呼び出し…?
よろしくお願いします。
お久しぶりです。
どこで切ればいいかが分からない…なのでいつもより少し長めです。
ちりめんちゃんねるに会ってから数日。私はいつも通りの日常に戻っていた。彼らに出会った日は、彼らがどんな人か気になって調べたけど、一通りw〇kiで記事を読んだらもう興味が無くなった。なんか結構凄いらしい人達だってことは分かったけど、会えたからと言って私の推しでもない限り私が喜び咽び泣くことは無い(ドヤッ)!
とはいえ、ひとつ違うことといえば……
「み”れ”い”””ぃぃぃ!!!!なんでインタビューすぐ切り上げちゃったのー?!」
一言も喋れなかったあいりが休み時間の度に私の机の前に来て咽び泣いて行くことだろう。よほど悔しかったのか、毎時間飽きることも無く通いつめている(この時間もだ)。毎度席を譲らされてる私の前の席にいる山田くん(仮称、実際の名前は知らん)が可哀想な程だ。
「またその話ー?あいりが魂抜かしてたのが悪いでしょってば」
「だってだってだってさぁ!今一番好きな人が目の前にいるんだよ??喋れないに決まってるじゃん!」
「そう?…とはいえ喋らなかったのは自分なんだから、責めるなら自分を責めなさいな」
「えぇぇぇぇぇ!!!美澪冷たい!!!」
「はいはいもうなんでもいいから」
山田くんの席に座ってこっちを振り返りながら続く、あいりの愚痴を躱しながら前の授業の片付けていると…
「神楽さーーん」
教室前方から担任である大和先生に声を掛けられた。大和先生は30代前半くらいの、若く艶やかな黒髪のポニーテールが印象的な先生である。
「はい!」
返事をするとちょいちょい、と手招きされたので先生の元へと駆け足で行く。すると何を思ったのか、あいりもついてきた。
「ちょっと神楽さんにお話したいことがあってね?今日の放課後16時半に職員室に来て貰えないかな?」
なんだろう、何かしちゃったかな?と思いつつも、断る理由もないので頷く。
「わかりました、16時半ですね」
「センセー!私も行っていいですかー?」
何を思ったのか、背後からから私たちの会話を覗いていたあいりが口を挟んできた。
「ちょっとあいり、何してんの」
「いいのよ、塚本さんも関係者だから」
「いいんですか先生……って、え?関係者、って何ですか?」
「ふふふ。それも含めて放課後、ね?」
「分かりました!やった!」
私の代わりに返事をした(?)あいりを横目で少し睨みながら、先生に会釈をして自席に戻る。呼び出されることなんてした覚えないけど、何があったのかな?
「呼び出しされちゃった!何かな何かな〜?」
「なんでそんなあいりはルンルンなのよ、ほんとに」
「だって面白そうじゃん〜?どっきどっき」
「口でドキドキ言うな!」
「おっと、チャイムなるから戻るねん」
「話聞けー!」
すたこらさっさと席に戻って行ったあいりに少し、どころかだいぶ怒りながら呼び出された理由を考えていると、残りの授業はあっという間だった。
✻ ✻ ✻ ✻
「失礼します」
そして放課後。大和先生に言われたように、私とあいりは職員室に来ていた。
ノックをして中に入り、大和先生を探す。……右奥か。先生の姿はすぐに見つけられた。
「先生、神楽と塚本です」
先生に歩み寄りかけた私たちの声に、先生は振り返って返事をした。
「おお、よく来てくれたね。せっかく職員室に来てくれてなんだけど、用事は校長室にあるんだ。これから一緒に来てくれるかな?」
椅子から立ち上がりながら言った先生の言葉に、私たちはNOとは言えずに頷いた。
廊下へと戻り、職員室の向かい側にある校長室の扉をノックし開けた先生に続いて校長室の中に入る。すると、奥のデスクに着いていた校長が立ち上がったのが見えた。
「神楽さんと塚本さんかな?来てくれてありがとう
さ、どうぞ座って座って」
こちらに歩き寄りながらソファを手で示した校長の勧めにのって、私たちは校長と大和先生と向かい合うように座った。
「さて、おふたりに来てもらった用事についてなんだけど。以前、駅前でなにか…あれ、なんだっけ」
「先生、ユツバーです」
「そうだ、ユツバー。それの動画に出たことはなかったかい?」
何か問題でもあったっけ、と心当たりを探しても全く見つからず、はてなを浮かべながらあいりの方を向く。すると彼女も全く同じ状況のようで、お互い顔を見合せて首を傾げた。
訳の分からないまま校長の方に向き直り、私は口を開いた。
「この前出はしましたけど…何か問題でもありましたか?校則的には何も問題なかったと思うんですけど」
頭の中で生徒手帳を捲りながら、校則違反がなかったことを今更だけど確認しながら放った私の言葉に、校長先生は首を横に振った。
「いやいや、全く君たちの行動に問題は何も無かったんだよ。ただね、一つだけ問題が起きてしまっていてね。
君たちが写ったユツバを見たチャンネルのファンの間で君たちのことが話題になっているみたいなんだ。君たちが制服で写ってたもんだから、この学校が特定されてしまって連日学校に電話が来るんだよ」
まさかそんなことになるなんて、と驚きを隠せない様子であいりが反応した。
「そっ、そんなことがあるんですか?!」
「僕たちも今とても驚いていてね…。電話だけだったらいいんだけど、最近先生たちの間で不審者を校門前で見たとかって声が上がっていてね。これはいかんと
思って、君たちにも伝えることにしたんだ」
「それはご迷惑をかけて本当にすみませんでした。
あの、そうしたら私たちはどうすればいいですか?」
校長に2人で頭を下げたあとで、対処法について聞いた。すると校長は少し表情を緩めてから、驚きの提案をしてきたのであった。
「今回の件は君たちには全く非はないわけだから、謝らなくていいよ。校則違反もしていないしね、君たちに罰とかはない。
とはいえここまでの事態になってしまった以上、君たちの身の安全が保証されるか分からないのは事実だ。
そこで私たちからの提案なんだけど、君たちが一度芸能事務所に所属してみるのはどうだろうか?」
校長からのまさかの提案に、また私たち二人は顔を見合せた。え、なんでそんな話になった?
