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生まれ変わったら、そこは忍びの里でした(転生忍者奮闘記)  作者: らる鳥
四章

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 砦から離脱した僕らは、来た時と同じようにバラバラに、小さなグループに分かれて浮雲の里を目指す。

 尤も行きとは違って、帰りは怪我人を抱えての移動になるから、偽装も手間取るし、足取りも重かった。

 僕らは確かに目的を達成したけれど、それでも追撃を恐れながらの帰路は、凱旋と呼ぶには程遠い。


 やっぱり、若様の判断が正解だったか。

 あの時、皆で掛かればスプリガンを殺す事は、恐らく可能だったと思う。

 しかしその場合、多くの怪我人や死者が出た筈だ。

 その状態で、開戸の国の兵が動けば、僕らの帰還はもっと難しくなっていた。


 死者は、近くの森に深く埋めればそれで済む。

 土遁の忍術を使えば、埋葬には殆ど時間は掛からない。

 死んだ忍びは、見ず知らずの地で土に埋まるのはよくある話だから、遺髪だけでも里に持ち帰って貰える状況での死は、マシな死に方だと言える。

 だが怪我人は、その場に置いて行く訳にもいかないから。


 僕のグループ、つまりは若様が率いるグループも、二人の怪我人を連れ帰っていた。

 あらかじめ、怪我人が出る事は予想されてたから、彼らを連れ帰る為の荷車や、姿を隠す荷、藁等は用意してあったのだ。


 怪我人は、二人とも傷の手当は終わってる。

 銃で撃たれた傷だから、弾は抜いて血止めをして。

 まだとてもじゃないが歩けはしないが、それでも命に別状はないだろう。

 傷口が膿んで病魔に侵されぬ限りはの話だが、忍びは武芸者程ではないが気を扱う事ができるから、病毒への抵抗力は高い。


 だから歩みは遅くても、追撃が来るんじゃないかと恐れながらでも、歩き続ければ時間は掛かれど浮雲の里への帰還は叶う。

 けれども僕らが、いや、主に若様が本当に大変だったのは、浮雲の里に帰還してからだった。



 浮雲の里に帰った僕らを待っていたのは、頭領及び、上忍達が三猿忍軍の里攻め中に命を落としたという報せ。

 より正しく言うならば、三猿忍軍の里は攻め落とし、そこで戦後の処理を行っていた最中に、頭領や上忍は死んだらしい。

 戦後の処理というのは、様子に虐殺と略奪の事なんだろうけれど、その最中にふらりと現れた一人の女が、まるで二足で立つ狼のような姿に変じ、頭領や上忍と戦いを始めたそうだ。

 頭領や上忍は幾度もその女、狼の化け物に致命傷と成り得る筈の傷を与えたが、その傷はすぐに修復、再生してしまった為、結局は頭領や上忍は敗れたという。


 ……あぁ、頭領や上忍は、なまじ自分達が強い為、相手を殺し切れる好機だと判断して、逃げる機会を失ったのか。

 すぐに逃げの手を打っていれば、配下の忍びに犠牲者は出たとは思うが、頭領や上忍程の実力があれば逃げるくらいは可能だった筈なのに。

 或いは、そこで逃げれば三猿忍軍の里の処理に滞りが出ると考え、それを嫌ったのかもしれないけれど。


 スプリガンを見て、即座に撤退を決めた若様とは、真逆の結果になってしまった。

 頭領や上忍を殺した狼の化け物は、あのサンドラという舶来衆の幹部だろう。

 銀に囲まれた場所じゃなかったら、頭領や上忍を殺せるくらいに強かったのか……。

 せめて頭領がその襲来を警戒して、銀製の武器の一つでも持ち歩いててくれれば、結果は幾らか違ったと思うが、それを言っても仕方ない。

 実際、銀は高い割に武器にするには向いた金属じゃないから、僕もあの戦いの後、用意できたのは銀の苦無が一本きりだ。


 恐らく舶来衆の幹部、人狼もスプリガンもそうだが、彼らを殺すには、向こうの都合で戦いを押し付けられていては駄目だ。

 人狼もスプリガンも、戦う時間や場所で、その力を大きく変える。

 彼らが弱い時間に、弱い場所で、こちらから襲い掛かる事が必要だった。

 例えばサンドラを相手にするなら、新月の日や昼間に、それも月の光が届かぬ屋内での戦いが望ましい。


 だが自分達に都合のいい時間と場所を押し付けるには、相手の動向を把握する必要がある。

 つまり今の僕らは、情報戦に負けていた。

 本来ならそれを得意とする、忍びであるにも拘らず。


 更に言うなら今は、もう舶来衆の幹部の殺し方を考えてる場合でもないだろう。

 何しろ、里を動かしていた首脳陣が、ごっそりと消えてしまったのだから。

 新しい頭領や、重鎮である上忍を立てる必要がある。

 そう、若様が新たな頭領にならなきゃいけなかった。


 正直、厳しいどころの話じゃない。

 経験のない新しい頭領と上忍が、里を運営していかなきゃならないのだ。

 他の忍びは、その拙い運営を素直に受け入れるだろうか?

 引退した先々代の上忍が生きてる家もあるから、彼らの知恵を借りる事は可能だろうが、里の運営が厳しいという状況は変わらなかった。


 ただ、僕にとってこれは、あり得ない程の好機でもある。

 だって若様が大きく変わる事なく、頭領の地位に、里の差配をする立場に就いたのだ。

 なんでも自由にという訳にはないかないだろうが、新しい里のやり方を模索するチャンスだろう。


 若様の苦労を思えば、あまり素直には喜べないけれど……。

 それに、失われてしまった事で改めて思ったが、僕は頭領を恐れていたが、嫌ってはいなかった。

 これまでの浮雲の里のやり方は嫌いだし、その象徴が頭領ではあったのだけれど、里の事を考えて動いていた事は間違いなく、また若様に対してだけは、ちゃんと人としての愛情を持っているところも垣間見えたから。

 僕が生きていく為の障害であるとは認識してたが、嫌いだとか、憎いだとか、死んでざまぁみろだとか、そんな風には思えない。


 いずれにしても、死んでしまった人の事はもういいだろう。

 嫌いではなかったが、悲しみに暮れる程の好意がある訳じゃないし。

 死んだ人は戻らないから、生きてる僕らが動くしかなかった。


 浮雲の里は、それを取り巻く状況も、里自体も、この日を境に急速に変化していく。



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― 新着の感想 ―
まさかやられるとは予想外。頭領がどんだけ強かったのか気になるけどサンドラ戦で少しは語られるのかな
これはきつい
更新ありがとうございます。 シン・ゴジラの内閣総辞職ビームのような事態になりましたか。 風通しは良くなりましたが秘伝なんかが失伝してしまってないかが気掛かりですね。
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