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【100話完結!】国民的アイドルを目指していた私にとって社交界でトップを取るなんてチョロすぎる件  作者: にわ冬莉
王都編

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第71話 アイドルだった私、スカウトしたのはアイリーン

 睨み合う私とルナウを前に、アイリーンが心配そうな顔を向ける。ロミも緊張した面持ちで次の言葉を待っているようだった。


「目を……逸らさないんだな」

 ルナウが先に口を開く。


「先に視線を外した方が負けだもの」

 って、確かサバンナの肉食獣の話をテレビで見たことあるのよねぇ。違ったかな?


「そうなのか?」

「あなたこそ、今日は泣かないのね?」

「ああ。今日一日リーシャと一緒にいて、わかったからな」

「なにが?」

「一時的な感情や、憧れだけでリーシャを好きになったんじゃない、ってことをさ」

 お互い一歩も引かない。ルナウが、明らかに昨日までと違う。なんて頑固なんだ!


「結婚するならリーシャだ。今じゃダメなら何年だって待つ。だけど、約束がほしい。婚約を受け入れてくれないか?」


 凝りもせず、まだ言うか!


 私は間髪入れずに答える。

「無理」

「なんでだよ!」

「ぜぇぇぇったい、無理!」

 バン、とテーブルを叩き、立ち上がる。


「私、そんな先の話決めたくないし、そもそも一度ハッキリ断ってるのにしつこくない? 私の気持ち、少しも考えてくれない相手とどうやって恋愛出来るってのよ? そんなの絶対無理だわっ」

「頑固はそっちだろっ。俺がここまで頼んでるっていうのに!」

「だぁかぁらぁ。権力振りかざしてモノ言うのやめなさいって言ったでしょうがっ」

「俺から権力取ったら何も残らないだろ!」

 苦しそうな顔で、そう、叫ぶルナウ。さすがに私も驚いて、肩を震わせた。

「……何も残らないって、」

 どんな卑下の仕方よ。


「わかってるよ、俺なんか何の取り柄もないただの我儘令息だもんな。王族の端くれってだけで他には何もないさっ」

 ふい、と目を逸らし、項垂れる。

「なにもないってことはないでしょっ?」

 慌ててフォローしようとするが、ルナウは下を向いたままだ。


「幼い頃に両親を亡くしてからは、ずっとお爺様の教育を受けてきた。強くあれ、賢くあれと教えられたけど、そうあろうとすればするほど、俺は自分を見失っていった気がする。一族の名に恥じないように。わかってるけど、一族の名があるから俺は大事にされてるだけだ。この名前が、王族の証であるこの名前がなかったら、俺なんかただの……」


 うわぁ……拗らせてる。


 まぁ、この世界で、階級制度のど真ん中で生きてきたんだから、そんな風になっちゃうのもわからないではないんだけど。


「俺、リーシャが歌ってるの見た時、本当に感動したんだぜ? 自由で、楽しそうで、キラキラしててさ。あんな気持ちになったの、生まれて初めてで」

「だからって、なんで安易に結婚なのよ」

 新しい玩具を見つけて欲しがる子供みたいな物言い。どうしても、私にはそれが恋や愛だと思えない。


「好きになるのに理由なんかあるのかよ?」

 じっと目を見てそう言われると、私はもう何も言い返せない。確かに、好きになるのに理由なんかなくて、ある瞬間、唐突にそう思うのだと自分も知ったばかりなのだけど。


 真剣な顔で私を見つめるルナウ。


「お姉様、お願いがありますっ」

 声を上げたのは、アイリーンだった。


「え? アイリーン? お願いって……、」

「ルナウ様を、シートルに入れましょう!」


 ……ん? 今、なんて?


「……えええええっ?」

 アイリーンが発した言葉に、私、心底驚いてしまい声を荒げる。


「私が口を挟むことではないのかもしれませんが、今、ルナウ様に必要なのは『自信』ですわ。名前以外何もないだなんて、そんなこと絶対にありませんものっ」

「アイリーン、」

「私、少しわかるような気がします。なんだか、かつての自分を見ているようなのです。何事にも自信がなく、後ろ向きで、卑屈で、つまらない人間で……」


 ちょ、アイリーン、悪口になっちゃうってば、それ!


「でも、ルナウ様は容姿がとてもいいですし、アイドルには向いているはず。その中でご自分に自信を付けていけば、もっと素敵に変われる気がしますわっ」

「アイリーン!」

 ああ、ルナウが嬉しそうにアイリーンを見つめてる。あんた、つまらない人間って言われてたけど、気付いてる?


「ただし、生半可な気持ちでは困ります。本気で立ち向かう心積もりがあるのでしたら私たちと共に参りましょう! いかがですか?」

 真剣なアイリーンの言葉に、もちろんルナウは陶酔しきっている。


「俺、やりたい! 俺もあの舞台で、踊ってみたい! リーシャ、頼むよ!」

 頭を下げられてしまう。

「それは、」

 確かにルナウは、見た目がいい。私だって初めて彼を見た時、スカウトしたいって思ったもん。でも……、


「キディ公爵が承諾すると思えないんだけど」

 王家の関係者たるものが、アイドル活動などとは! とか言いそうじゃない?


「それは、なんとかする。だから、な?」


 うわぁ……やる気になってる。


「……研究生からのスタートになるけど」

「いい! 全然構わない!」

 うう、

「仕方……ないわ」

 頷く。


 アイリーンにあそこまで言われたら、断れない。それに、確かにルナウは見た目がいい。彼がシートルに入ったら、間違いなくウケるだろうって思う。


「リーシャ!」

 ルナウが立ち上がり、私に抱きつこうとするのをかわし、

「言っておくけど! お触り禁止だし必要以上の会話も禁止だからね! 舞台に立てるだけの才がなかったら速攻追い出すし、みんなの迷惑になるようなことも絶対ダメで、なによりキディ公爵様の承諾を得られなければ全部なしだから!」

 捲し立てる。現時点では不安しかない。


「……わかった。絶対にお爺様の了承を得る。そして俺はリーシャと同じ舞台に立ってみせる!」

 拳を握り締め、やる気満々のルナウだった。


「よくわかりませんが、ルナウ様、おめでとうございます!」

 調子よく話を合わせるロミ。


「そうだ、ロミには舞台で着る衣装を作ってもらおう! な?」

 ルナウがロミの肩を叩く。

「え? ああ、はい喜んで!」

 ロミ的には、仕事に繋がったということか。


 そんなわけで私、また一人メンバーを増やすことになるかもしれないのです。


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