第84話 アイドルだった私、皇太子と口論
迎賓館は大層な賑わいを見せている。
それもそのはず、楽隊も全員いるし、マーメイドテイル六名にシートル四名。加えてマクラーン公爵夫妻に、今回の主賓であるバーナム・キディ第二皇太子。護衛もいるしメイドもいる。広い会場はまさにパーティ会場さながらの雰囲気だ。
「こ、こここんな場所でっ、私っ」
震え上がっているのはニーナとオーリン。二人とも貴族の娘じゃないし、そりゃ緊張もするわよね。なにしろキディ家……しかも第二皇子相手なんだもん。
「はいはい、気持ちはわかるけど落ち着いて。相手が王族だって思うから緊張するのよ。あれはルナウの友達。そう考えていればいいでしょう?」
私、何とか二人を落ち着かせようとする。
ルナウが最初にシートルに入った時も、ニーナとオーリンはガチガチに緊張してたっけ。でも、時間と共に、普通に話が出来るところまで関係は変わっていったのだ。
「ルナウ様の……、」
「お友達」
繰り返す二人。
「ね?」
片目を瞑って見せると、二人が大きく息を吐いた。うん、少しは落ち着いたかなぁ?
「あああああ、第二皇子がっ、」
「あなたっ」
手を握り合って震えているのは、マクラーン公爵夫妻である。まったく、みんな権力に弱すぎだわ……。私は黙って席に座った。
バーナムの挨拶が終わると、フロアは歓談の場となる。ルナウとマクラーン夫妻がバーナムのテーブルで何か話し込んでいた。私も挨拶に出向いた方がいいんだろうな、とわかっていたけど、もう少し時間を置いてからにすることにした。気持ちを落ち着かせないと、ボロが出ちゃいそうだったしね。
「リーシャ!」
呼ばれ、立ち上がる。わざと時間をずらそうと思ってたけど、ルナウに呼ばれてしまった。きっと彼は、私を紹介してくれようと呼んだんだろうな。
バーナムの前まで歩き、カーテシーを。
「ご挨拶が遅れました、マーメイドテイルのリーシャ・エイデルです」
恭しく頭を下げ、最上級の笑顔で挨拶をする。と、敵もさる者、
「初めまして。バーナム・キディだ。ルナウから話は聞いているよ。舞台、とても楽しみにしている」
と言って右手を差し出してきた。
よく言うわ、まったく。
私は黙ってその手を取り、握手を交わす。
「バーナム様、他のメンバーも紹介します。一緒に来て!」
ルナウは楽しそうにバーナムの手を引き、メンバーたちを代わる代わる紹介していく。第二皇子を連れ回すルナウを見て、私は少しだけ笑ってしまった。私もだけど、ルナウも大概ね。第二皇子相手にその扱い……。でも、バーナムはきっと、ルナウのこういうところが好きなんじゃないか、って思ったりもする。
「で、最後にマーメイドテイルのコーラスを担当してる二人なんだけど、」
ルナウがルルとイリスをバーナムの前に連れて来る。
「ルル・ヴェスタと、イリス・ザック」
「よろしく」
バーナムが笑いかけると、二人も恥ずかしそうにはにかむ。
「歌はこの二人からレッスン受けてるんですよ。特にルルは手厳しくて、」
「やだっルナウ様ったら変なこと言わないでくださいよぉ!」
ルルがルナウを軽く叩く。
「ほら! すぐ手が出る!」
そう言って、笑う。
「んもぅ、私そんなに乱暴じゃないです~!」
ルルがぷぅ、とむくれると、その頬をルナウが指で突く。
ぼふ、と空気が漏れ、ルナウが笑った。
……あんたたち、なにじゃれてんの?
私、思わず半眼で二人を見てしまう。と、まったく同じ顔でバーナムがルナウを見ていたのだ。
「リーシャ嬢、少しいいか?」
目の前でじゃれ合う旧友から視線を逸らし、バーナムがリーシャを呼んだ。
「なんです?」
すると、何故か腕を取られ、
「ちょっと風に当たりに行こう」
とベランダへと連れ出される。
なんというかこの人……ルナウの過保護な兄、って感じに見えてきた。
それにしても、さすがは第二皇子っていうか……バーナムが動くと護衛も一緒についてくるのよね。ゾロゾロ感、半端ない。
外はすっかり日も暮れている。が、迎賓館というだけあって建物の周りは外灯の火などで多少は明るい。会場の喧騒から一転、外は静かだった。
「お前たち、少しの間席を外せ」
バーナムが人払いをしようとする。が、側近らしき一名が、
「しかしっ、」
と止めに入った。バーナムはその彼を一睨み。まぁ、下がるしかないわよね。
人払いに成功すると、じっと私を見下ろすバーナム。言いたいことは、なんか、わかる。
「……さっきのあれは誰だ?」
「えっと、あれっていうのは……」
私、ワンチャンすっとぼけられないかな、って試してみるも、失敗。
「あの女は、誰だ」
……ですよね。
ふぅ、と溜息をつくと、
「さっき紹介があったでしょ? あの子はルル・ヴェスタ。ヴェスタ子爵の娘さんです」
「子爵っ?」
声を荒げるな、王族め!
「はいはい、わかってますって。身分、身分って、そういうことが言いたいんですよね? まったく、どいつもこいつも」
後半は勿論、小さな声で。しかしバーナムはそこにもツッコミを入れる。
「なんだその言い方は」
「あ、ごめんなさいね。本音が駄々洩れてしまいましたの。おほほ」
棒読みで返すと、目を見開き、
「お前、本当になんなんだ?」
と、割と真剣に言われてしまう。
「バーナム様は」
もう、こうなったら私だって黙っちゃない。言いたかったこと、聞いてみたかったことぶちまけてやるんだから!
「バーナム様は王族で、第二皇子で、今までそのように育てられ、そのように扱われてきたのでしょう?」
「……そうだが?」
「ルナウ様もそう。で、どうでした?」
「……どう、とは?」
「家柄や地位で決め付けられ、本当のバーナム様をわかってくれる人って、どのくらいいらっしゃいます? ルナウ様以外に」
痛いところを突かれたのか、グッと言葉を詰まらせるバーナムに、私は追い打ちをかけるように、言った。
「ルルはルナウ様を、王族のルナウ・キディとしてではなく、シートルというメンバーの一人として見ています。私や、他のメンバーもです。ぞんざいな口も利くし、ふざけ合ったりもします。あなたが王族扱いをされることを時に不快に感じるなら、何故その逆をしているルルをも、不快に思うのです?」
言い放つ私の言葉に、バーナムが頭を抱えた。




