第81話 アイドルだった私、恋のミッション発令中!
連載再開!
100話完結に向け、突っ走りま~す!!✨
まるでその馬車には他国からの名士が乗っているかのような、護衛の数。音楽隊も含め、大移動である上に騎馬隊までついているのだから大行列だ。
「なんでこんな」
馬に跨り外を歩くジャオを見ながら、私が呟くと、ルナウが腕を組んで答える。
「まさか本当にバーナム様が動いてくれるとはなぁ」
「バーナム様?」
聞き返す私に、アイリーンが慌てる。
「ちょっと、お姉様ったら! バーナム第二皇太子のことですわっ」
「ああ~、皇太子様ね!」
名前なんか知らないって!
……ん?
「皇太子さまが動いてくれたって、なに?」
ルナウの言い方、引っ掛かる。
「実はさ、マーメイドテイルの話をちょっとね、してみたわけ」
「はぁぁぁっ? 皇太子に!?」
王室関係者だってのは知ってるけど、末端でしょっ? と言いそうになって口を閉じる。
「あれ? 言ってなかったっけ? 俺、バーナム様と同じ学校でさ、それなりに仲が良かったんだぜ?」
「まぁ、そうでしたの!」
アイリーンが手を叩いて驚く。皇太子と仲がいいって、そりゃなかなかのもんよね。
「んで、うちの屋敷でちょっと変わった舞踏会やるって話をしたわけ。しかも俺も出るし、って。そしたらさぁ」
くふふ、と含み笑いなどして、気を持たせるルナウ。
「見たい、って!」
「ええええっ?」
「はぁぁぁ?」
アイリーンと私、叫ぶ。
「ちょ、うるさっ」
ルナウが耳を塞いだ。
「嘘でしょっ? 来るのっ?」
詰め寄る私に、慄くルナウ。
「お忍びで、だからな! 公にはしてないし、するなよっ?」
じゃあなぜ言った!!
私は胸倉を掴みたい衝動を抑え、椅子に座り直す。馬車の中にいるのは、私、アイリーン、ルナウだけ。
「ってわけで、丁重にお出迎えしてくれる運びとなったわけよ。また盗賊みたいなのが出たら困るしな。俺もいるし」
「それにしたって、こんなに沢山」
窓の外には、王族騎士団の列。
「興味津々なんだろ。社交界嫌いの俺が、主催した上に出るって言ってるわけだし」
「え? 嫌いなの?」
これだけの見た目なのだしキディの名があるのだから、引っ張りだこなんだと思ってた。
「どうでもいいやつらがわらわらと群がってくる社交界なんか興味ないね」
「……ああ~」
察し。
ちやほやされるのは好きっぽいのに、社交界での上っ面の付き合いはうざいわけね。
「だから俺、ああいう場には極力行かないんだよ。そんな俺が、初の主催者側だからな。多分バーナム様、驚いたと思うぜ」
「なるほどね」
「当日のお忍びの件はみんなに内緒だけど、それとは別に王宮での謁見の場を用意してある。懇親会開いてくれるってさ!」
へ? ちょっと待って、そっちの方がすごいことなんじゃない?
「は? そんなのっ、聞いてないけどっ?」
お忍びもどうかと思うけど、懇親会もどうかと思うな!? あ、でもそっちは公式ってことか。だからさっき、ジャオは『皇太子殿下がお待ちです』って言ったのね。
「聞いてないよな。言ってないもん」
しれっと返される。
「なんでそんな大事なことをっ」
「みんなのビックリする顔が見たいからに決まってるだろ?」
あったり前じゃん、と言わんばかりのルナウに、呆れる。もし皇太子との謁見の話を事前に知っていたら、親含め全員大騒ぎだったろう。マクラーン公爵はこのこと知っているのだろうか?
「そんな大事でもないって。国王に会うわけじゃないんだし、バーナム様は第二皇太子だからな。国王になるのはバーナム様の兄」
第二皇太子……。
そっか、弟ね。
「いや、だとしても皇太子さまじゃないっ」
つい、突っ込んでしまう。
「おいおい、王位継承権なら俺だって持ってるぞ? 十二番目だけど」
「う……、ん~、なんて言っていいかわからない順位ね」
本音が漏れる。
「とにかく、そんなに気負う必要はないから大丈夫だ」
「それならいいけど……」
馬車に揺られながら、私は珍しく緊張し始めている自分に気付いてしまった。
*****
途中休憩を挟みつつ、馬車の列は連なったまま目的地である王都へと向かっていた。今回は、道中おかしなことも起こらず、街中へと入っていく。道行人たちが何事かと馬車を振り返る。そりゃ、目立つよね……。
馬車が向かった先はルナウのお屋敷。ここが会場になるわけだから、まずはご挨拶と、楽器の搬入。
マクラーン公爵、私、アイリーン、ランスとアルフレッドが代表で、ルナウと共にキディ公爵の元へ。
「この度は大勢でお世話になります」
マクラーン公爵がそう言うと、ハーベス卿が深く頷いた。
「長旅、ご苦労だったね。屋敷の客間だけでは足りないので、別邸の方も使ってもらって構わない。ゆっくりしてくれ」
「ありがとうございます」
ハーベス・キディ公爵は話しながら私とアイリーンを交互に見比べていた。前回とは違う視線だ。まるで値踏みしているかのような。
「では、失礼します」
ルナウだけがその場に残り、私たちはハーベス卿の書斎を出て、会場へ。
「なんだか緊張した」
ボソッとアルフレッドが呟くと、ランスが頷いた。
「威厳っていうか、大物感? やっぱりキディ家の人間は違うな」
「ルナウにはあのオーラ、ないけどな」
「だな」
ぷっと笑みがこぼれる。
屋敷の女中たちに案内され、それぞれ割り当てられた部屋へ。私とアイリーンは同室で、とんでもなくゴージャスな客室に案内される。
「クローゼットの中にドレスが用意してございます。もうしばらくしましたら、お召し替えを致しましょう」
至れり尽くせりとはこのことか。
「まだ時間あるわよね? 私、ちょっと楽隊の様子見に行ってくる」
アイリーンを残し、別館へ。
途中の中庭で見知った顔を見つける。ちょうどよかった!
「ジャオ様!」
手を振ると、私を見てにっこり笑う。
「護衛、ありがとうございました! それで……例の件、どうなりました?」
「例の件?」
「ジャオ様の想い人、誘ってくださいましたか? ってことです!」
そうよ、恋のミッション、忘れたとは言わせないんだから!




