第一話 道端のスノードロップ
アテナ-アーク-アンゲルス...かつて、吸血鬼の女王を討伐したとされる吸血鬼狩りだ。
そして、俺の母親でもある。正直、今でも信じられない事実だ。
そんな俺こと、
トーマ-アーク-アンゲルスは伝説の吸血鬼狩りの息子に恥じない実力を持っている...と信じている。
なぜこんなに自信がないかと言うと、間違いなく母さんのせいだ。
しかし、母さんを嫌っているというわけではない。むしろ母さんにも父さんにもかなり感謝している。俺の母さんは筋金入りの吸血鬼狩りというわけではなかった。
母さんは吸血鬼という一括りで判断するのではなく、''良い奴''か''悪い奴''かで判断する人だった。
俺もそういう吸血鬼狩りを目指している。
しかし、吸血鬼とは一般に認知されているものではないから、探偵事務所という建前で教会から任務を受け、生活している。
「はぁ、終わったー。」
土日に溜まっていた任務も終わり、仕事部屋の自分の椅子に腰を下ろす。16歳にやらせる量じゃないだろ。とっくに夜だぞ。
「ふぅ。」
コーヒーを飲み、リラックスする。今週の日曜日はよく休めそうだ。
「ん?」
ポケットのスマホが震える。教会の人からだ。
「もしもし、トーマです。」
「あぁ、トーマさん。臨時の捕獲依頼です。」
「捕獲ですか...わかりました。対象はどんな感じですか?」
「引き受けていただけるのですね。ありがたいです。」
「対象の見た目は15歳程度の少女で、特殊な拳銃を所持しているようです。」
「先程教会の吸血鬼狩りが、通報を受け捕獲に向かったのですが、現在連絡が取れていません。」
「情報を送るので至急向かってください。」
「了解です。すぐ向かいます。」
情報が送られ、電話が切れる。教会の人に伝えられた情報と地図が送られる。どうやら
廃ビルに立て籠っているらしい。
「よし、行くか。」
2本の軍刀を持ちマントを羽織る。討伐任務のときの正装だ。
「ここか。」
例の廃ビルを見つけ、侵入する。順番に部屋をクリアリングしていくとある部屋の前で足が止まる。
「まぁ、ここだろうな。」
死体特有の鼻をつく腐臭だ。息を吐き、ドアノブに手を掛ける。鍵は掛かっていないようだ。
「よし。」
気合いを入れドアを開ける。ドアの向こう、部屋の奥にリボルバーを構えた少女がいた。
例の少女だ。
「マジか!?」
銃弾が放たれる。すんでのところで身をかわし、銃弾は頬を掠める。
頬の血をぬぐい、能力で治癒を施す。吸血鬼狩りのの技だ。
少女を捉え、近付く構えをとる。少女のリボルバーから2発目の銃弾が発射される。
当然、見ているから余裕で避ける。
少女のリボルバーを掴み剣に手を掛ける。
すると少女は身体を強張らせぎゅっと目を瞑る。
そのとき、俺は手を止める。すると、
「殺して。」
少女が口を開いた。
「...どうして?」
「私はあなたに負けました。理由はそれだけです。」
俺が驚き混じりに訊ねると少女はそう答えた。
「生憎、俺は武士じゃないんだ。」
「ついてきて。俺の事務所で話を聞こう。」
「...はい。」
俺がそういうと少女は少し迷ったあと返事をした。素直なのはありがたい。
少女の拳銃をホルスターに戻すと、俺たちは事務所へ歩き出した。
廃ビルを後にした俺たちはそのまま探偵事務所へ戻った。
事務所のドアを開け、靴を脱ぐ。
「ようこそ我が探偵事務所へ。」
「って、自己紹介がまだだったね。俺はトーマ。よろしく。で、君の名前は?」
「...奏。」
苗字は名乗らない感じか。まぁ俺も名乗ってないし当然か。
「そこに来客用の机とソファがあるから、そこに―――」
そう言いかけたとき少女が口を開く。
「あ...あの!トーマさん!」
「ここに来るとき、どうして私を...見なかったんですか?」
「私が、銃で打つ可能性もあったはずなのに...」
「それは簡単さ。銃を見てごらん。」
奏の腰のホルスターを指差す。
「銃身に細工をしておいたんだ。君が誰かを撃とうと引き金を引くと爆発するようにね。」
「俺の血戦術でね。」
血戦術。血統とか、信仰する天使とかで決まる能力のようなものだ。
それの基礎技術である。
彼女が銃を見て、驚いた表情を見せる。
「俺はさっき、君の顔を見てこう思った。君は悪いことをする子じゃあないってね。」
「じゃあ何で...こんなことを?」
「演技の可能性も捨てきれないからな。杞憂だったらしいけど。」
来客用のソファに座り、対面で話す。
「さ、事情を聞かせてもらおうか。」
「は...はい。わかりました。」
「私には...半分人に血が混じっているんです。」
「だから、今までは普通の人として生活してきました。」
「ただ、1年前学校から帰ったとき、見てしまったんです。教会の人が...両親を拷問しているのを。」
