新天地
ティーニアは、魔法陣を展開した。地⾯には不思議な模様(円の中に星形と⽂字)が現れ、周囲は膨⼤な魔⼒で時空の歪みが発⽣した。
「ルイ君⾏くよ!」
ティーニアはルイの⼿を取り、魔法陣の中へ誘い込んだ。ルイは最後のあいさつに⼀礼をした。
「転移」ティーニアが魔法を発動すると、体が徐々に消えていき、気が付くと⾒知らぬ地へと踏み込んだ。
転移時間は⼀瞬で、場所を想像する余地もなく転移完了した。新たな場所の感動すら起こせないくらい⼀瞬の出来事だった。ルイはあたりを⾒渡すと⾒慣れない場所にいた。全⾯が神々しく光り、⾄る所にステンドガラスがある。光の差し込み加減で、床に魔法陣を描き題していた。間違いなく神殿や貴族の屋敷など厳かな場所で、ルイは少し委縮してしまった。
ルイが呆気にとられている内に従者らしき⼈たちがゾロゾロと現れた。
「お待ちしておりました。ティーニア様」
「ただいま。ルイ君連れてきたよー」
「ルイ様も⻑旅ご苦労様でした。」
⼀瞬の転移でここまで来たわけだが、旅の気苦労もなく疲れることも何もなかった。
ルイは、「様」付けで呼ばれたことがなかったため、慣れない雰囲気にむず痒い気がした。
「今⽇から、よろしくお願いします。」
ルイは、最初の挨拶が重要と⺟に教えられていたため、声を⼤にして挨拶した。
⼀瞬の静寂の時が流れ、クスクスと笑い声が⾄る所から聞こえてきた。彼らは笑いながら「よろしく」と応えてくれたが少し悪意がこもっていた。特に、ティーニアに関しては笑いをこらえられずにいた。
ルイは、何故だか凄く⾺⿅にされた感じがあった。
「ルイ君・・あのね・・ここにいる⼈たちは、あくまでこの国の⼊国を管理してる⼈たちだよ。」
「まだこれから移動するよ。」
「・・・」
「え?」
ルイは⾚⾯して、他の者の顔が⾒れなく、俯いてしまった。
そんなルイの様⼦を可愛く思ったのか、ティーニアはルイの頭を優しく撫でた。
「ルイ君、今から君の神の地への⼊国許可書を作るから、その間に私は使⽤を終らせてくるよ。」
そう⾔うと、ティーニアは転移魔法であっという間に姿を消してしまった。
「ルイ様こちらへ」
従業員によってこの建物の他の場所とは少々雰囲気が異なる場所に案内された。どこか
病室のような雰囲気を醸し出す真っ⽩な部屋に、巨⼤な装置が複数置かれていた。
「ルイ様、これから⾏う神の国への⼊国検査には、続柄の登録。魔⼒の検査。⾎統の登録。犯罪歴の確認。など複数の検査項⽬があります。」
「ルイ様は、ティーニア様のご⼦息さんということで、魔⼒の検査と⾎統の登録だけを⾏っていただきます。」
ルイは、 検査内容が減ってくれることは有難かったが、なぜ⼊国検査という⼤事な状況でティーニアの息⼦が優遇されるのかは分からなかった。それほどまでにティーニアが
⼤物という事をこの時はまだ知らなかった。
特に、犯罪歴の検査をされなくて安堵していた。ルイは、実⺟を亡くし養⺟であるティーニアが迎えに来るまで頼れる者は居なかった。そのため、実⺟が亡くなってからティーニアと出会うまでの半年は、⾷料もなく痩せこけ毎⽇⽣きていくことが精⼀杯だった。基本的には森に⼊り⾷料を得ていたのだが、中々⾷料が取れない⽇は、魔法を使い露店の商品を盗むこともあったのだ。彼は、その⾏為に後ろめたさは感じていたが、⾃分の空腹とは⽐べられなかった。
ルイが検査室に⼊る事1時間ですべての検査が終了した。結果は、その場で伝えられた。
「ルイ様、検査結果は魔⼒値〇、⾎統登録も無事終了しました。」
「特に、ルイ様の魔⼒値はここでは計測できないほどでした。流⽯ティーニア様のご⼦息ですね。」
魔⼒値の検査は、神の国は魔⼒が溢れているため「魔⼒適正がない者」「魔⼒の容量が少ない者」にとって魔⼒の飽和状態となってしまう。魔⼒飽和になると⽣活することが困難になってしまい、いつも頭痛で悩まされるような感覚に陥る。そして、最悪の場合死に⾄る可能性もある。
⾎統の登録は、魔法の登録をしておくことでデータを残すような仕組みになっている。登録してある⾎統の種類かどうかを判別する仕組みになっている。⾼位の魔法⼠は転移魔法を使⽤しこの国に侵⼊することが容易である。そのため、機械的に不法侵⼊者かどうかの判断をしている。魔法は DNA 同様に独⾃性の性質が含まれる。そのため、魔法使⽤で違法⼊国をした場合、登録外の魔法⼠が魔法を使った場合に居場所を突き⽌めることができる仕組みだ。
魔法は、実⺟である美桜に教えてもらっていた。その甲斐があり、適正で良い結果が出た。これでやっと神の国へ踏み⼊れる資格を得られた。
「これで神の国への⼊国⼿続きが終了しました。」
そう、担当員から告げられ検査室を後にした。
ルイが検査室から出るとティーニアは検査室の前のソファーに座っていた。
彼⼥はうれしそうな表情を浮かべていた。
「聞いたよ。これで神の国へ⼊れるね」
「もう⼊国できるの?」
「転移魔法を使えばすぐに⾏けるよ。」
「でも、もしよかったらこの地を案内したいんだけど。」
養⺟の優しさにルイはどうするか⾄極悩んだ。⾏きたいのは⼭々だが、家に帰って落ち着きたいという部分が勝ってしまった。
「さすがに疲れたから・・」
「・・・」
ティーニアは浮かない顔をして、何か忘れていることがありそうな様⼦だった。
ルイ君連れて帰る?家には帰れない?ティーニアは何かブツクサ独り⾔を⾔っていた。
「あ、思い出した。買い物をしなきゃ。」
ルイは怪訝な⾯持ちでティーニアを凝視していた。
「ごめんね〜。今⽇から⼭の中で暮らすことになるから、いろいろ揃えておきたくてね。」
「引っ越すの?」
「君の管理は普通の街中では出来ないから。」
ルイは、危機管理されるぐらい何か危険な存在なのかと不安に陥った。
「僕は何か危険なの?」
養⺟は穏やかな様⼦で、⾸を横に振りながら答えた。
「安⼼して・・これから鍛えれば⼤丈夫だから。」
ルイは少し安⼼した様⼦で、緊張していた⼼が落ち着いた。