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5話:公認のカップル

 それから私とアランは何かと一緒に居ることが増えた。

 ある意味の連帯感が私の中のアランへの忌避感を抑えた結果かもしれない、と他人事のように考えている自分がいる半面、純粋に前世からの推しであるアランと距離が近くなった事を喜ぶ自分もいる。

 好きだなぁ、って思うタイミングはもちろんあってですね…… 自制できる自信がない。


 本当に、やっかいな本性と…… 彼の所属が厄介すぎるのよねぇ。

 闇ギルド、それは誰もが知っているのに誰も検挙できてない組織。諜報、暗殺、人身売買、なんでもありだったはず。

 闇ギルドと接点があるような高位貴族以外は普通アクセスしようもない所な上、各国の上位層に食い込む癌なのでどこの国も脛に傷があって排除もできない厄介な人種の坩堝。


 その闇ギルドに所属するアランは、若いけれど実力のある暗殺者かつ、サイコパスな所のある性格破綻者。

 マシな表現をすると病んでる。ヤンデレではない、病んでる。

 少なくともゲーム上のアランは主人公が自分に落ちたと判断した瞬間から激変、意味不明な選択を常に迫り、選択をミスると躊躇なく殺し、正解を引き続け精神的に疲労して行く主人公を愛でるドSぶりを発揮したかと思うと……。

 今度は自分を殺すように言う。そこで葛藤する主人公と、でも引っ張りすぎるとやはり飽きて殺されると言う非常に、非常に厄介で面倒でサイコな攻略対象。それがアランと言う存在。


 ただ、ビジュアルと声がドストライクだった!!なんならサイコなとこもゲームの登場人物だったから愛おしかったんですよ!!

 それが、今、割と至近距離で近くに常にいる環境で…… オタクが逆らえると思う?

 迷うことなくNOですよ。顔がイイ、声もイイ。一生そのまま猫被ってて欲しい。

 地毛の方が好きだけど、今の髪色も別に嫌いじゃないし。


「リリ?」

「うん?」


 しまった、思考が完全に明後日の方向に飛んでいたわ。そして、不味い……。

 この目の前の顔面偏差値が激高い男の目が細める時は危険の合図だ。

 ましてや、今はデートで学園都市のカフェのテラスに来てる。


「うん、わかってるよね?」

「なあに?」

「リリ、誤魔化しても許さないよ?」

「いや、あの、アラン……」

「うん?」

「ごめん、アランがカッコイイから…… つい思考が現実逃避してた……」


 自分の顔が熱くなるのを自覚しつつも、素直に謝る。

 くっ……、でも、素直に認めないとマジで怖いんだ。ああ、恥ずかしい、推し本人目の前に推していると白状するようなもので恥ずか死ぬ……。けど、散々嬲られた後結局白状させられるよりは!!