「あの、どうしてその案が出てきたんですか?」
「実は私の個人的な知り合いで大手芸能事務所の副社長をしている人がいてね。芸能事務所ならこういうネットでの騒ぎに慣れてると思って、この騒ぎが起きて直ぐにどう対応すればいいか聞いてみたら、うちの事務所に所属しないか?と提案してくれたんだ。
彼によると、ここまで大きくなった騒ぎは、放っておくと悪質なストーカー被害にも繋がるみたいなんだ。だからとりあえず所属するだけして、活動とかは何もしない状態にすればいい、と言っていた。何か困ったことがあれば事務所を通してください、と言えるからきっと対応も楽になるだろう。あぁそうだ、勿論そのまま芸能活動をしたいと言うならしても構わないよ」
自分たちの身を守る上でとても有難過ぎるくらいの提案に、なんて言っていいのか分からなくなる。普通そんなことあるのか?っていう気持ちでいっぱいだ。あれでも、ちょっと待って……
「すみません、校長先生のご提案はとてもありがたいものなんですが……事務所に入る上でお金がかかったりするんじゃないんですか?だとしたら、このご提案はありがたいですけど両親にも許可を得るのが難しくなると思うので、簡単に受けられる話じゃなくなってくるというか…」
「あぁ、その点は気にしなくていい。先方から、大したことじゃないからお金は必要ないと言われている。ただ一つだけ条件があるんだが…。」
「その条件というのは何でしょうか?」
言いにくそうに言葉を濁した校長先生に続けて、身を乗り出したあいりが続きを急かした。
「1度だけでいいからレッスンを受けて見てほしい、とのことだ。なんでも、副社長が社長に事情を説明しに行った時に君たちの映像を見せたら、社長が君たちの才能の虜になってしまったみたいでね。1度でいいからレッスンを受けてみて、その才能を確認させて欲しいそうだ。もちろんこの費用などは一切かからないから気にしないでくれ。とりあえず、1日レッスンを受けるだけで君たちの身の安全がこのままの状態よりもはるかに保証される。どうだろう、悪い条件じゃないと思うんだが」
唐突すぎる校長先生の言葉に私たちはまた顔を見合せた。提案自体はありがたいんだけど、これはどうしたらいいんだろう…。
どう返事すればいいか検討もつかない私達をみて、校長先生は苦笑して口を開いた。
「急な話だからすぐには判断できないだろうから、返事は後日でも構わないよ。それこそ親御さんに話すべきことだから、ご家庭で話し合って決めて欲しい。君たちが望むなら、直接副社長に話を聞くためのアポを取るのも構わない。私が調整しよう。
この件はゆっくり考えて欲しいものだが、この現状ではいつ何が起きるか分からないからね。出来れば早めに決断して欲しい、とは伝えておく。
どうするか決まったら、大和先生に声をかけてくれ。大和先生から私に連絡して貰う。その上で対応していくからね。
今日の話は以上だ。なにか質問はあるかね?」
何が何だか分からないけど、大人の人達が色々と動こうとしてくれてるのは分かる。とりあえず、家に帰ったらしっかりと親と話し合わないと。
「私は大丈夫です。あいりは?」
「私も大丈夫…です。家で話してみます」
「それなら良かった。是非話し合ってくれ。
今日は時間を取らして悪かったね。もう解散でいいよ」
校長先生に促されるまま、私たちは校長室から出て大和先生とも別れた。
いつものように帰路についたが、さっきの話が衝撃すぎたのかあいりの口数が明らかに少ない。
「びっくりしたよねー、こんな話しされるとは思わなかった」
なんとも言えない空気をどうにかしようと、私はあいりに話しかける。
「ねー、ほんとにびっくりした…まさかこんなことになるなんて…」
何か思い悩んでいるかのように、あいりは俯きがちなまま途切れ途切れに返事してきた。
「驚きだよねー。もしかして私たち、アイドルに……?!」
おちゃらけて言った私の言葉で、暗かったあいりの顔に少し明るさが戻った。
「ほんとにそうなるかは分からないけどね?」
「まあねー。でも、全く知らない世界のこと知れそうで面白そう!それに、そういう業界の人の方がストーカーとかの対処法とか詳しそうだからさ。身の安全って面でも、私はこの話を受けるのはありがなって思うよ」
「まあそうだね。家帰ったらママたちと相談してみる」
「私もお母さんたちに聞いてみるわー。すぐ決めるのは難しいし1度副社長さんにお話聞くのも選択肢全然ありだよね。結論どうなったかはL○NEで報告するね。」
「おっけー、私も連絡するわ」
ちょうど分かれ道のところに差し掛かり、あいりと手を振って分かれた。
あいりにしては珍しくかなり暗めな顔をしてたのが気になるなぁ…どうしたんだろうか。何もなければいいけど。
少し大変なことになっちゃったけど、知らない世界を知れるのは楽しみだな。どうやってお母さん達を説得しよう?まずは経緯の説得をして、今身に危険が及びそうなこと、詳しい話は副社長さんに聞けること…こんな感じのことを話せば少しは耳を貸してくれるだろうか。
上手くいくかは分からないけど…お母さん達を説得して、知らないことをいっぱい知れたらいいな。
ありがとうございました