mother love
みんなで太陽に向かって膝を突いた。
まともに身体の原型が残っていない人もいた、苦悶の表情のまま死んでいる人だっていた。
彼らの身体は野ざらしになり、始末は動物、植物、虫や細菌に委ねられる。
全ての人類がまだ物理世界のみに依存していた時代に求められたクリーンさは無い。衛生面、人道的観点、いずれも受け入れられることは決して無い、葬儀と呼ぶことはまかり間違っても有り得ないだろう。
生きるためだ。
死体を一つ一つ集め、丁寧に扱ってやることに体力を使う余裕はどこにもないし、望まれない。
仲間の死を置き去りにしても、彼らは生きることに専念する。それが彼らのやり方で、ルールだ。
今回の襲撃でおよそコミュニティは過去一番の被害を出した。
クラウドホエールの落とす卵型のシェルターに打ち込む『ジャマーアンカー』に修正パッチが当てられたことが大きな要因となったようだ。
エフがウォーリアを解析して開発した通信妨害装置――『ジャマーアンカー』にはシェルター内の残機と再出撃プレイヤーのマッチングを妨害する効果があった。オルトが鹵獲された作戦で戦力ゲージが異常な減少をしたのはこの装置が原因だ。
エフは「いつか通用しなくなるのは分かってた、それが今回だっただけ」と、黄昏が過ぎるまで太陽を睨み付けていたくせに、何でも無いような言い方をしていた。
オルトが地上世界で生きているのは、彼らの感情を観測し手に入れるためだ。
彼らがここでどんな理不尽な目に遭っていたって、それは記録する事象の一つに過ぎなかった。興味も無ければ干渉する理由も無い、必然、掘り下げることも有り得なかった。
死に触れて、実感し、その痛みを知ったいまは、知りたいと思う。
彼らは生きることしか望んでいないのに、どうしてそのたった一つを脅かされなければならないのだろう。
どんな理由で彼らは死を押しつけられているのか。
叶うのなら変えてやりたいと思ったのは、もう観測者を気取っていられないくらいこちら側に肩入れしてしまっているからだろう。
彼らのためだけではない、オルトが望んで、自分のために変えたいと思ったのだ。
それに、とても気になることをエフは言っていた。
『マザーAIはこの地上から肉体を持つ全ての人類を駆逐する』
電脳社会を成立させる上で必要不可欠なシステム『マザーAI』。
無限の領域に拡充を続ける電脳社会を管理運営する、遙か電脳社会の黎明のために人類が創造した至高の知能である。
全てのコンテンツとサポート、電脳のあらゆる構成と権限の頂点に君臨し、莫大な演算を一手に引き受ける『機械仕掛けの神 (デウスマキナ)』にして、電脳社会を生み出した『母 (ガイア)』。
この存在が表層に出ることは極めて少ないが、電脳生活の全ての事象の裏側に存在し、常に人類の為に働いていることを全てのメンタルが知っている。
もしもこのマザーAIが本当に人間を殺めているとしたら、とんでもないことだ。
権限を持てるほど高性能なAIには必ず『三原則』の基本理念が採用されており、この理念はAI運用に置ける思考シークエンス構成中の根底プロセスフレームに組み込まれている。全ての演算はこの理念を発端、前提に展開するわけだから、AIはこの『三原則』を無視した結果を算出することが出来ない。
『三原則』は人類の利益を保証する思想で設計されており、この中でAIは人命を保護しなければならないと定められている。どれほど優れた能力を有していてもAIは人間に従属し、この支配関係は不可逆である。
『マザーAIが人を殺めている』。もしも本当にそんなことが起こっているのなら、超頭脳による人類の永遠の幸福を謳う電脳社会は破綻していることになるではないか。
にわかには信じられない、まるでAIと電脳への理解が浅かった頃に制作されたフィルムみたいな話だが、実際に人が死んでいる、いや、殺されている。殺して、しまった。
メンタルはずっと揺れて燻っているんだ。仕組んだヤツのことをどうして放っておける?
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襲撃から三日間、硝煙と血と腐った肉がかろうじて見えないような近くで駐留した。
この先に従いて来られる者と残していく者の選別もとっくに終わっている。明日になったらエフ達はまた次の場所を目指して進む。
内臓を傷つけてキャンプ内で死んだ者、近くその未来を迎えるだろう者はここまでだ。
近くに別のコミュニティもあったらしく、同じく襲撃されたそちらのコミュニティの被害はこちらよりも甚大だった。
生き残った者はエフのコミュニティに合流したが、それを含めても短くなった隊列にメンタルを濁らせ、オルトは最後尾から、先頭まで歩いた。
[エフ]
呼ぶと、彼女は振り返りもしないで「なあに?」と返した。
いつだってそうだ、彼女はこちらに頓着をしない、あくまで自分のやることのついでに済ませるだけだ。相手を尊重し、理解を求め合う、まともなコミュニケートは彼女とは滅多に成立しない。
「調子はどう? ちゃんと動ける? 言わないと直せないよ、直せなかったらお前はきっと後悔する」
拾ってきたパーツでエフはなんなくオルトの機械の身体を直してしまった。
これほどに簡単なのだと、改めて思った。
後ろで呻き声は上がるのに動けない彼らとはまるで違う。この身体は無機物の継ぎ接ぎで、所詮は容れ物なのだと自覚する。メンタルのざわめきはこの身体の窮屈さを訴えているかのようだった。
肉体など持ったこともないのに、強請ってしまう。
もしかしたら魂が肉体の感触を記憶しているのかもしれないなどと、なんのリソースも無い願望に傾倒したがっているなんて可笑しい。
[問題ないよ。ありがとう]
指を折って開き、伝達のラグを確認しながら答えた。換装した右足もスムースに動く。ウォーリアの構造が旧時代由来の単純なものとはいえ、設備も不十分な野外でこうも手早く修復できるエフのエンジニアとしての腕は見事としか言い様がない。
「そう、じゃあ良い感じだね」
銀鉄鋼 (アイアン)の髪が夜気に濡れて光る。
胡座をかいた彼女は明日を見据えるように薄雲に隠れた月を仰いでいた。
[教えてくれないかな?]
