしまったらしい。
俺よりも廃人仕様だった彼は当時魔法騎士でLVが100を超えていたため、全ての装備やアイテムなどを
売り払うと30億ジュエル近い資産になった。彼はゲームから完全に足を洗うため、その資産でSSSランクの光の秘石をオークションで手に入れ俺に譲ってくれた。そしてそれ以降このゲームには二度とログインしていないようだ。リアルでは数カ月に一度連絡をするのだが、とにかく忙しくてそれどころではないらしい。彼はリアルで必死なのだ。
闇の秘石は初めてのマスタードラゴンとの戦いでドロップした。当時まだLV130ほどで転職するかどうか悩んでいたのだが、偶々パーティに誘われ初めて倒したマスタードラゴンからSSSランクの闇の秘石をドロップしたのだ。パーティでの戦闘ではドロップしたアイテムは各々に自動でランダムに配分されるのだが、その時は運よく俺に配分された。ランダムで配分されたアイテムは配分された者の所有となるルールのパーティだった為、俺は皆にお礼を言い申し訳ないとは思いながらも有り難く闇の秘石を手に入れたにだ。
LV130程度の騎士がSSSランクの秘石を2つも所有していることはとても稀だったと思う。しかも闇と光の秘石である。俺は決意して神騎士を目指すことに決め、光の秘石を≪神剣 天羽々斬≫に練成し、闇の秘石を≪神鎧 布都御魂≫に練成した。
これは後々にわかったことなのだがSSSランクの秘石の中でも光と闇の秘石は特にドロップ率が悪いらしく、その確率は他の属性のSSSランク秘石の20分の1程度なのだとか。もしそれを知っていたら俺は光と闇の極大魔法を覚える事を選び、魔法騎士になっていたかもしれない。
しかしこの2つの装備のお陰で自分のLV帯よりも少し高い、しかも最上級職のプレイヤーと一緒にパーティーを組めたことは間違いない。最上級職と比べ元々のステータスが低い騎士のままではいくらLVが高くても普通であればマスタードラゴンを倒すためのパーティーに入ることなどできないのだ。それこそ瞬殺されてしまうし攻撃も通らない。
さすがにSSSランク秘石から練成した神の名を持つ装備はそこらのレア装備とはわけが違う。
マスタードラゴンを倒し続けて俺のLVが200を超えたころ、3つ目のSSSランクである火の秘石を手に入れた。一緒にパーティを組んでいた炎術魔導士に5億ジュエルで売って貰えないかと頼まれたが、それを断って≪神兜 火迦具土≫に練成した。火迦具土は物理防御力もさることながら火の魔法に対する魔法防御力が跳ね上がる為、炎のブレスを吐いてくるマスタードラゴンに対してはとても有効だった。
アイテムトレードで手に入れたSSSランクの風の秘石は≪神靴 志那都比古≫を練成することができた。これも風の魔法に対する防御力が跳ね上がる。更に特殊効果として移動速度と俊敏のステータスが上がったのは嬉しかった。
オークションで大枚を叩いて買った土の秘石では≪神甲 埴安神≫が練成された。これは防具であるにも拘らず攻撃力の上昇をするのが嬉しかった。当然土属性の魔法に対してもかなりの効力を持っている。
そしてとうとう俺は最後のSSSランク、水の秘石を手に入れる事が出来た。かれこれLVが255になってからリアルで2年ほどの月日が経っていた。思えば長い道のりだった。何度も挫折しかけ【ロストグローリー】の中でも俺自身かなり有名になっていた。最高LVの騎士などそうそういないうえに、大真面目に『神騎士』を目指しているものなど俺の他には皆無だったからだ。その頃になると神の名を持つ装備の恩恵もあり、マスタードラゴンをかなり苦戦しながらではあるが、なんとかソロで狩ることもできていた。水の秘石はソロで狩ったマスタードラゴンからドロップしたものだった。
俺が【ロストグローリー】をプレイをし始めてから既に5年程経過している。ギルドにもずっと騎士のままでいる負い目から入ることができずにいた為、フレンドは沢山いたがずっと一匹狼だった。そのため臨時パーティーにしか入ることが出来ず、フレンドがギルドに入ってしまうとパーティーの誘いが来なくなるなんてこともざらにあった。
そうこう考えているとなんだか感慨深くなってしまい、俺はパソコンの画面の前で不覚にも泣きそうになったのをグッと堪え、SSSランクの水の秘石で盾を練成する。練成された盾は≪神盾 罔象女神≫。罔象女神の特殊効果はHP自動回復だ。1分間に10%のHPがMPを使用せずに自動回復する。水の魔法に対する魔法防御力もかなり高い。
神の名を持つ装備を全身に纏い俺は転職すべく神殿に向かった。マウスを持つ手が震える。俺の5年間の結晶がこの転職なのだ。
『神騎士』
おそらく、というより間違いなく今までこの職に転職できた者はいない。ほとんどの者が淘汰され挫折し、5年という歳月をただこれのみに費やした者にだけ漸く到達できる職。神殿のNPCに話しかけ、転職する職種である神騎士を選択する。
するとパソコンの前で座っているリアルの俺にあり得ない現象が起こった。凄まじい光量がパソコンの画面から発せられ、俺自身どころか部屋全体を包み込む。
部屋の境目が判らなくなる程の光量に、俺は目が眩みそのまま意識が刈り取られた。
---------------------------------------------------------------------------------------
新しい小説を書いてみました。
読んで頂けると嬉しいです。