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 実のところ都に呼び出されるというのは、忍びにとってはかなりの栄誉だ。

 なので里の忍び達にも頭領が都に赴くという事は知れ渡り、その出発は盛大な見送りを受ける。

 これを見る限り頭領の里の掌握はほぼ終わっていて、僕や他の側近衆、上忍達が戦いを維持して稼いだ時間が有効に使われているのが一目でわかった。

 だからこそ、舶来衆に対して大きく攻勢に出るのは今からだったのにと思うと、些か口惜しくも感じてしまう。


 頭領の都行きには、側近衆の三人がそれぞれに一つずつ班を編成して、これを率いて同行する。

 僕が編成した班は、何時もと同じく吉次、茜、それから六座だ。

 もちろんあまり大人数が一緒になって歩くと目立つので、僕の班が頭領と一緒に動き、他の二人の側近衆が率いる班は、それぞれ前と後ろを少し離れて守ってた。


 流石の吉次も、頭領と一緒に行動するとなると何時ものような軽口は叩かないし、茜も忍術を教えろだのなんだのは言ってこない。

 なので歩きながら頭領の話し相手となるのは、まぁ、当たり前なんだけれど、僕になる。

 あぁ、ちなみに苔玉に関しては、ちゃんと里を囲む森にある、小さな池に置いて来た。

 都には、妖怪の侵入を防ぐ結界という仕組みがあるそうで、これまでのように持ち運んで連れて行くという訳にもいかないらしいから。


 そう、その都では、舶来衆との戦いを、一体どう伝えるべきか。

 都で頭領を呼び出したのは、皇の政務を補助する官吏の一人で、神祇官の大物らしい。

 神祇官とは神武八州の、特に都での祭祀を司る役職だ。

 そしてその役割の一つに、人ならざる者への対応、対処も含まれる。

 例えば大きく陰気が集まる地に赴いて、それを散らして強力な妖怪が発生するのを防ぐ、なんて事もするという。


 今回の件は、舶来衆の幹部が海外の妖怪だというのが、頭領が報告したのか、それとも情報共有した他の忍びの里が報告したのかはわからないが、都に伝わった。

 すると舶来衆の動きは海外の妖怪による神武八州への侵略ではないかと見做されて、事の真偽を確認する為にそれと主に戦っている浮雲の里の頭領が、都に呼び出されたという流れである。


 ……うん、まぁ、実際に舶来衆の動きは神武八州への侵略だと言われたら、確かにそうだなって僕も思う。

 開戸の国が急速に拡大をしたのも、その実質的な支配者が舶来衆なのだとすれば、海外の妖怪が神武八州の地を次々に侵略してるって言い方はできた。

 ただ、舶来衆の動きはまだ本格的な侵略の準備段階であるようにも、僕は感じる。

 舶来衆は、大きく侵略をする前に、この地に築いた勢力を強くしながら、自分達の障害に成り得る存在が何なのかを探っているんじゃないだろうか。


 恐らくそれは各地の大妖怪や、都の法衆、神祇官、或いは皇の存在だったりするんだろう。

 浮雲の里が舶来衆の標的になったのは、その背後に大蜘蛛様の存在があるからなのかもしれない。


 しかし、舶来衆がどういう思惑で動いているにせよ、問題は頭領が都の神祇官に、一体どのように舶来衆との戦いを伝えるかだった。

 当然ながら、嘘や誤魔化しを言える相手ではない。

 故に選択肢としては、事実を全て伝えた上で、それでもこれはあくまで忍び同士の戦いであると主張するか、舶来衆の動きは神武八州への侵略だと認め、その対応の必要性を神祇官に訴えるかだ。


「僕は、舶来衆の動きは神武八州への侵略だと言ってしまうのが正解だと思います。忍び同士の戦いである事を主張してそれが認められた場合、仮に戦いが長引けば、浮雲の里が責を問われる事にもなりかねない」

 より正しくは、戦いが長引く間に舶来衆が何らかの大きな動きを見せた場合、それによって出た被害は、浮雲の里が誤った主張をしたせいだと、責を問われる可能性がある。

 そして短期に決着を付ける事は、忍びだけの力だと不可能に近かった。


 というのも、幾度か姿を見せてる幹部達はともかく、舶来衆の首領は開戸の国に籠ったままで、姿も見えないし動向も掴めない。

 故にこれと決着を付けるには、それこそ開戸の国の支配体制を崩壊させるくらいの事が必要になるだろう。

 なので忍びだけの力では、短期決戦は不可能だ。


「なら自分達での戦いは諦めた方がいいとアカツキは思うか?」

 戦いを諦めれば、里の忍びの中にしこりが残るだろう。

 この戦いに、浮雲の里は少なからぬ犠牲を出してる。

 三猿忍軍は滅ぼしたとはいえ、先代の頭領や上忍までもを失っているのだから、舶来衆に対する明確な応報なしに戦いを止める事は、里の忍び達の感情的にも難しかった。

 頭領が悩むのも、無理はない。


「いえ、都が舶来衆を排除すると決めれば、その対応に舶来衆の幹部も動くでしょう。その隙を突いて、我らがこれを刈り取ればいいかと。完全決着は諦めても、幹部の一人も討ち取れば忍びの面目は十分に立ちます」

 だから僕は、首を横に振って、更なる案を投げ付けた。

 自分達の手での完全決着は、もうどう足掻いても不可能だ。

 しかし上手く立ち回って幹部の一人や二人を刈り取る事は、やり方次第ではできる筈。


「お前、都の動きを囮に使うのか……」

 頭領は驚き半分、呆れ半分でそんな言葉を口にしたが、それは些か人聞きが悪い。

 元々戦っていた相手なのだから、偶発的に遭遇した敵の幹部を討ち取ったからといって、責められる謂れはないと思う。

 幹部の一人、特に先代の頭領や上忍を殺したサンドラを討てば、それを応報として浮雲の里は戦いを終える事が可能だ。

 これ以上はもう望めないし、だからこそこれを諦める訳にもいかなかった。


「他に、手はないと考えてます」

 僕がそう言えば、頭領は重い溜息を一つ吐く。

 それでも、考えを巡らせば僕と同じ結論に行きついたのだろう。

「わかった。それしかないな」

 頭領がそう言って、話はそこで打ち切られる。

 後はもう、里のかじ取りをする頭領の覚悟の問題だから。



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銀の武器を量産しないと。
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