世界が変わる日
いつものように本を読んでいると勢いよく扉が壊され数人の首輪で奴隷となっている騎士とメイドが部屋に入ってきた。扉が空くのは数年ぶりのため立て付けが悪くなっていたのだろう。なかなか開かずく大きなハンマーを使って破壊したようだ。
「おい!早く着替えろ!ったく相変わらず汚ねぇな~!
喜べお前は今日王様になれるぞ!平民どもが暴動を起こしやがって王を殺すために城に向かっている。お前を王様として差し出して俺たちが逃げる時間を稼ぐのさ!」
一番偉そうな首輪をしていない男の指示で服を着替えさせられていく、ろくなものを食べておらず、ずっと閉じ込められているノアールには抵抗する力など残っていない。
力尽くで乱暴に着替えさせられるとそのまま王の間にある立派な王の椅子まで引きづられ、そこで動けないように縄で縛り付けられた。
そして張り紙をつけた看板を起き騎士やメイドは足早にその場を後にしていくのだった。
【椅子に縛られている男がこの国の王である!俺が従属の首輪を作ったのだ!】
看板にはそう書かれていた。こんな文章を書いたとしても、平民は勉強なんてしていないため誰も読めないことを知らないのだろう。遠くから大勢の声が聞こえる。
もうすぐ傍まで怒れる民たちが押し寄せてきているのだろう。
「俺は今日死ぬのか。もうあの綺麗な鳥にはもう会えないのだな・・。」
そう呟いた時、部屋の窓からあの鳥が飛んできてノアールの数メートル先に降り立ち看板を読んでいるような仕草をしている。先程まで聞こえていた大勢の声は鳥が降り立った瞬間から聞こえなくなったていた。まるで世界には鳥とノアールしか居ないかのように静かだった。
「あぁ~君か・・君は物好きだね。
相変わらずとても綺麗だよ。君には綺麗なままでいてほしいな・・
もうここには来てはいけないよ、僕はどうやら死ぬみたいなんだ・・
またどこかで巡り会えるといいな・・」
鳥はしばらくノアールを見ていたが、急に飛び立つと姿を変えて人になった。
綺麗な緑色の髪の毛にグレーの瞳、シンプルな黒いローブのような服を着ていた。
「いらないのなら、私が貴方をもらってもいいかしら?」
「驚いた。君は綺麗な鳥ではなく、綺麗な女性にもなれたんだね。素敵だ・・」
ノアールはそれだけ言うと突然現れた女を見つめ続けていた。
「本当に驚いているの?反応が薄いのね・・まぁいいわ!
いつも褒めてくれてありがとう・・
私ね、ずっと独りなの。ねぇ、私のものになってくれない?
嫌なら断ってくれていいいわよ。今ならまだ貴方を手放せるもの。
肩で休ませてくれたお礼に貴方の望むように助けてあげてもいいのよ」
「長年独りでいたせいかうまく表情を変えられないみたいだ。こう見えてとても驚いているんだよ。
僕には何もない、見ての通り力も体力も無くとても汚れていてガリガリだ・・
それでも君が欲しいと言ってくれるなら僕の全てを君に・・好きにしていいよ・・
君といる時間だけが僕にとって意味のあるものだった・・ずっとお礼がしたかったんだ・・
君にあげられるものがあってよかった・・」
「ああ・・いいわ・・本当に素晴らしい・・」
ノアールの世界はずっと嘲笑、暴力、暴言など酷いもので溢れていて、感情を持っているととても耐えられないものだった。毎日塔の中で本を読むだけの日々だった。時間が進んでいるのか、止まっているのか、産まれてからどのくらいたったのか、もう分からなくなっていた。
ただ鳥が訪れるようになってからは、以前鳥が来た日はこんなことをしたなと思い出と呼べるものができたのだ。鳥と一緒にいた時間だけが記憶に残る。鳥が居ない間はずっと代わり映えがない、記憶にも残らずただ過ぎていくだけの時間だった。
「僕には君以外はいらない。君の望むようにするといい。
僕はノアール、最後に貴方の名前を教えてもらってもいいかな」
「私はヘーレー・リタ・エニグマ。長いからリタでいいわ。
貴方の全てをもらう・・もう貴方は私だけのものよ。
代わりに私の全てをノアール・・貴方にあげる」
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