教会の人?なるほど。そこが黒いのか。
「拷問内容は一貫してこうでした。''父と母どちらが吸血鬼か。''と。」
「だから、その...自分の正体に気付いて、怖くなってしまったんです。」
彼女の言葉に強い後悔の念を感じた。
「わかった。君のことはよくわかった。だからもうやめよう。」
「...はい。お気遣いありがとうございます。」
気遣いってか俺が言わせてんだよな。これ。
「うし。事情はわかった。とりあえずこの事務所兼自宅で君を匿うことにしよう。」
「え!?そ、そんなことさすがに―――」
「良いんだ。それに、君が外に出ると間違いなく教会の奴らに狙われる。」
「少女が苦しんでいるところは見たくないからね。」
「わかり...ました。しばらくお邪魔させていただきます。」
「よぅし。ならばお風呂に入ろう。服も汚れているだろうしね。」
「はい。お邪魔します。」
彼女に風呂の位置を教えると、そそくさと風呂に入った。
二人分の夕飯を作らないと。
あれ?着替えどうすんのこれ。
そう思い奏を呼び止める。
「ちょっと待って。」
「はい?なんですか?」
「着替えどうする?俺のでも着る?」
冗談交じりで聞いてみる。聞くだけなら無料だし。
「それ良いですね。」
へ?奏さん?
「え?マジ?」
「マジです。他に方法も無いですし。」
何だかんだあって俺の服を着ることになった。下着無いけどな。
程なくして奏が風呂から上がった。
「わー。ふふ。ぶかぶかですね。」
Oh...これは男として喜んで良いようなシチュエーションなのだろうか。
「夕飯作っといたから。食べようぜ。」
「...いただきます。」
訳アリだけど普通の可愛い女の子だな。
「いただきます。」
あんまり普通の食事をしてなかったっぽいから身体に優しい感じにしてみた。
美味しそうに食べてくれてうれしいぜ。
「ごちそうさまでした。」
「ごちそうさまでした。おいしかったです。」
「あぁ。ありがとう。」
「俺も風呂に入ってくるよ。」
「わかりました。じゃあ私は..そこの本読んでも良いですか?」
「うん。構わないよ。あんまり面白いものはないけど。」
「ありがとうございます。」
着替えを手に取り、脱衣所に向かう。
彼女を見ていると、ちょっと常識知らず感がある。箱入り娘みたいな感じだったのかな?
学校にも行ってないらしいし。たぶん学校に行かせると混血ってすぐバレるからだろうけど。
風呂を上がり、服を着て髪を乾かす。そして脱衣所を出ると奏はソファに座って本を読んでいた。
「これ..教会の奴ですよね。結構面白いです。」
彼女は少し微笑みながら言った。読んでいるのは俺の母さんが書いた本だ。
「これってノンフィクションですよね?」
「あぁ...まぁそうだと思う。表向きはただの小説だけど。」
「へぇー...書いた人に会ってみたいなぁ。」
ま、もう死んでるけどな。
「そうそう。君の銃について調べさせてもらっても良い?」
「はい。構いませんよ。」
銃を手に取る。グリップのところに『Snow Drop』と彫られている。
「これはどこで手に入れたの?」
「何年前かに親に『危ないときはこれを使いなさい。』って言われてて。それからずっと持ってます。使い方もその時に教わりました。」
ほへー。結構前から使ってるのね。
「あ、そうだ。ゲームとか興味ある?」
「ゲームですか...やったこと無いけど興味はあるなぁ。」
「よし、ならばやってみようではないか。」
それから数時間くらいゲームをやった。意外にも俺と奏のゲームの趣味があったから久々にかなり楽しむことができた。
一通り遊んだあと彼女を見ると、かなり眠そうだった。
「そろそろ寝るか。」
「ふぁい。そうしましょう。」
「歯ブラシは...予備の奴をあげよう。」
「ありがとうございます。」
歯磨きが終わり、本当に寝るだけになった。そこである重大なことに気付く。
「どこで寝るか。」
「さすがにソファに寝かせるわけにもいかないし...奏はベットで寝てくれ。俺はソファで寝る。」
「いや、さすがに申し訳ないです。だから...」
「一緒にベットで寝ましょう。」
いやマジで????????
「いや、俺も男だぞ。」
「?はい。わかってますよ。」
うーん...
もうどうにでもなれーーー☆。
というわけで、絶賛同じベットで寝ています。
絶対寝れないと思ったけど意外と寝れそうだわ。
そんなことを考えながら俺は眠りに落ちた......
初投稿です。
お読みいただきありがとうございます。
拙い文章ですが、「面白い!」と思っていただければ嬉しいです。
不定期投稿ですが、続けていくつもりですのでよろしくお願いします。
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