第三話 初任務の洗礼
『...本日は一日晴れとなり、過ごしやすい日になりそうです。』
10月にもなると晴れでも過ごしやすい日になるらしい。
寝ぼけた頭をコーヒーで起こしながらそんなことを考えていた。
引っ越しを終え落ち着き、今日は特異5課と同伴の初任務だ。
準備をし教会の近くのマンションの部屋を出ると、
ちょうど奏も部屋を出たらしく、すれ違った。
「あっ、おはようございます。トーマさん。」
「おはよう。奏。」
挨拶を交わし、他愛もない会話をしながら教会へ向かう。
「おはよう。気分はどうだ。」
特異5課の部署に入ると課長の杉村敦さんが挨拶をしてくれた。
「おはよー。最近涼しくなったね。」
この人は副課長の天草飛鳥さん。敦さんとは交際関係にあるらしい。噂だけど。
「「おはようございます。」」
「おはよっ、奏。トーマくん。」
「おはよ。」
「おはようございます。」
「奏~今日もかわい~。うりうり。」
「お世辞はやめてください//。」
こいつは春川綾音。奏のことを気に入ってるらしい。
「ほどほどにしとけよ...あっ。」
「おはざーす。」
「よう。一番最後だ。」
晃一も挨拶を交わし、作戦会議の時間になった。
作戦会議といっても、前日の時間にほとんど終わっているから確認だけだ。
「二人組で行動。危なかったらすぐに連絡すること。そして、仲間から連絡が来たらすぐに駆けつけること。とにかくこれだけだ。あとは普通の調査だからそんなに緊張しなくて良い。」
「それじゃ、生きて帰るぞ!」
「「はい!」」
「ちょっと失礼。」
気合いを入れた後、意外な人物が部署に来た。
「教会長!?」
「いやいや、トーマくん達は一応5課としては初任務だからね。」
「儂もついていこうかと。」
なるほど。それなら心強いかも。
「わかりました。じゃあ大体ここら辺の調査を。」
「わかった。助けが必要ならすぐに連絡してくれ。儂が駆けつけよう。」
強いとは聞いているが...正直実力はわからない。
一人行動の教会長が加わり、任務へ出発した。
任務内容は調査。郊外にある立ち入り禁止区域の吸血鬼の
縄張りを発見し、縄張り内の吸血鬼を狩っていくという任務だ。
「それじゃあ、全員一時にここに集合だ。調査を頑張ろう。」
敦さんの掛け声と共に全員が調査を開始した。俺は奏と同行だ。
「トーマさんは調査に行ったことはあるんですか?」
「一回だけ母親につれてってもらったことはあるな。」
「お母様も吸血鬼狩りだったんですか!?」
「ん?あぁ。そうだよ。」
過去のことは教会長くらいしか知らない。面倒ごとを避けるためにだが。
「グゥ...グアァ」
犬が唸るような、しかしそれとは
異なる声帯から発せられるような声が聞こえる。
「吸血鬼だ。」
腰の剣に手を掛ける。
奏も構えているようだ。
「グアァア」
前方から一体。後方から一体。
前方を狩るべきか。
「光刃!!」
前方の恐らく下位であろう吸血鬼の首を捉え
切断する。
「奏っ」
「はい!」
奏が拳銃を構え、胴体を撃ち抜くと
吸血鬼の上半身は跡形もなく消え去った。
「恐ろしい威力だな...。」
二人してその威力に驚いている。
術式の刻み込まれた武器でもここまでの威力は見たことがない。
二体の体の残った部分も崩れ去った。
吸血鬼の特徴だ。
「こっちから来たよな...?」
「こっちの方、魔力が濃いですね...。」
「そうだな。巣はこっちの方かも。」
瞬間。後ろからコンクリートが破壊される音が響く。
後ろを振り向くと、そこには一体の吸血鬼と
空を浮かぶコンクリートが見えた。
コンクリート達は丸められたティッシュのようにくしゃくしゃになっている。
「よう、ニイちゃんたち。元気か?」
彼は平然と挨拶をする。
今朝のように挨拶を交わす余裕は全くなかった。
全体を見る。
いや、正確には見ようとするが、
あの男という異質な存在から目を離せない。
「土属性魔術...?」
「ご名答。」
そうだ。魔術だ。
だがそれがわかってどうする。
「あ、あ。」
声が漏れる。本能が危険信号を出し、
心臓が逃げろと心拍を早める。
「おォ。運が良い。」
「半吸血鬼もいるじゃねぇか。」
狙いは奏か?
「おい、一緒に来い。」
キィィィンという音が耳を掠める。
「あぅ」
「奏っ!」
服従信号。
自身より位が下の吸血鬼に送ることが出来る。
「だめだっ...!」
必死に呼び止めるが反応はない。
当たり前だ。それが服従信号だから。
なにもできない。
俺にはなにも。
「くっ...!」
攻撃を試みようと前に出る。愚かな行為だ。
「そりゃ悪手だぜ?」
わかってる。でも。
でも、とにかく。
目の前の驚異から、奏を救わなければ。
そんな俺に容赦なく、岩をまとった大剣が振り落とされた...
序盤に出てくるめっちゃ強い敵キャラが好きです。
次回をお楽しみに。