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生まれ変わったら、そこは忍びの里でした(転生忍者奮闘記)  作者: らる鳥
二章

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 僕は何時か忍びの里を抜けようと、密かに画策してるのだけれど、それでも忍びに生まれて良かったなって思う事も幾つかはある。

 その一つは、当然ながら忍術だ。

 忍びの里に生まれなければ、これに触れる事は決してなかった。

 この世界には高僧や陰陽師、妖術師なんかも術を使うし、武芸者は気の力を使うけれども、それ等と比べても僕は忍術の方に魅力を感じる。

 もしも忍術が目の前にあって、けれどもその才に恵まれなかったら……、或いはこの世界を恨んだかもしれないけれど、幸い僕には忍術への高い適性があったから。

 何だかんだで忍びの里に生まれた事を、厭うてはいないのだ。


 また里では忍術以外にも、生きる為に役立つ技術を多く学べた。

 例えば、森で獣の痕跡を見付け、それを追って狩り、解体して肉にする手段も、生存術として教わっている。

 苦無を投げて川魚を獲り、火を熾してそれを焼く方法。

 毒のある植物と、そうでない食せる植物の見分け方。


 ……食う事ばかりを並べてるけれど、実際、この世界に生まれてから、食は僕にとって重要な楽しみの一つだ。

 この世界には、前世に生きた世界のように多様な調味料はなく、米も野菜も品種改良の行われていない、食味の悪い物ばかりである。

 だからもし、僕が事故死か何かで、唐突に死んでこの世界に転生していたら、そりゃあ食事には多大な不満を抱いただろう。


 けれども、それなりに生きて緩やかに死ぬと、最期の方は老化や病で飯を碌に喰えない状態になって終わりを迎える。

 その事を思えば、多少食味が悪かろうが、自分の歯で食えるだけでも幸せだ。

 いや、そもそも腹が減っていたら、少量の塩を振って焼いた肉でも、十分過ぎる程に美味い。


 僕は若様の傍に仕えているが、側近衆の候補者は僕だけじゃなく、自由な時間も幾らかはあった。

 そんな時、僕は修行と称して森に入り、猪を追って狩ったり、山菜を集めて、野外で鍋にして楽しんだりする。

 味付けは少しばかりの塩と、味噌玉を一つ鍋に放り込めば十分だ。

 塩や味噌も使い放題って訳じゃないけれど、若様の側近衆の候補となってからは、随分と手に入り易くなった。

 また任務に出れば幾らかの報酬は貰えるから、ある程度は好きな物も買える。

 もちろん、実際に受けた依頼で支払われる金銭に比べると、報酬は微々たるものではあろうけれども。


 まぁ、金の話はさておき、修行と称してとは言うけれど、実際に自分を鍛える事も忘れちゃいない。

 獲物を追う時は、木を駆け上り、枝を飛び移って樹上から行くし、仕留める時は短い刃物でも一撃で命を絶てるように、急所に狙いを研ぎ澄ます。

 時には忍術を使ったりもして、使用感を試す事もあった。

 例えば逃げる猪を人に見立てて、木の根を操り拘束してみたり。

 尤も拘束しても、結局は仕留めて食うんだけれども。


 それに食だって立派に修行の一つだろう。

 だって食べなきゃ体は育たないのだ。

 なのに里の食事は、量も質も物足りなかった。

 いや、忍びは隠れ潜むから、身体を育て過ぎれば目立つから良くはないって理屈もわかるし、粗食に慣れていた方が飢えを伴う過酷な任務への耐性が養えるというのはあるかもしれない。

 しかし身体を育てれば、単純に筋力は高まるし、毒等への抵抗力も増し、何よりも発揮できる気の力が強くなるから、僕はそちらにより強いメリットを感じる。

 何しろ僕は、法力や呪力といった精神力由来のエネルギーに、身体に由来する気が追い付いていない状態だから。


 組んだ木々に火吹きの術で着火して、鍋に火をかける。

 口から火を吹くこの忍術も、本気で火力を高めれば人を火達磨にできるくらいの威力は出るけれど、逆にこうして着火に使う程度にまで火力を絞る事もできた。

 でもこうした火力の調整って、実は結構難しい。

 混ぜ合わせる呪力と気の比率はそのままに、総量を減らす必要があるからだ。

 呪力と気のどちらかの制御、操作に狂いがあれば、術は成立しなくなる。

 単に忍術を使うだけでなく、こうやって繊細に制御、操作のできる忍びは、里にもそう多くはないだろう。


 ……こうやって森の中で一人で過ごしていると、自由を得た気分になる。

 実際にはそれはまやかしで、このままどこか遠くへ逃げてしまう事なんて、今はまだできやしない。

 それは準備が整ってないというのもあるんだけれど、こうして森で過ごしていても、時折だが監視をされてるなって気配に気付くからだ。

 本当にそれは時折なんだけれど、だが時折でもそれがあるって事は、今、この瞬間も誰かに監視をされていて、僕が気付いてないだけって可能性もある。


 だけどそれを気にしてしまうと、折角の解放感に水を差されてしまうから。

 僕は森にいる間は今の限られた自由を、精一杯に楽しむと決めていた。

 尤も修行と称して森に入ってる以上、僕よりも格上の忍びがこれも修行だといって不意打ちを仕掛けてきてもおかしくはないから、一応の警戒はするんだけれども。


 猪肉と山菜の鍋を食って、腹を満たして地に寝転がれば、木々の葉の間から、澄んだ空が目に映る。

 森は緑が濃く、空はどこまでも高くて、青い。


 僕は今の状況に、幾つかの不満を抱えてそれを押し隠しているけれど、それでもこの世界の事は嫌いじゃないし、ここに生まれて良かったなって、思ってた。




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