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第15話 アイドルだった私、踊る!

「ちょっと待ってよ! 伯爵家って姉妹が同じ家の人間と結婚すること出来ないのっ?」

「常識だろう!」


 そんな常識、知るかーっ!


なんだかややこしいな。

 つまり、アイリーンがアルフレッドと結婚するなら、私とランスは結婚出来ない、ってことよね。

 ……ん? 私はそれでいいんだけど?


「ま、そんなわけだからアイリーン嬢には身を引いていただき、」

 ランスが一方的にそんなことを言い出すもんだから、アイリーンの泣き声は輪をかけて大きくなるし、ダリル伯爵と父マドラも大喧嘩始めちゃうし、継母シャルナはキーキー喚き出すしで、さながら動物園のよう。更にそこに入ってきたのがアルフレッドなんだけど、


「父上! 私はやはり、予定通りリーシャ嬢との縁談を進めたいと存じます!」


 って、あんた、何言ってんの!?


「アルフレッド様ぁぁ!?」

 ほらぁ、アイリーンが絶叫してるじゃないのさっ。

「何を言っているんだ、アル!!」

 ランスが掴みかからん勢いでアルフレッドに詰め寄ると、アルフレッドも負けじと、

「元々、リーシャは僕の婚約者だった!」


 って、それをあんたが一方的に婚約破棄したんじゃないのっ!!


「そんなの無効になっただろう!」

「だからって兄さんがリーシャに求婚するのはおかしいだろう!」

「は? 全然おかしくない! 僕はわかったんだ、さっきのリーシャを見て。やはりリーシャは僕の婚約者だ、ってね!」


 アホかっ!

 要するに、私のダンスを見て惚れちゃったってことなのかな? アイドルとしては嬉しい話なんだけど、このタイミングでそんな話されても混乱に混乱を重ねるだけだっつーの!


「リーシャ、なんとかなさい!」

 シャルナが金切り声で叫んだ。

「そんなことより、婚約披露パーティーはどうするんだ!?」

 マドラと、ダリル伯爵が途方に暮れたように叫ぶ。

「ああん、もうっ!」


 私は両手で耳を塞ぐと、部屋の扉を力任せに開け放つ。

 そのままホールへと走った。



 ホールでは、何が起きているのかわからず待ち惚けを食らった来賓たちが、怪訝な顔で話をしていた。私が戻ったことで、一気に視線が私を捕らえる。


「本日お集りの皆さま!」

 私はホールに響き渡る音量で呼びかけた。

「お騒がせしましたこと、ここに深くお詫び申し上げます」

 丁寧に、お辞儀をする。


「私の名はリーシャ・エイデル。エイデル家の長子で、本日が社交界デビューとなります。どうぞ皆様、改めまして本日の《《ダンス交流パーティー》》をお楽しみください!」


「ダンス交流パーティー?」

「アイリーン嬢の婚約披露パーティーなのでは?」

「どうなっているんだ?」


 更にざわつく場内に、私は有無を言わせず畳みかける。


「音楽を! そしてどなたか、《《私と踊ってくださる方》》はいませんかっ?」

 ホール中央に躍り出て、相手を待つ。

 すると、先程とは打って変わって、おずおずとではあるが、あちこちから『私が!』『僕が!』と手を上げる男性陣。


 さっきのダンスに刺激を受けたに違いない人が、きっと沢山いるはず。

 そしてそれは、それはきっと男性だけではないはず!


「紳士淑女の皆様! たまには羽目を外して、ダンスに興じましょう。パートナーと手を取り合って、さぁ!」


 音楽が始まる。


 おずおずと、ソワソワと、皆が私の誘いに押されて手を取り合う。音楽に乗り、ステップを踏み始める。


 私は挙手をしてきた男性の手を取り、ホールを一周した。

 パートナーを交代し、次の男性と組む。

 くるくると回りながら、代わる代わる踊る。

 途中、若い女性を相手に私が男性パートを踊ったりもした。


 楽しい!


 めちゃくちゃだけど、みんな笑っていた。

 時に激しく、時にたおやかに、時に滑稽な踊りを楽しむ。



「なんだ、これは、」

 ぞろぞろと連れ立ってホールにやってきたのはエイデル家、ダリル家の面々。泣き崩れて顔がくしゃくしゃのアイリーンに、髪の乱れたシャルナ。マドラも悲壮感漂う表情だし、アルフレッドとランスに至っては、取っ組み合いでもしたのか、服がボロボロだ。


「なんで皆、踊っているんだ?」

 マドラがホールを見渡し、口をあんぐりと開けた。あんな失態を見られ、一体今日という日にどうオチを付ければいいのかと、さっきまで頭を抱えていたというのに。


 見れば、輪の中心にいるのはリーシャ。

 とっかえひっかえ相手を変えて踊りまくっている。

 ハッキリ言って若い令嬢…貴族にあるまじき行為である。が、彼女の周りに集うのは若い男ばかりではなかった。名のある侯爵やそのご令嬢、奥方たちに至るまで、ありとあらゆる年代の者たちが集まっているのである。


 その光景は、今まで見たことも聞いたこともない、新しい社交場の形だった。


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