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第3話 アイドルだった私、過去を知らなきゃ

 食事をぺろりと平らげる私に、マルタは少し驚いていたようだが、

「こんなにお元気になられて…、」

 と、喜んでもいるようだった。


「お嬢様、もし差し支えないようでしたらお召し替えを。午後から、奥様とアイリーン様がお見舞いに伺いたいとのことですので」

 苦笑いを浮かべるマルタを見て、私は察した。多分…、

「リーシャは…あ、えっと、私とお母さまって、あまり良好な関係じゃないのかしら?」


 今は少しでも多くの情報が欲しい。

 なにしろ、わからないことだらけなのだから。


 私の質問に、マルタは困った顔で言った。

「あの…ええ、奥様は…その、アイリーン様を溺愛なさっておいでです。その…リーシャ様のことは」

「邪魔ってことよね」

 私、ついきっぱりと言い切ってしまう。

「そんな! お嬢様!」

「ああ、大丈夫よ。私、何も覚えていないんだもの。でもほら、少しでも状況を把握しておきたいっていうか、知っておきたいっていうか」

「はぁ」


「アイリーンは?」

 そうだ。

 親は親として、姉妹であるアイリーンはどんな子なのか?


「アイリーン様はまだ幼くて、そうですね、幼いが故の、その、自己主張が、あの」

 あー、はいはい、こっちも性格悪いってことか。なんだかリーシャって、生きるの大変だったんだな、きっと。

「大体わかった気がするわ」

 私は深く頷くと、この後の展開を想像して少し憂鬱な気分になったのである。




 マルタが選んだドレスは淡いグリーンのシンプルなものだった。

 クローゼットには沢山のドレスが入っていたが、これでも『最小限』であると言われ、目を丸くする。


 リーシャはとてもスタイルがいい。年齢は私…乃亜と一緒なのに、どうしてこうも違うのか、と胸の谷間に目を遣る。

 きっと写真集を出したらバカ売れするに違いない、などとどうでもいいことを考えながら着替えを済ませた。


 二人がここに来る前に、少しでもあの日記を読んでおきたかった。私は時間を確認すると、マルタを下がらせソファに座り日記帳を開く。

 実母が亡くなり、継母であるシャルナが屋敷に入るまで、わずか数週間だったようだ。リーシャの動揺した気持ちが文面にも表れていた。

 そして継母は屋敷に来るなり我が物顔で好き放題だった様子も記してある。

アイリーンもまた、母の影響を受けているせいか、我儘放題でリーシャを困らせているようである。


「アイリーンは、私が一番じゃないと嫌、ってタイプか」


 そういうタイプは今まで散々見てきている。

 芸能界なんて、いわばそんな奴らの集まりだ。足の引っ張り合いなんて日常茶飯事だし、表では仲良しのふりをして、裏では罠に嵌めようと躍起になっている。特にデビュー前後はその手の行動が如実に現れる。

 かくいう私も、相当な嫌がらせを受けたものだ。


「ふ~ん、姉のもの欲しがるタイプねぇ。真似してるうちは超えられないんだけどな」


 誰かが持ってる可愛いものを、そのままそっくりパクるタイプ。結局そういう子には『個性』が生まれない。だから、多少可愛くとも飛び抜けることが出来ず、鳴かず飛ばずで終わってしまうのだ。


 アイリーンも母親であるシャルナも、本妻がいなくなった後でここに来ている。こんな言い方はどうかと思うが、もうその時点で二番煎じなのだ。


「で? アイリーンは例の彼のことどう思ってるんだろ? まさか姉の婚約者だから欲しかった、ってわけじゃないわよね?」

 いくらなんでも大切な結婚相手をそんな理由で選んでほしくはないが……。それとも、あの手紙の通りで、アルフレッドが勝手にアイリーンに惚れただけっていうオチなのか?

 ページをめくるが、その辺の詳細は書いていないようだった。


「ま、いっか。大体想像通りだし」

 パタン、と日記を閉じる。


 それにしても、このリーシャって子は…なんというか受け身が過ぎるのだ。日記を読んでいても「~された」「~言われた」と、自分が受けた仕打ちをつらつら書くばかり。うじうじといじけてるだけ。本妻の子なんだから、もっと堂々としてたらいいのに。


「こんなんじゃ、国民的アイドルにはなれないわよ、リーシャ」

 鏡に自分の姿を映し、呟いてみる。


「あ、そうだ」

 私は気になっていたことを調べるのをすっかり忘れていた。リーシャの身に何があったのか、だ。

 ショックで倒れたのは理解出来ない事もないが、もしかして自殺ってことはないのだろうか、と疑いを持っていた。


 日記帳の最後のページを開く。

 もし自らの手で何かをしたのであれば、なにか遺書めいたことが書かれていてもおかしくはないはず。


「……噓でしょ?」


 そこには、驚きの事実が記されていたのである。


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