「本当に?」

「本当に。だって、未だにアランが私と居てくれるのが信じがたいし」

「リリは可愛いし、貴族の令嬢なんだよ?」

「うーん、でも学園じゃ珍しくもないし、アランは褒めてくれるけど十人並の容姿だしなぁ……」

「なんでこう、リリは自己評価が低いかな?」

「そこは諦めて」


 そう言って苦笑する私にアランは困った笑顔で頭を撫でてくれる。

 この瞬間がくすぐったくて、嬉しくて、絆されてしまう。大きな手が思いの外優しいから、温かいから、甘えてしまう。

 でも、堕ちきる訳には行かない。私は死にたくない。だから、アランを焦らし、まだだと無言で少しだけ突き放す。



 そんな、なんでもない日常が続いて行く。

 私は学業をこなしつつ、アランと交流を重ねつつ、アランが隣に居ることが当たり前になりつつあった。


 魔法薬のクラスでは相変わらずルイーゼがトラブルを起こし、アランが笑顔で怒りながら対応をしている。

 私はアランからも巻き込みたくないから、ルイーゼにはなるべく関わるなと言われているので少し距離を置いている。

 とはいえ、少しずつ、本当に亀の歩みだけどルイーゼも事故が減ってきてはいる。亀の歩みだけれども。


 それでもルイーゼのフォローをした後のアランの機嫌は非常に悪いので、大体お昼休み私は学園の裏庭に連行されていた。

 普段は特大の猫を被って我慢していたはずが、最近私に対しては隠さなくなったのは良い事なのか、不味いのか。距離が近くなっているのは間違いない。

 今日もアランは氷点下の眼差しで機嫌が悪く、私は肩を竦めて裏庭のベンチに敷物を敷いてカフェテリアで買ってきたお弁当を準備する。


「アラン、準備できたよー」

「ん」


 返事があるだけ今日はマシだな。

 私の隣に来たかと思ったら、当たり前のように膝枕で横になりましたよ。


「眩しくない?」

「眩しい」

「もう、仕方ないなぁ」


 ハンカチを畳んで目の上に乗せてあげる。

 ため息をついて、内心きっと罵倒しまくっているであろうアランに気にしない素振りで話しかける。


「今日は卵、胡瓜のマスタードマヨネーズ、ハムチーズ、トマトとアボカドのサンドイッチだよ。

 なにがいい?」

「トマト以外」

「じゃあ、トマトとアボカドね〜」

「リリ?」

「冗談よ、今のアランにそんな怖いことしないよ。

 ほら、ハムチーズ」


 アランの口元にサンドイッチを差し出すと躊躇なく齧る。

 私が嫌がらせをする可能性は考えないのかと一瞬思うが、そしたら後でやり返せばいいと考えているだろうなと理解する。

 アランは別にトマトが食べられない訳じゃなく、あまり好きじゃない、だけだ。たぶん、パンがベチャつくのが嫌なんだろうな、と察しはついている。


 遠慮なく横になったまま私に食べさせてもらうアランを眺めつつ、私もこの関係に慣れつつある事を自覚していた。

 食事を終えて、そのまま横になっているアランは首疲れないかなと思いつつ、髪を梳くように撫でる。

 サラサラで、本当に綺麗に染まっている。

 前世のカラーリングのように根元が地の色が出たりもしていない。これも魔法薬かしら?と思いつつ、結っているアランの髪を解いて梳いていく。


「リリ?」

「あら、起きるの?」


 私の手を掴んだアランはそのまま私を引き寄せる。

 膝にアランの頭を乗せたまま斜めに倒される体勢が地味にキツい。


「アラン?」


 ふっと笑う気配が感じられるが、私はアランの上に被さっているような体勢だから何も見えない。

 その時、不埒な手が悪戯をして来た。


「あ、あらん?!」

「目の前にあるから、仕方ないよね?」

「仕方なく無いでしょ?アランがこの体勢にしたのに!

 というか、この体勢、辛い……」

「ああ、ごめんね」


 そう言うと手を放してくれたので体勢を戻してホッとした次の瞬間、私は押し倒されていた。

 どうしてこうなった?


「うん、悪戯な仔猫にお仕置かな?」

「待って、頭痛くならないかなって親切心よ?!」

「じゃあ、ご褒美♡」


 止める気は無いって事ですね。はい。

 じゃなくて!!

 何処まで何をされるんだろう、と思うと自然と緊張して体が強ばる。

 アランの顔が近づいてきて、思わず目を瞑ってしまうと、鼻を齧られた!!


「いたっ!」


 くすくす笑うアランの声に目を開くと目の前にアランの顔があって、焦る。


「キスされると思った?」

「っ!!……思った……」


 からかわれたと不貞腐れたら、次の瞬間キスされていた。


「えっ……」


 驚いている間に、2度、3度と繰り返し啄むようにキスされ、私の頭の中は完全にパニックだった。


「あ、アラン……」

「ほら、黙って」


 そのままキスが深くなり、翻弄されてしまう。


 ようやく離された時には、息も絶え絶えでアランに抱き抱えられていた。


「リリ、リリアナ、こういうのは耐性ないんだな?

 キスは初めて?」

「初めてに決まってるでしょ、これでも一応貴族令嬢なのよ」

「そんな令嬢が平民のオレとキスしていいの?」

「意地悪……」

「ちゃんと答えて」


 本当にこの病んでるは度し難い。


「アラン以外、嫌よ」

「オレはいいの?」

「!!もう、バカ!意地悪!」


 怒る私にアランはひとしきり笑うと、また私を抱き寄せて首元に顔を埋めてきた。


「ちょっ、アラン、くすぐったい……

 あっ!!」


 首筋がピリっとして、何をされたか察したけど!!はあ?!嘘でしょ?!!!

 まだ午後の授業あるのよ?


「あ、あ、あ、あらん!!!」

「ふふっ。リリアナ、今日は髪、結ったらダメだよ?

 リリの肌は白いから、良く目立つね♪」

「アランのバカー!!」


 私の怒りにアランは楽しそうに笑うだけだった。

 そして、私の声は意外と響いていたらしい。(恥)

読んでいただきありがとうございます。

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