第二話 奇想天外なモーニング
どうやら思い出したらしい。
「あのえっとあれは違うんです!」
「その...体の制御が効かなかったていうか!」
「と、とにかく違うんです!!」
頬を赤らめながら必死にそんなことを言う。可愛いかよ。
「俺としては良いもん見れたなぁくらいにしか思ってないんだけど...なんだ、我慢してたんだろ。血を吸わないように。」
「俺の血くらい別にいつ求めてくれたって構わないさ。」
「だから自分の体を大切にするんだ。俺みたいな奴にキス何てしない方がいいぞ。」
「そんな!トーマさんは良い人です!だから...その...うぅ。」
「あー...まぁとにかく血飲みたくなったらいつでも言ってくれ。」
「...はい。」
少し悩んだ末そう答えた。
「あれ?なんも気にせず喋ってたけど、奏は日光は大丈夫なの?」
なんか気まずいし、話題をそらす。
「一応混血なので、ただの日光くらいなら大丈夫だと思います。」
「それなら安心だな。」
そう言いつつスマートフォンを起動する。今は7:48だそうだ。
「今から、教会の人に来てもらう。俺の同僚にね。」
「教会の人ですか...」
彼女の表情が曇る。当然と言えば当然だが。
「大丈夫だよ。面白いやつだし、融通もきく。」
そう彼女をなだめると、朝食の準備をする。
「朝はパン派?ご飯派?」
「パン派です。」
「なるほど。目玉焼きトーストにでもするか。」
キッチンへ着き再度スマホを取り出す。
短い着信音のあと、俺の同僚...柏田晃一が電話に出た。
「もしもし。」
「おはよう一晃。少し話したいことがあるんだ。」
「突然だな...わかった。内容は?」
「うちに来てほしい。話しはそこでする。」
「...そこでしか話せないんだな?」
「ああ。」
「わかった。八時半くらいには向かうよ。」
「ありがとう。それじゃあまた。」
「ああ、後でな。」
電話を切ると、奏が近くに立ちキッチンを眺めている。
「どうした?」
「いや、えっと...昨日はお夕飯を作っていただいたので...私もお手伝いできたらと思って...。」
「あー...いや、うーん。」
実際、料理はそこまで好きではないしここまで言ってもらったのだから、
「よし、自分のは作ってもらおうかな。」
「はい...!」
彼女にキッチンの設備や冷蔵庫について説明し、朝食を作り始めた。
少しして、
「すげぇ。」
彼女の料理の速度、精度は驚くべきものだった。
卵の割り方など目を見張るものがあった。
朝食を食べながら、奏と本について話す。
一夜読んだだけとは思えない知識量で、これまた驚いた。
「この本、前に読んだりしたの?」
「いや、全然読んでないです。」
彼女に感心しながら朝食を食べ終えた。
「生活の備品とか買わないとな~。」
そんなことを話していると、目の前にある男が現れた。
「邪魔するぜー。」
八時半ぴったりに晃一が能力を使い現れる。心臓に悪い。
「わっ」
言わんこっちゃない。奏もかなり驚いたようだ。
「あ、失礼。」
「お前なぁ、ノックくらいしろってんだ。」
「こりゃ失礼。大丈夫か?」
「...はい。」
「あのなぁ...。」
そう言いかけるが、話が優先だ。
「いやぁ、全速力できたからなんも見てなかったわ。で、話って?」
「あー...とりあえずそこ座ってくれ。奏は俺の隣ね。」
ソファに腰を掛けると、奏に紹介を始める。
「この不法侵入男が柏田晃一。紹介するほどの男でもないからすぐ本題に移ろう。」
「ん、よろしく。」
「よろしくお願いします。」
奏も警戒モードに入っている。
「話って言うのは、この子...奏について、だ。」
「十中八九、どうするかだろ。決まってたら誰にも言わないはずだ。」
「オレは鼻が利く。だからその子が混種ってこともわかった。だからこそ提案する。」
畳み掛けるように言ったあと彼はこういった。
「その子を、教会にスカウトする。」
「え?」
真っ先に反応したのが奏だった。教会に良い思い出はないだろうからな。
「特異5課なら、教会長も許してくれるだろ。」
「待て、この子は教会に狙われてたんだ。だから一発で捕まる。」
「だからこそだ。狙っていたことは一部の人しか知らない。それに特異5課に喧嘩売れるやつなんて早々いないだろう。」
「それに、お前が護衛につけばこの子も安心だろ。」
「確かにそうかもしれないです。」
マジで言ってる?
「まぁ、本人がそう言うなら。」
「ようし!スカウト成功だ。今から教会長のとこいくぞ。」
「今から!?」
「あたりめーだろ。ほらいくぞ!二人とも。」
「ちょっと待ってください!」
奏が声をあげる。
「どうし...あっ。」
「私、その...服がなくて...。」
少しの沈黙。全員が考えを巡らせた結果......。
「うお!めちゃ似合ってる。」
「すみません...ありがとうございます。」
公平で厳粛なじゃんけんの結果、俺が服の費用を払うことになった。
晃一もうきうきだ。
「まぁ、金はあるからいいんだけどよ。」
服を選び終わり、着替え、いよいよ教会へ向かうことになった。