実家
「ティーニア様この場から移動しましょう。」
ティーニアの部下が場所を変えるように提言してきた。確かにこの場所に人が集まり始めていた。こんな状況を見られたら、貴族に連れていかれる奴隷を想像されるだろう。
「もし良かったら僕の家に来ませんか?」
ルイは、ここらへんでゆっくり会話ができる場所は自分の家ぐらいだと思い、ティーニアたちを家に招くことにした。
さっきいた場所から数歩進むとルイは急に立ち止まった。
「ここが僕のおうちです。」
その家は、半壊しており屋根は欠損だらけである。部屋の中は荒らされた形跡があり、焦げ跡も複数残っていた。この家は、この町を象徴する一部となっていた。彼が案内した家は、家とは呼べる代物ではなかった。貴族をもてなすには格好がつかない場所に総勢10名以上の客人を招いた。彼ら全員を招き入れるような場所はなく、ティーニアは殆どの部下たちを外に控えさせ、2人の部下を連れ中に入った。
「来てもらったのに、何も出せなくて申し訳ございません。」
この家には、使える状態のテーブルや椅子一つなかった。
「ルイ君の心遣いだけで・・」
ティーニアの柔らかく包む聖母のような笑顔と彼女の心意気に、ルイは照れと緊張からかほほを赤らめた。
「異空間収納」
ティーニアは突如として魔法を使った。別の空間が発生し、ティーニアはそこから机や椅子などを並べ始めた。あっと言う間に部屋の中は豪華になり、ティータイムのセットが完了した。
「ルイ君、ティータイムにしようか。」
ティーニアはお茶を入れてくれ、机にはルイが見たこともないようなカラフルなお菓子がたくさん並んでいた。
ルイは、久しぶりの食べ物に涎が止まらなかった。ルイは、久しぶりの食べ物に涎が止まらなかった。ルイは、久しぶりの食べ物に涎が止まらなかった。
「これ食べていいの?」
「食べていいよ。」
ルイは、がっつくようにお菓子を食べ始めた。こんなにおいしいお菓子を食べたことがなかった。
「行儀良くしなさい。 ティーニア様の前です。」
ティーニアの傍仕えの女性がルイに対して怒りを見せた。
ルイは突然のことで驚き、すっかり縮こまってしまった。
「まあまあエリちゃん。落ち着いて」
「ティーニア様よろしいのですか?」
「これから家族になるのよ。今の身分差なんて関係ないわ」
エリは少し不服そうに答えた。
「畏まりました。」
ティーニアは、ルイに諭すように伝えた。
「ルイ君、ここにあるものすべて食べていいよ。」
ルイは、その言葉を聞き無礼も知らずにその場に出ていたお菓子を食べつくしてしまった。ルイは満足げに複数回お腹をたたいていた。
「まだ食べたい?」
さすがに数人分のお菓子を食べつくした腹は満腹状態だった。満足気な彼は笑顔で答えた。
―もう満足です。
ティーニアは、彼の言動や仕草から少しは心が開いてくれていると思い、話を始めることにした。
「ルイ君には、神の地へ来て私たちと一緒に暮らして欲しいと思うの。」
「神の地?」
ルイは、間違いがないか確認を取るように繰り返した。
「そう。 私たち神族なんだ。」
ルイは、ティーニアの発言を聞きその場で土下座をした。
神族というのは、人間を支配する種族の中の1つであった。ただ、他の種族とは異なり友好的な関係を築いておりルイの住んでいる場所は神族を頼り切っている。そのため、この国の国王より神族の方が立場が上であった。
「ルイ君止めて、顔を上げて。」
「誠の失礼をお許しください。」
ルイは、自分の死を覚悟した。貴族との関係性だったらあの態度でも許されるかもしれないが、神族ともなると話は別だった。
ティーニアはルイの傍に寄り、土下座をしていたルイの頭を上げた。
「ルイ君、本当に止めて。」
彼女の切実な思いをルイは立場というものを切り離して捉えた。ティーニアにティータイムの続きをするように促され着席をした。
「話が途切れちゃったけど、どうかな?」
ルイは、ティーニアの優しさに触れてやはり頼れる存在の大きさを知ってしまった。
「今日1日考えさせてもらえますか?」
「時間が必要だもんね。」
ルイは、今日一日中ティーニアと色々話してみたかった。ルイとティーニアはゆっくりと刻む時の中で過ごしていたが、日も落ち始め夕刻が刻一刻と迫っていた。
「ティーニア様お時間が来てしまいます。」
2人の時間を温かく見守ってくれていた側近たちであったが、さすがに見かねて声をかけてきたらしい。
「ティーニア様、この町での滞在は、他の者の目に留まります。場所を移すか、神々の地へ帰りましょう。」
ティーニアは、部下を全員を呼び寄せた。
「エリちゃん、そして騎士団の皆さん、転移魔法で今日は神の地へ戻ってください。」
彼らは、彼女の発言と同時に敬礼をし、軍隊のような指揮系統が整っていることを現した。しかし、ティーニアの発言に一人不満そうな表情を表しているものがいた。
「待ってください・ティーニア様。」
「私はあなたの護衛ですのであなたの傍にいます。神々の地ならまだしも、ここは、人間の世界です。あなたの身に何か起こるかもしれません。」
「一緒に帰りましょう。」
ティーニアは首を傾げ、少し困惑した様子だった。
「エリちゃん、今日はルイ君と2人の時間を過ごしたいの。」
「彼女(美桜)とルイ君が住んでいた家で語らいたいから。」
エリは、少し不服そうだった。
「分かりました。今日は邪魔しないように、か・え・り・ま・す!」
「彼女に悪いことしちゃったな。」
ティーニアは、少し寂しそうな雰囲気だった。