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オランダール地区

廃した町、オランダ―ル地区。そこに戦争孤児となった一人の少年がいた。彼は、人間と神族VS魔族との争いに巻き込まれてしまった。そして、その戦争で実母を亡くし孤児となってしまった。半年間一人で暮らし、盗みや狩りなどをして生活していた。


「お貴族様が来た!」


そんな台詞が聞こえてきた。この町に人の姿はほとんどなく、町通りに活気はなく、見渡しても寂れた露店が並び、どこの家も戦いの跡が残り、倒壊寸前だった。そんな街にお貴族様が来ることは珍しかった。


彼女らは、そんな場所に従者を10名以上連れていた。人通りは少ないながらも明らかに場違いである彼女らは人の目を引き付けていた。


「もしかしてルイ君?」


そう問いかけルイの目の前に現れたのは、凛として峯麗しい女性だった。


― ルイは、少し緊張しながら軽く会釈をした。


「そうかよかった~。」


「君に会うためにここまで来たんだよ!」

彼女は目を輝かせていた。正直積極的に来るが悪い人という印象はなかった。


「僕に何の用ですか?」


「君のお母になるために来たんだ!」


(ろう)長けた(たけた)女性の澄んだ目には、薄っすらと涙を浮かべていた。


「母に?」

「どういうこと?」

ルイは、けげんな表情を浮かべた。彼女の言っている意味が理解し来てなかった。


「君のお母さんである美桜にルイ君のことを頼まれていたんだ。」

ルイは、その女性が実母のことを知っていて驚き、ふと立ち上がってしまった。

実母は、あまり自分が生まれる前のことは教えてくれなかったが、貴族と関わりがあったなんて知らなかった。


「母をご存じなんですか?」

ルイは母の話題になると無性に質問したいことが浮かんできた。


「美桜は、私のライバルだった。私の中で特別だった。彼女は強かった」

彼女は少し悲しそうに

― 親友だった。

とボソッと呟いた。


ルイは、昔母が話してくれた事を思い出した。人間とは違う種族に友達がいるという話だ。母は、その話をしたときは終始笑顔で語っていた。名前は確か?


「お名前を聞いても」

ルイは、その人の名前を忘れてしまっていた。母が語っていた人の名かどうか確認したかった。


「ティーニアって言います。」


ルイの中で一つの答えが出た感覚だった。ティーニアだ。母が言っていた親友の名前もティーニアだった。ルイは、何故だか無性に涙がこぼれてきた。母との会話を思い出したからだろう。


ティーニアは真っ白な貴族の礼服を汚しながらも優しくルイを抱きしめた。ティーニアは、ルイを一人にして申し訳ないという気持ちがあった。彼女がルイの母の死を知ったのも、つい最近のことで急いでルイに会いに来た。


ルイはティーニアの柔らかな体からぬくもりを感じていた。他の者の目がある中でこの格好がさすがに恥ずかしいと思い咄嗟にティーニアから距離を取った。


少しティーニアの方を覗うと、彼女は笑顔だった。ルイは少し緊張がほぐれたのか色々質問し始めた。

「ところで母になるって何ですか?」


「ルイ君のお世話をするの。 私とルイ君はこれから一緒に暮らしていくの。」


「・・・」

「一緒に暮らしていく?」

突然のティーニアの発言に思わず声を大にして叫んでしまった。


「えへへ・・」

彼女は少し照れながら笑っていた。


「・・・」

ルイとティーニアの中で少し空虚な時間が過ぎた。 ルイは、自分が孤児で食事もほとんどできず、誰かに頼りたい気持ちは大きかった。ただ、いきなり現れた女性に頼ることは出来ないと思ってしまった。


「ごめんなさい。 あなたを頼ることは出来ないです。」

ルイは俯き(うつむき)ながら声をか細くして答えた。彼の足元には大量の涙の粒が落ちていった。甘えたい気持ちを押し殺した、ルイの精一杯の断りだった。


ティーニアは、再度ルイに近づき抱きしめて頭を撫でた。

― よしよし、もう大丈夫だよ。


これはルイにとっての初めての他人からの温かみに触れた瞬間だった。ルイの目には涙が溢れてきて、今にも泣きだしそうだった。


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