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第16話 アイドルだった私、話はあらぬ方向へ

 やらかした。


 完全にやらかした、って思った。

 だって、まさかあんなことになるって思ってもなかったんだもん。


 アイリーンが何かを企んでるのは感じていた。だけど、当日のドレスにまで細工してると思わなかったし、更衣室に入ってきた青年がダリル家の長子だってことも勿論知らなかったし、そのランスが私に求婚してくるだなんてもはや想定外!


 ああ、想定外と言えば、アルフレッドの手のひら返しも想定外だった。踊ってる私を見て好きになってくれた、って、そりゃ、アイドルとしてはこの上なく嬉しい出来事なんだけどね。でも、タイミングも最悪だし、あんな風にコロコロ好きになる相手を変えてくるって……マイナス要素でしかないわ。


 で。


 アイリーンの婚約披露パーティーを、途中からエイデル家主催のダンス社交界みたいなことにしちゃった私。なんと、あの後、私と結婚したいって言い出す人が多数現れた。元々婚約者候補としてそこにいた面々は勿論のこと、伯爵よりもっと上の爵位?の人からも声が掛かって……。


 さらに数日が経ち、あの場にいなかったにも関わらず、話だけを聞いて婚約を申し込んできた人までいるとか! なんて酔狂な!


 今、我がエイデル家は、大混乱の只中にある。




「どうする気だ、リーシャ」

 呆れ顔で私を見上げる父マドラに、私は顔を引きつらせ、笑顔のようなものを見せた。

「どう、と言われましても、私はあの場をなんとかしたかっただけなのです、お父様」

「それはわかっている。しかし、だな」


 書斎の机の上には、あちこちから届いた書状が所狭しと積み上がっていた。半分は私への婚約申し込み。あとの半分は…、


『また、パーティーを開催してもらえないか』


 というもの。


 そう。

 あのパーティー形式が気に入ってしまったらしき貴族の皆さま、またやろうぜ! っていう督促状である。


 そんなにやりたけりゃ勝手に開催すればいいものを、仕切り方が分からないのか、エイデル家に開催をせがんできたのである。


「縁談話もこの山だ。一体どうしたものか…」

 彼の悩みは、どちらかと言えば縁談話の方にある。というのも、自分より格上の侯爵家からも縁談が舞い込み、それはとてもありがたい話ではあるのだが、どの家と縁談を結ぶか、それによっては多くの敵を作ることになるというのだ。

 いわゆる、貴族間での派閥?

 くっだらないけどね。


「お父様、縁談話はとりあえず置いておきましょう。私に考えがあります」

 あの日以来、私の頭の中にはある計画が浮かんでいた。それが成功すれば、私の縁談話、先延ばしに出来るんじゃないかな。

「ほう、考えがっ」

 マドラがパッと顔を輝かせた。


「まずは、パーティーですね。私がすべて取り仕切りますからご安心ください。でも、ひとつだけお願いがございます」

「なんだ?」

「どんなことになっても文句は言わないでいただきたいのです。先日のパーティーも、私の行為は貴族という括りで考えれば非常識であったと自覚はしております。でもそのおかげで沢山の方々と交流が持てましたことも事実…ですよね?」

「まぁ、それは…、」


 マドラ、あのパーティーで、ちゃっかり家業の話なんかもしていたらしい。我がエイデル家は輸出入を生業としているのだが、新しい仕事が取れそうだとウハウハだったのだ。私のことは怒ってたくせに。


「お父様の想像をはるかに超えるような…かなり派手にぶちかまそうと思ってるんで、途中で口を挟んだり、あとになって文句を言ったりはしないでいただきたいの」

「…ぶちかまっ……。承知した」


 ホッ。


 これで堂々と準備が出来るというもの。

 まさかアイドルの私が、プロデュースに回ることになるとはね。とはいえ、芸能界っていわば「自分プロデュース」ってのが仕事だったりするわけだし、舞台の演出もまぁ、弱小アイドルグループではよくあること。ライブ会場での、あの感じ……ああ、懐かしい!


 ただ、悩みの種もあるんだけどね。




「お姉様ぁ~!」

 ……これよ。


「あら、アイリーン。何かしら?」

「この前の話、考えてくださいましたかっ?」

 目をキラキラさせて私の前で手を組み、お願いポーズをとる。これは芝居ではない、《《本気モード》》だ。


「あ~…、」

「ねっ? いいでしょう? 私もお姉様みたいになりたいのですっ。あんな風にみんなの注目を一身に浴びて、男性からちやほやされたいのですっ!」


 動機が不純すぎる。

 でも、私は知ってる。

 この子は…化けるよ。


「……言っておくけど、私のレッスンは厳しいし、たった一度でも我儘言ったり弱音を吐いたりしたら、」

「きゃっ! お姉様、大好き!」

 私の話を途中で遮り、アイリーンが私に抱き付いてくる。

「ちょ、ちゃんとわかってるのっ?」

「わかってますわ! 私、頑張りますわ!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ね、全身で喜びを表現するアイリーン。


 婚約披露パーティーであれだけ恥をかかされたにも拘らず、引き籠ることもなく、さっさとアルフレッドとの婚約を解消した上、更に自分も大舞台に立ちたいっていうんだから、その根性、買ってやらないわけにもいかないわよねぇ。シャルナは大反対してたけど、アイリーンの熱意と勢いは実母の忠告など右から左で、私に纏わりついてきたのだ。


 そんなわけで、私、妹プロデュースにも手を付けることになった次第!


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