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【100話完結!】国民的アイドルを目指していた私にとって社交界でトップを取るなんてチョロすぎる件  作者: にわ冬莉
王都編

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第76話 アイドルだった私、今の自分に出来ること

 自立。


 現代ではごく当たり前の話。ある程度の年齢になれば、皆何らかの形で自立する。売れないアイドルはバイトだって普通にするし、一人暮らししてる子だって多かった。それと同じことじゃない?


「なに無茶苦茶なこと言ってるんですっ、そんなのムリですって!」

 アッシュが声を荒げるも、

「あら、そんなことないわよ。家を出ちゃえば済む話じゃない? 住むところを借りて、自炊して」

 あっけらかんと答える。


「……本当に、あなたという人は」

 アッシュが大きく息を吐き出し首を振る。


「それは最終手段にしてください。そこまでの覚悟があるのでしたら、きちんと話し合いをして回避することを考えてください!」

 だってそれが難しいって言うから……。

「それに、リーシャ様が家を出るなんて言い出したら、アイリーン様が悲しみます」

「あっ、」


 そうだった。

 私一人の問題じゃないんだ。アイリーンだけを残して家を出るなんて……そうね、それは出来そうもない。


「……わかった。ちゃんと話をする」

 渋々、そう答える。

「まったく。奇想天外も甚だしいですよ」

 アッシュが苦々しい顔で笑った。


「しかし……ルナウ様は本気ですよね? 王都からこんな片田舎まで来て、しかも身分の低い者たちに頭まで下げて。なかなかできることではありませんよ?」

「ん~、まぁ、そうかもしれないけど……ルナウはすぐに私に興味を無くすんじゃないかと思ってるんだよね」

「は? 何故?」

「彼が欲しいのは、生きる意味とか、爵位や家柄で自分を判断してこない本当の友人とか、そういうことな気がするから」


 アイリーンが『昔の自分みたいだ』と言っていた。きっとルナウも、舞台に立てば何かが大きく変わる。そうしたら、私の存在なんかなくても満たされるはずだ。

 実際、こっちに来てからのルナウは本当に楽しそうだし、生き生きしていた。


「それが本当なら、私にとっては朗報ですが」

 アッシュが私の髪をひと房掴み、キスをする。

「リーシャ様のお傍にいられないなら、私に生きる意味などありませんよ」

 とんでもないことを口にするアッシュに、慌てる。

「変なこと言わないの! ねぇ、打ち合わせ! 時間なくなっちゃうからっ」

 私はテーブルの上の画コンテをバンバン叩いてアッシュを急かすのであった。


*****


「では、マクラーン公爵からはいいお返事を頂けなかったのですね」

 翌日、きちんと話をしたほうがいいと判断し、練習前にイリスと待ち合わせた。中庭のベンチに座り、花を愛でつつ結果を伝える。イリスはガッカリした顔で肩を落とした。

「ごめんね、力になれなくて」

「そんなっ、リーシャ様のせいではっ」

「……」

「……」

 なんとなく、お互い押し黙る。

「あのっ」

 イリスが思い詰めた顔で声を上げた。

「なに?」

「先日の私の発言は、忘れてくださいっ」

「発言って……」

「アッシュ様の……ことです」

 俯き、もじもじと手を動かす。

「え? どうして?」

「だって」

 しばらくの沈黙。 そして、

「叶わぬ恋って、ありますよね」

 と言って笑った。

「それは……」

 うん、あるよ、叶わぬ恋。わかってる。私もつい前日経験したばかりだし。だけど……、

「私、婚約をお受けしようと思います」

 寂しそうに笑うイリスに、何と答えればいい? やめろ、と? それもまた、無責任。イリスに私の生き方を押し付けるのは、違うのだ。でも、だからって……、

「イリス……」

「まだお会いしてもいないのに決め付けるのもいけないかな、って思う気持ちもあるんです。もしかしたらアッシュ様よりずっと素敵な方かもしれないじゃないですか?」

 強がりだってことはわかる。でも、思わず笑ってしまった。

「そっか。じゃあまずは会うだけ会ってみて、あまりにも酷いようだったらその時また一緒に考えよう!」

 私はそう言ってイリスの手を握る。


「……もっと自由に生きられたらいいのにね」

 つい、そんなことを口走ってしまう。

「多少の不自由なんて、楽しめばいいのですよ、リーシャ様!」

 イリスが笑顔でそう言った。


 この世界で、私達は自由だ。


 少なくとも、食うに困ることもないし住む場所も着る服も充分に揃っているだろう。

 けれど、その自由には制限があり、つまり制限があるからこその自由なのかもしれない。

 不自由であることを楽しむ、というイリスの言葉は言い得て妙だ。貴族という生き物は、きっと今までも、これからも、そうやってうまくバランスを取りながら生きていくのだろう。


 じゃ、私は……?


  私は現代で生きていた。あの頃の常識は、ここでは通用しないことも多いだろう。

 では、どうする?

 この世界の常識を受け入れ、大人しく従うのか。それとも……、


「……リーシャ様?」

「あ、ごめん」

 黙り込んだ私を心配そうにのぞき込むイリスに笑顔を向ける。

「どう生きるべきなのかな、なんて考えちゃってた」

「まぁ、リーシャ様らしいですね」

「そうかな?」

「そうですよ! 私、マーメイドテイルに入ってからずっと、リーシャ様のこと尊敬してますっ」

「やだ、そんなっ」

 尊敬されるようなことしてないのにっ。

「本当ですよ? いつでもまっすぐ前を見て、強い心で歩いているリーシャ様は私の憧れなんです!」

 べた褒めされ、本気で照れる。


「私はただ……自分のしたいことをしてるだけだし」

「それがすごいんです! 普通はしたいことがあっても、何か理由をつけて諦めてしまったり、やめてしまったりするものですよ?」

 イリスが遠くを見つめる。

「オーリンが言ってました。『踊れない、歌えない私をリーシャ様が引き上げてくれた。私は私のまま、舞台に立つことが出来た』って! 聞きました? オーリンのお屋敷のカンナ様、とても積極的になったんですって!」

「え? そうなの?」

 体が弱くてベッドで過ごすことが多かったという、あの幼いカンナ。

「絶対にマーメイドテイルに入るんだ、って頑張っておられるそうです!」

「そっかぁ、よかったぁ」


「リーシャ様は、周りの人間の心を照らすことが出来るお方です。それって、アイドルっていうものの本質にぴったりなんじゃないですか?」

「……イリス」

 励ますつもりだった私、この上なく励まされてしまう。


 私に出来ること。


 そうだ。落ち込んでいる暇なんて、ない!


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