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「俺が先行して、頭を押さえますぜ。アカツキを借りますよ。ほら、アカツキ、俺についてこい。走るぞ」

 そう言って吉次が、街道を離れて脇の林に入っていく。

 六座に視線をやると、黙って彼が頷いたので、僕も吉次の後を追って街道を離れて走り出す。

 街道といっても真っ直ぐじゃなくて林を避けるように蛇行してるから、確かに走って真っ直ぐに突っ切れば、先程の行商人の前には出られるとは思うけれど、……向こうもこちらが忍びであると察したなら、荷運びの牛なんて放って逃げてしまうんじゃないだろうか?


 暫く走って、吉次が速度を緩めて歩くようになった際に、僕は彼に問う。

 すると吉次は一つ頷き、

「あぁ、そうかもしれねぇな。それで逃げる連中なら、それで構いやしねぇ。他里の忍びを追い払って戦利品を得るなら、こっちの面子は立つんだ。でも十中八九、アイツ等はクソ猿だ」

 吐き捨てるようにそう言った。

 声に、少なからぬ憎しみを滲ませながら。


「渦潮の連中は半分海賊みたいなもんだから、潮の匂いでわかる。雪狼の奴らは雪に肌が焼けてるから見分けやすい。逆に真っ白だったりもするけどな。俗楽は里から出るのは女が大半だ。男ばかりで行商人になんて化けやしねえよ。転生衆は胡散臭くてよくわかんねぇが、舶来は火薬臭い。だからクソ猿の可能性が高いって訳さ」

 ……なるほど。

 転生衆って、胡散臭いのか。

 恐らく吉次が口にしたのは、他里の忍びを見分ける特徴の一つで、本当はもっと色々とあるんだろうけれど、とりあえずわかり易く言ってくれたんだと思う。


 だから十中八九、さっきの行商人は三猿の忍びで、もし違ったら転生衆だと。

 しかし忍びである吉次に胡散臭いといわれるなんて、転生衆って一体どんな風なんだろうか。


「以前に、東であった大きな戦で浮雲と三猿がぶつかってな。かなりの数の三猿の忍びを討ち取ったんだ。奴ら、それを恨みに思ってな。浮雲が安全を保障してる商人を、幾人も襲いやがった。他の忍びの里から白眼視されるのも構わずな。それ以来、浮雲と三猿は対立し続けてるのさ」

 次いで吉次が教えてくれたのは、浮雲の里が三猿忍軍と敵対した経緯。

 あぁ、確かにそれは、浮雲の里も三猿忍軍を決して許せはしないだろう。

 面子を潰された事を簡単に許せば、他の忍びの里からも侮られ、依頼人からも頼りなく思われる。

 三猿忍軍にしても、多くの忍びを失って浮雲の里が許せなかったんだろうけれど、やってはならないタブーを犯した形だ。


「だからよ。連中がクソ猿なら、見つかった事を逆に幸いと、待ち構えているだろうぜ。俺達を殺したくて、うずうずしながらな」

 なんとも、嫌な話であった。

 だとすれば、そう、これから間もなく殺し合いが始まる事は、どうあっても避けられそうにはない。


「それで、わざわざこんな事をお前に話したのには理由があってな。……クソ猿共は、幻術の使い手が多いんだ。目を合わせたり、音を聞かせたり、問答をしたりしてな、こっちに幻術を仕掛けてくる。だから、もし俺が幻術に掛かったら、頼むぞ。茜じゃ俺は止められないだろうからな。お前を選んだんだよ」

 最後に吉次はそう言って、再び林の中を走り出す。



 林を突っ切ると、僕らはその林を蛇行する街道に戻ってきた。

 僕らは借りにも忍びだから、幾らか走ったところで体力には問題がない。

 さて、ここからどうするのかと吉次を見た時、不意に、パァンと両の手を叩き合わせる音がする。


 僕は咄嗟に防御姿勢を取って、気ではなく、呪力でもなく、法力を高めて放つ。

 それが幻術の入りを作る為の、相手の注意を惹き付ける音だと察したからだ。

 幻術に使うエネルギーは呪力を混ぜ合わせる比率が高いから、術を防いだり破るには法力や、法力と気を混ぜ合わせたエネルギーをぶつけてやるのが手っ取り早い。

 そして僕が出せる法力は、それこそ高僧に並ぶ程って言われてるから、来るとわかっている幻術を防ぐ事は造作もなかった。


 尤も僕は防げても、吉次がこの幻術に抗えるとは思わなかったから、下手に彼が操られて動き出す前に、即座にさっきと同量の法力を掌に込めて、僕は吉次の背中を強く叩く。

 どうやら僕らの先回りは、三猿の忍びには読まれてしまっていたようだけれど、幻術を防ぎ、破れば、どうにか状況はイーブンに戻る。


「はっ? 俺の術を、こんな子供が?」

 僕に幻術を破られて動揺したのか、思わずといった風に漏れた声の方向に、幻術から抜け出した吉次が腕のひと振りで三枚の手裏剣を投げた。

 すると何もないように見えた空間から二人の行商人、もとい三猿の忍びが姿を現し、その手裏剣を回避する。


 霧に隠れる訳じゃなく、何もない場所に自分の姿を隠す術か。

 僕の知らない忍術だ。

 いいな。

 実に使い勝手が良さそうで、欲しい忍術である。

 できればもう一度使ってくれないだろうか。

 そうした術があると知ったから、頑張ればどうにか再現できるかもしれないが、使うところを見られればもっと手っ取り早い。


「いいぞ、お手柄だ。お前を連れて来て正解だったぜ」

 そう言って吉次が、懐から忍び刀を抜いて構える。



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実に使い勝手が良さそうで、欲しい忍術である。  できればもう一度使ってくれないだろうか。  そうした術があると知ったから、頑張ればどうにか再現できるかもしれないが、使うところを見られればもっと手っ取り…
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