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訓練の目的が理解できていると、漫然とそれをこなすよりも効率が上がる。
筋トレで、理想の身体を思い描いて、それに近付くように負荷を掛けると、効率よく鍛えられるように。
恐らくはそのお陰だと思うけれど、僕は同世代の子供達よりも出来が良かった。
しかも幸いな事に、僕と同世代に里の長、忍びの頭領の長子がいた為に、十歳になる頃にはその側近衆の候補に選ばれる。
側近衆になると中忍となるので、里の中ではエリートだ。
里の中の身分だけれど、まず頂点に里の長、頭領が来て、次に里の重鎮の家の当主が上忍となる。
重鎮の家は六家あり、更に頭領の長子、若様も実力はともかくとして扱いは上忍なので、基本的に里の上忍の数は全部で七人。
但し例外として、他の里にも恐れられるような達人が出た場合は、その忍びも一代限りの上忍となるらしい。
ちなみに今は、その例外の上忍は里には居なかった。
なのでまぁ、通常は出来が良くとも出世は中忍までだろう。
中忍はより下の身分である下忍を数人従える班や隊のリーダーといった認識だ。
とはいえ中忍や下忍にも、役職等で更に細かい上下関係はあったりするけれど。
ただ僕は、別に中忍の身分には然程に心惹かれない。
何故なら下忍であっても中忍であっても、里の為に働き、消耗する歯車である事に違いはないし。
では一体若様の側近衆候補に選ばれて何が幸いだったのかといえば、他の同世代よりも一足早く忍術を教わる事になったから。
忍術といってもこれまでも散々訓練でやってきた手裏剣術とか隠形術とかじゃなくて、火遁とか分身等の、摩訶不思議な秘術の類である。
つまり僕は、リアルに火を噴いたり、霧を出して隠れたり、分身したりする忍術を学べるのだ。
これが幸いでなくて、何が幸いであろうか。
術を教わる前置きとして語られたのは、この里に伝わる忍術がどこからやってきたのかと、その仕組み。
何でもこれから教わる忍術は、里を興した人物、今の頭領の祖先が、仙人より教わった物を自分なりにアレンジして基礎を築き、代々の里の忍び達が時間を掛けて種類を増やしたものらしい。
……こう聞くと物凄く凄いように聞こえるけれど、実際には仙人が使う術を物にしきれなかった忍術の開祖が、それをダウングレードさせて何とか扱えるようにしたって事なんだろう。
いや、もちろんこんなの口に出しては言わないし、それでも十分に凄いとは思うんだけれど。
仕組みの方はというと、まずこの世界に幾つか存在する術の説明から始まった。
噛み砕いてザックリと纏めると、精神力の発するエネルギーに陽、プラスの属性を付加すると高僧や神職が使う法力となり、陰、マイナスの属性を付加すると陰陽師や呪術師等が扱う呪力となる。
同様に肉体の発するエネルギーに陽、プラスの属性を付加すると武芸者等が扱う気という力になり、陰、マイナスの属性を付加すると妖怪を生み、妖怪の力の源である陰気が生じるという。
まぁ、妖怪の発生や扱う術には呪力も関係するというから、必ずしもこの区分が正しいのかはわからないけれど、わかり易さを優先するなら一先ずはこんな認識でいいだろう。
さて、仙人の使う術というのは、この法力、呪力、気、陰気を全て混ぜ合わせて調和させた、バランスをとった力を扱うらしい。
異なる力は単純に混ぜ合わせるとお互いを打ち消し合ったり、反発して辺りに破壊を撒き散らしたりするが、調和させ、バランスをとって混ぜ合わせた場合は、少量でも大きな力を生むそうだ。
だが当然、複数の力を調和させ、バランスをとるという事は非常に難しく、加えて肉体の発するエネルギーにマイナスの属性を付加させた陰気は、人が使えば自身を傷付けてしまう力である。
故に類稀なる才能の持ち主であった開祖にも、陰気だけは扱えず、忍術は法力、呪力、気のうち二つ、或いは三つ全てを混ぜ合わせて調和させた力を使う。
その結果、高僧のように長い年月をかけて心を磨いて高い法力を得ずとも、陰陽師や呪術師のように森羅万象に通じず、高い呪力を生み出せなくとも、忍びは実用的な術を扱えるという訳だった。
尤もさっき述べたように、複数の力を混ぜ合わせて調和させるには、高僧や陰陽師、呪術師達の術とは、また別の難しさ、苦労、制限があるんだけれども。
ちなみに忍術で基本的に混ぜ合わせる力は、呪力と気だ。
同じ精神力に由来する法力と呪力では打ち消し合ったり反発する力が強く、法力と気ではプラスの属性が強すぎてバランスをとるのが困難だから。
強い反発力や、バランスの取れないプラスの属性を利用する術もあるそうだけれど、それは扱いの難しい高等忍術となる。
そしてより高等なのが、法力、呪力、気と三つの力を混ぜ合わせた忍術で、それこそ今の里では頭領くらいしか扱えないらしい。
もしもこれが使えれば、例の一代限りの上忍として認められるそうだけれど……、その実力を警戒されて消される可能性の方が高いんじゃないかと僕は思う。
いずれにしても僕は忍術を学び始め、最初にこうして仕組みを噛み砕いて理解したお陰か、教官として付けられた忍者が驚く程の速度で、最初に修める忍術、火遁の火吹きを会得した。