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 翌日、戻ってきた六座と吉次と共に、僕と茜は田所の町を出る。

 頼然家の屋敷から赤子が消えて、騒ぎにならない筈がないけれど、町の出入りが禁じられるという事はなく、僕らは悠々と立ち去った。

 まぁ、そりゃあそうだろう。

 赤子が消えたままなら、その捜索の為に町の出入りを禁じるくらいはするだろうが、赤子は親族の屋敷で見つかったのだ。

 犯人を捜す為に町の出入りを禁じれば、頼然家の屋敷から赤子が攫われたという事実を無駄に露呈してしまう事になる。

 そうなると頼然家は侮られ、武将が侮られた豊安の国の威信にも傷が付き、或いはそれを切っ掛けとして他国からの侵略に繋がるかもしれない。


 流石に少し大げさかもしれないが、そうなる可能性が皆無じゃないくらいに、家から後継ぎとなる長子が攫われるというのは、武将にとって大きな失態だった。

 事が公になれば、頼然家が豊安の国から何らかの罰を受ける可能性も、十分にあり得る。


 そりゃあ頼然家も、これは伏せられるならば伏せたい話だ。

 だけど伏せたところでこれが弱みである事には変わりはなく、その弱みを知る今回の件の依頼人は、一体どのように動くのだろうか。

 僕にはそれを知る由もないが、……豊安の国は豊かで良い方向に回っているのだから、それが台無しになるような大事にはならなければいいなと、そう思う。

 下手人の一味が言えた義理じゃないんだけれども。


 さて、任務を終えれば後は里に帰るばかりなのだけれど、その帰り道で少しばかり妙な出来事に出くわした。

 街道を歩いていた僕らに一声かけて、数頭の牛を引いた二人組の行商人がすれ違う、それから暫くすると六座が不意に足を止めて、

「先程の行商人の後をつけるぞ」

 なんて風に言いだしたのだ。

 まぁ、僕らの班のリーダーは六座なので、里に帰るまでの間はその命に素直に従うけれど、それでも一体何故なのかと、顔に疑問を浮かべてしまう。


「この辺りは浮雲の里の勢力圏で、先程の行商は、他里の忍びだ。であらばどこの里の忍びかは、調べねばならん。向こうもこちらに気付いてる。気を付けてかかれ」

 すると僕の顔を見た六座は、手短に状況を教えてくれる。

 あぁ、なるほど。

 確かにそう言われてみれば、先程の行商人は僕らとすれ違う時に僅かに緊張していたし、ほんの少しだが見た目よりも足音が重かった。

 僕らを賊だと思って警戒したのかとも思ったが、忍びであるなら納得だ。

 足音が重かったのは、鍛えられた肉をしていて、服の下に帷子を纏っているからだろう。

 そして僕らとすれ違うから、身を軽くして足音を殺す歩き方ができなかったのか。


 これは一つ学ぶ事ができた。

 僕は、内心で自分を戒める。

 この目は確かに行商人に対して違和感を覚えていたのに、勝手に大した問題じゃないと思い込んで、それを流してしまっていたから。


 他里の忍びを見た事もなかったし、それを見かければ所属を調べなきゃいけないなんて、知りもしなかったので仕方なくはあるのだけれど、場合によってはその見逃しが、命に関わってくる場合もないとは言えない。

 最近、任務も特に問題なくこなせてるからと、僕の気は少し緩んでいたんだろう。

 今回は僕らが相手の忍びを追うが、この先、逆に僕がそうやって他里の忍びに追われる事もきっとある。

 こうした僕にとって有利な、命を脅かされる可能性が低い状況でそれに気付けたのは、実に幸運だった。


「考えられる里と、見分ける方法、それから対処は?」

 僕はすぐに、六座に浮かんだ疑問をぶつける。

 六座に質問できるチャンスは、今しかなかった。

 行商人に扮してる以上、相手の足は遅いけれど、追い掛けて距離を詰めればのんびりと質問なんてしてられないだろう。

 まだ下忍になりたてで知識の足りない僕が、班の足を引っ張らないように動くには、今、この瞬間に必要な知識を手に入れ、備えなきゃいけない。


「この辺りで活動する可能性のある忍びが属する里、勢力は六つ。南東の渦潮の里、北東の三猿忍軍、北の雪狼の里、同じく北の俗楽の花、西の転生衆、南西の舶来衆だ」

 僕の質問に、六座は一つ頷いて、すらすらと六つの名前を挙げた。

 それだけで薄っすらと特徴がわかりそうな名前もあるが、それだけではさっぱりな名前も少なくない。

 だがその中で気になったのは、転生衆だ。

 十中八九、僕の経験したそれとは無関係なんだろうけれど、……もしかして、なんて風に思ってしまう。


「詳しい特徴、見分け方はまた時間のある時に説明してやる。今回は俺と吉次に任せろ。渦潮の忍びなら我らと協力関係にあるが、符牒を使わなかったので恐らく違う。念の為、もう一度確かめるが、期待はできん。雪狼、俗楽の花なら、それも構わん。転生衆も、まぁいいだろう。だが三猿忍軍や舶来衆の忍びだと判断したなら始末する」

 至極当然のように、六座は相手を始末する、つまりは殺すと口にした。

 今回の任務は、初めはどうかと思ったが、人死にも出さずに無事に終わったのに、まさか帰り道でこんな事になるなんて、忍びというのは本当に、どうしようもない。




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俗楽の花、くノ一多そう。
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