opening
突発的に始めました、よろしくお願いします
すぅぅ、はぁぁぁ。
幕の向こう側から伝わる観客の期待を感じながら、人生初の大舞台による緊張を何とか逃そうと深呼吸をする。そして知らずのうちにきつくにじりしめていた両手をゆっくりと開くと、幕の間から差し込む光によってじっとりとかいた手汗が見えた。それを何とか乾かそうとして、私ーーみれいは手を振った。
そんな私の背中に、バーン!と衝撃がはしる。なんだ、と思い振り返ると、相棒であるあいりの姿があった。
「みーれい!何辛気臭い顔してんの!ほら笑って笑って!」
「あいり…。そうは言っても人生初のドームツアー初日公演なんだから、緊張するに決まってるでしょ…」
「そう?これまであれだけ練習してきたんだから大丈夫でしょ。」
そう言ってニッ!とピースと笑みをうかべた彼女は、衣装を着た私を上から下まで眺めて、満足気に笑った。
「それにしてもさすが100年に一度の美少女。衣装似合ってんね〜」
「私よりもあいりのほうが可愛いでしょうが……」
これまで何度も言われてきたあいりからのからかいをいつも通りの台詞であしらいながら、改めて自分の衣装を見下ろす。
私のメンバーカラーであるアクアブルーを基調とした衣装は、ふわりとしたスリーブ、ウエストを強調するような太いベルト、それについている模造石、膝上15センチのスカートーー中に入ったパニエのおかげで可愛さが強調されているーーという、正しく『アイドル』らしい格好だ。
「ね?ほら可愛いでしょ?だから大丈夫だって、みんなみれいに圧倒されるから!」
「何が大丈夫なの……なんで私、こんなところに」
「もー、まだその話?ここまで来たんだからもういいでしょって!」
「そうは言っても…」
「ふたりとも、もうすぐ出番です!スタンバイお願い!」
背後から掛けられたマネージャーの言葉に、私たちは弾かれたように振り返って返事をした。
「「分かりました!」」
お互いの衣装を見直し、変なところがないか確認してからステージ袖へと向かい、あいりと目を合わせて頷いた。
「いくよ、あいり。初舞台だからといってヘマしないでよ?」
「大丈夫だって、みれい。背中は安心して任せて」
ステージスタッフが開けた幕の間から射し込むステージライトを全身に浴びながら、私とあいりは不敵に笑って拳をぶつけあった。
「MInuitさん登場までー、さんー、にー、いちーーー」
私はあいりと共に眩しい光の中に飛び込みながら、こんな状況になった発端を思い出していたーーー。
ありがとうございました