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第6話 アイドルだった私、陰謀を感じる

 あれはまだデビュー前。


 私はレッスンでよく一緒になる女の子と仲良くなったことがあった。

 彼女は子役の出身で、既に芸能界に足を踏み入れていた。ただ、子役で何度かCMに出た後は仕事もなく、中学に入ったころからまた活動に力を入れ始めたとのこと。

 私は中学入学と同時に事務所に入った、何も知らない素人で、レッスン場でも遅れを取っていた。だから声を掛けられて、仲良くしてくれる彼女をとても信頼していたのだ。


 なのに…、


「ねぇ、話したいことあるんだけど、いい?」

 畏まった声で話す彼女は何故か目をウルウルさせていて、私は何を言われるんだろうって思ったんだっけ。

「どうしたの?」

「うん、あのね、明日なんだけど、レッスンもないし、二人でお出かけしない?」


 え?

 明日、レッスンあった…よね?


 私がおかしな顔をしていることに気付いた友人が、すかさず続けた。

「あれ? 聞いてないの? 明日のレッスンは延期だよ?」

「え? そうなの?」

「やだなぁ、聞いてないのぉ? 乃亜ってば、抜けてるなぁ」

「あれ? そっか、あはは」

 私、言われるがまま信じてしまったんだ。


 だけど…翌日彼女は約束の時間に現れなかったし、レッスンはやっぱりあった。しかもその日は抜き打ちオーディションで、彼女はちゃっかり受かって一つ上のクラスに上がってたんだよね。

 あの時の彼女の顔を、私は一生忘れないと思う。


『本当にアイドル目指してるなら、簡単に人信じちゃ駄目よぉ?』


 私を見てニヤニヤと笑いながら、本当に楽しそうにそう言い放った。


 あの時の彼女の顔に似てる。

 何かを企んでいるに違いない、目。

 私、直感でそう思ってしまったのだ。


「お姉様?」

 黙り込んだ私の顔を覗き込むように、アイリーンが続ける。

「あ、なにかしら?」

 私は努めて平静を装う。

「あの、今度のパーティーのことなんです。私、お姉様のおかげで心置きなくアルフレッド様と婚約できますことを、心から感謝しておりますの。それで…、」

「それで?」

「最近、お姉様がダンスを習っていらっしゃるでしょう? とてもお上手でいらっしゃるので、パーティーの時にそれを披露していただけないかと思って」

「ダンスを? でも、普通婚約パーティーなら婚約する二人が踊るものなのではなくて?」


 貴族ならダンスくらい当たり前にやるもんだと私は思ってたんだけど。これ、偏見?


「もちろん、私も簡単なダンスでしたら踊れますわ。でもお姉様のように美しくは踊れませんし、お姉様を内外に知っていただくためにも、是非披露していただきたいって思って」


 ああ、わかった。

 この子が言ってるのは『余興』として踊れっていうことなのね。要するに、場を盛り上げるために踊れと。はっ、実の姉に向かってよくもまぁ。


 でも、それも悪くないかしら?

 婚約者候補が呼ばれてるみたいだし、一緒にダンスしたら相手の人となりもわかるかもしれない。


「わかったわ。《《踊ってあげる》》」

 私、わざと上から目線で言ってみる。アイリーンの目じりがイラついたようにピクリと動くのが見えて、吹き出しそうになった。

「わー、よかった。楽しみにしてますね」

 わざとらしく胸の前で手を叩き、にっこり笑うアイリーン。

「お姉様のドレスは、私が選びますわ! とびきり美しいドレスで踊っていただきたいですもの!」

「あ、どうも」

「では、またあとで」

 一礼し、アイリーンはくるりと踵を返した。


 いいわ。婚約者候補たちと、片っ端から踊ってやろうじゃない。


 私は何故か、俄然やる気になっていたのである。


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