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信じて露出したスク水に穴が空いていた

作者: しいたけ
掲載日:2023/01/21

 春、それは(露出)を覚えるのに持って来いの季節である。


 田島裕作は己の露出に絶対的な自信を持っていた。

 誰にも負けたくない、負けてやるものか。と、息を巻いて夜の農道を裸足で歩いていた。

 フリマアプリで買った女子大生が使っていたスク水に、ふんどし。上にはダッフルコートを。備えあれば憂いなしと言わんばかりに、コートのポケットへ手を入れたまま足下に見かけた小石を蹴り、代掻きを終えたばかりの田んぼへと転がした。


 星空は朧気に見え、雲の隙間から覗く月は半分に欠けていた。ふとその場で立ち止まり、垂直に上を向いてしばらく流れゆく雲を見つめたが、次第に酔って気持ち悪くなり歩を進める事にした。


 十字路に差し掛かり、左の坂を上るか、右の砂利道を進むか、このまま農道を前へと行くか、少しだけ迷いが生じた。どの道を進もうが、自分の生きる道は変わらぬと云うのに、その躊躇いが何処からやってくるのか……しばし十字路の真ん中で立ち尽くすも答えは出なかった。




「──スクール水着に一番合うダッフルコート有りますか?」


 駅前の大手デパートの三階で、零細ブランドの担当を受け持つ店員が、まことしやかに眉をひそめた。おおよそ客を相手にする顔ではなかったが、先ずは保身が先決と感じた店員は、引きつった笑顔で「少々お待ち下さい」と、警備員の居る宝石店売り場の前へと逃げた。


 話を聞いた警備員が店員に付き添い、再度注文を聞いた。


「いえね、スクール水着に映えるダッフルコートがあればな、と思ったんですよ」


 店員はすぐに警備員へ顔を向けた。顔を向けられた警備員は鼻で笑い「なぜ?」と、率直に問い掛けた。


「何故って……それは……」


 説明。それは敗北を意味した。

 服を買う理由を話さなくてはならない時点で、自分はあからさまに怪しまれており、事によっては穏便なる退場もやぶさかではないのでは、と。

 しかし話した所で理解──もしくは納得が出来る人材ではない気がして、どうしたものかと考えた。


「モデルに着せるんですよ……夏のスクール水着と冬のダッフルコートのミスマッチ。ね?」


 苦しい言い訳だと、言葉にした後に熟々と思ったが、警備員のこれ以上に無い程の軽蔑たる視線に耐えられず、逃げるように店を変え、何も言わず手頃なダッフルコートをレジへと持って行くのだった……。




 ついこの間の出来事を思いだし、当初の絶対的な自信は何処へやら。田島裕作は己の軸が酷くブレている気がして、今の道を真っ直ぐに行く事を決めるも、彼の足はまたすぐに止まってしまった。


 春の夜とは言え、辺りはまだ暗い。街灯すら無い農道を歩く人が居れば、散歩かジョギングかはたまた……。

 田島裕作はジッと目をこらした。

 犬も無し。走るで無し。それでいて落ち着いていて、大胆な歩き方。間違いない……同業(変態)である、と。


 拍車の着いたウエスタンブーツ。深いスリットの赤いチャイナドレス。上にはライフジャケットを羽織り意味深な笑みで田島を品定めしていた。サービス精神旺盛なスネ毛には、歴然の猛者を感じさせる凄みがあり、絶対的な自信を持ってそこに居るのだと感じさせた。


「こんばんは」


 田島裕作は果敢に攻めた。

 ダッフルコートのポケットに手を入れたまま、極めて友好的な笑顔で挨拶を向けたのだ。

 そして視線を直ぐさま下へと向け、何食わぬ顔でやり過ごそうとした。ウエスタンブーツの拍車がピザカッターに見えたり、家庭科で使ったチャコローラーに見えたり、実際の使い方がサッパリ不明なクルクルに想いを馳せ、田島は異国の趣味と割り切った。


「……ども」


 すれ違い様に、バッと田島はダッフルコートの中を露わにした。まるで荒野に住まうガンマンがお互いの誇りを賭けて決闘するかの如く、相手もまた振り向いてライフジャケットの中を露わにした。


「……穴」


 そっと指差す方向へ目を向けると、田島は自らのスクール水着に穴が空いているのに気が付いた。


「これはこれは、かたじけない」

「……では」


 お互いが胸の内を明かし、納得した顔でまた歩き出す。

 見せたから何だ、と言われても、そればかりは誰にも分からなかった。

 お互いがお互いを認め合う。それだけで世界は平和になり、争いも無くなる。二人はそう確信し、再会を夢見てお互いの農道を行くのだった──。





 



 

     【おしらせ】


        町内会組長 山中徹也


 最近、三丁目奥の農道にて、不審な人物の目撃が複数寄せられております。

 町内の皆さまにおかれましては、なるべく夜間の外出等を避けて頂いて、明るい時間に要件を御済まし頂きますよう心がけ下さい。

 また、警察の方でもしばらくは巡回を強化して下さるとの事です。


 不審者の特徴ですが、上半身裸にラップを巻き、頭に風呂桶、下半身に乳児用のメリーをぶら下げ網タイツを着用との事です。


 お心当たりの方は警察、もしくは山中の方までお知らせ下さいませ。

 また、遭遇の際にはくれぐれも刺激せずに、速やかに逃走の旨、宜しくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後にお知らせされていたのは、また別の方でしょうか?
[一言]  神話と変態話の中間のような恐るべき一篇でした。  露出道を極める露出魔の誠意?…とか書いていたら、全然違うような気もしてきました。よくわかんなくなってきました。仕方がないのでもう一回、読み…
[良い点] 春、それは草木が芽吹き、紳士(笑)達が目を覚ます解放の季節ですね。 ふふふ(黒い微笑)、多様性の1つとして受け入れられ、この季節の風物詩になれば世界中から戦争も無くなるだろうに。 [気に…
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