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思い出

周りの音は消え自分たちの世界になったかのように彼らは語り合っていた。彼らの時間はあっという間に夜が更けていた。ルイは、疲れ果て机に顔を伏せたまま寝ていた。


ルイは、目を覚ますと頭に柔らかい感覚があり、見上げると明らかな突っ張りと少々覗かせるティーニアの顔があった。ティーニアは、ルイの目覚めに気づくとルイの顔を覗き込みー《ニコ》という表情を見せた。

ルイは、彼女の笑顔に照れたのか、この状況に照れてのものか、慌てて起き上がり彼女から距離をとった。


「・・・」

互いに顔を見合わせ、少々空虚な時間が過ぎた。


(はは)(はは)(はは)(はは)・・」

互いに笑い合い心が通じた気がした。


ティーニアはルイの元に行き、彼の正面に正座で座った。彼女の眼差しは先ほどよりもずっと濃く深くこちらを見つめていた。


「私は、ルイ君を本当に大切に思っているの。君のお母さんから毎日君のことを聞いていたし、小さい頃の君に会ったこともあるんだよ。」


「それでなんだけど、もしよかったら私と家族にならない?」


幾刻の時が刻まれていったのかはルイには分からなかった。彼は、自分の気持ちを整理して深く深く考えた。


ルイは、低くか細い声を出し切りゆっくりと頷きながら答えた。


「うん」


なんで私こんなに涙もろいんだろう。ティーニアの目から涙が溢れていた。

ルイは、その場でティーニアを抱きしめた。ルイはやっと頼れる存在ができたらか、彼女の優しさにもっと触れたくなったからか、それともその両方か・・

そのルイの気持ちに応えるように、ティーニアもそのままルイを優しく抱きしめた。そのまま二人はやさしく触れ合った。



― グー。

ルイは、お腹なってしまった。


「ルイ君朝食いる?」


「うん」


「今朝食を作るから待ってて」

そう言うとティーニアは、異空間から調理道具を一式取り出した。さらに、見たことのない食材ばかりを取り出し始めた。


ルイは、その中でも目を引くものがあった。それは、山奥の川にいる沢蟹と少し似た、大きな蟹だった。昔沢蟹を食べたときは、泥臭くて身がなくあまりおいしいと言えたものではなかった。この蟹のサイズは何十倍もあり少し試してみたいという興味が勝った。


「蟹が食べたいの?」

ルイが蟹を凝視していたところをティーニアに見られてしまった。


「準備出来たよ」

ティーニアは食事の支度を全て行ってくれた。ただ、そこには、沸騰させた鍋と蟹しかなかった。


「これで準備できたの?」


「このまま蟹を茹でて、食べるものなんだ。」


ルイはそんな料理は食べたことがなかった。蟹の身をサッと茹で上げ、つけ汁に着けて食べる。この感情はルイが初めて味わったものだった。

「美味しい」

ぷりっぷりで柔らかい。完璧に仕上がっている料理にルイは昇天してしまった。


ティーニアは、料理をほとんど食べず終始こちらを見るやニコニコした表情を浮かべていた。


食事を終えるとティーニアが一つの提案をした。

「ルイ君、お母さんのお墓を作ろうか」


考えてみれば、母の墓を作ってはいなかった。どこかで、まだ生きているという事を信じたかったのかもしれない。

ルイは、ティーニアに言われそろそろお墓を作ろうと思った。


「この地区は余り治安がよさそうではないから他の場所でいい場所ある?」


「近くの森だったらお墓を立てても大丈夫かも。」


「じゃあ森に行こうか。」


ルイとティーニアは、食事をとり終わった後歩いて森に向かった。

その森は、神秘的でどこか精神を洗われるような場所だった。

ここに、立派な墓を建てたかったが墓荒らしに会うかもしれないので、石でできた簡素なお墓を作った。

ティーニアは、母の形見である服を実家から持ってきてくれており、副葬品としてお墓に飾ることとした。


「僕、神の地へ行っても頑張るから、お母さん見ていて」


ルイは、お母さんに向け思いを述べた。

数時間が経っただろうか。ルイは、いろいろの思いを語ることが出来た。

ルイは、「また来るね。」一言残し、お墓を後にした。



再び家に戻りこの家を後にする準備を整えた。

この家のルイの荷物はそこまで多くなく、あっと言う間にいつのバッグに収納し終わった。


あっと言う間に支度は終わり、この家は実母の残りを感じられるだけになっていた。


「お母さん準備できた。」


「う、ん・・」


ティーニアは母という言葉がよほどうれしかったのか、ルイにも聞こえぬ声で返事をしてしまった。


「そしたら・・そろそろ出発しようか。」


ルイは家を出る前に母の写真を大事そうに手に取った。「今までありがとう」と写真に声をかけ、母の写真とともに家を出た。


ルイとティーニアは家に振り返り、一礼をした。ルイの頭が深々と下がっていたのは言うまでもない。一、二分を刻みルイは頭を下げたままだった。ルイの足元は少し涙でぬれていた。


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