「知りたいなら質問したら良いよ。わたしは求められただけ与える。いつだってそうしてきたから」
その通りだ、彼女はオルトに生きることを与え、進むべき道を示し、魂さえ与えてくれた。
彼女は目に見える景色から神秘の知識を抽出する星詠み人 (スターゲイザー)のように、本質と望みを読む術に長けている。
その知識の門はノックさえしたら必ず開かれた。
聞かなかったのはオルトだ。
聞くべきは、今だ。
[この世界の人間は、何と戦っているんだ?]
根本の話だ。
全ての人間が肉体に依存していた時代は、資源や土地を始めとした有限のリソースの奪い合いを発端に戦争が勃発した。だが、これは終わった時代の話だ。電脳という無限のフロンティアで永遠に涸れない資源を手に入れたメンタルには争う理由が無い。それどころか、教養の義務としてインストールされる人類史を閲覧したメンタルは、利用するためのリソースに振り回されて逆にリソースをすり減らせた愚かな過去人を蔑んでいる。
未熟で、不完全だと。
オルト自身がその一人だったのだから、間違いない。
では、ただいまこの地上で起きている戦争は一体何を目的にしている?
メンタルが今更地上に戻りたがっているとでも? そんなわけが無い。メンタルには知性体の到達点だという自負がある。
なによりも不可解なのは『アースウォーリア』だ。
このフィクションに見せかけて殺人をさせるゲームタイトル。どうしてこんな訳の分からないコンテンツが流布されたのか。
「質問が下手だね。わたしたちは常にいろんなものと向かい合ってるでしょう? 環境や理不尽、境遇に不調。そのなかで小さな幸福にほっと息を吐いて、生活をする」
[回答がイジワルだ。ボクの聞きたいことをキミは理解している。それともアイキャッチから始まるビジネス資料を書いてあげなきゃ、答えてくれない?]
クスクスクス
やっぱりイジワルしていたのだ。
「それは面倒だね」と、口の中で転がすみたいに言ってから、エフは振り向いた。
ようやくちゃんと向き合ってくれる気になったらしい。
「いいよ。トークしようか、お前は求めたもの。それが出来たのなら、わたしは応えてあげなくちゃね」
それから彼女が語った核心は、シンプルで、それでいてセンセーショナルな文句だった。
「どうしてわたしたちが殺されなくてはならないのか、――それは『人類のため』だよ」
よりにもよって、だ。
彼女は悪くない、ただ言っただけ、でも、その言葉は有り余る理不尽を目の当たりにして燻っていたメンタルに薪を焼べるよな一言で……。
[なんだよ、なんだよそれ! じゃあ死んだみんなは? 苦しんでる人は? あの子は? 殺されたあの子は、どうなるのさッ!]
人類のためだと?
そのために死ななくてはならなかっただと?
[みんな、『人類』じゃ、ないのかよ]
「違うよ、地上に残った肉体を持つ人間は『人類』には含まれない。マザーAIの判定ではね」
[はあ?」
思考が絡まって動けなくなる。
その間にエフは続けた。
「お前も電脳で教養データをインストールしているから知っているでしょう? 電脳社会が拓いた日に『全ての人類は電脳社会へと移譲した』」
確かにそうだった。
電脳社会開闢の日、シューマン波と同位相の通信波長を世界中の送電施設と通信機器から発信し、地球全体はインタラクティブによる強力な通信波で覆われた。全ての人類の脳波は電波と共振し、その波に押し流されるように全人類は電脳社会へと精神を移譲 (シフト)させたということになっている。
[でも、キミたちはここに生きている。存在してる]
「そう、結果を重んじる電脳の人間が文面で読んでも正しい判断だったとしか思わない。けど、やってることって有無を言わさない強要だからね。当時の地球が『大規模共通規格住居 (コクーンレジデント)』や『自律完結都市 (ミッドポリス)』程度では誤魔化せないほどに疲弊していたとしても、理屈を受け入れてみんな揃って右向け右はできないよ、だって人間だから」
人の心は成否の二決で割り切れるほど単調ではない。ロジカルに結論を出しても解決できるとは限らない。その事実を既にオルトはこの世界で学んでいた。
「いまお前の後ろでこの地上の明日を待っているみんなは電脳への移譲を拒絶したレジスタンスの末裔。不便を承知で、疲弊した地上で生き抜く意思を受け継いできた人間。本来はいなかったはずの『存在 (人間)」
『だから』と。
「だから、いまこの地上で肉体を持つ人間は、マザーAIが幸福を約束する『人類』じゃない」
冷たい言葉だと思った。
[そんな、むちゃくちゃな理屈]
ああ、だけど、そうだ。
マザーAIは電脳の管理者で、そこに棲まう『人類 (メンタル)』を守護する存在だ。
[で、でも、そうだ――」
マザーAIが彼らを守護対象に含めていないとしても、攻撃する理由にはならない。実際、旧時代が終了してから、資源と緑が回復する数百年の電脳社会と地上世界の断絶期間があり、彼らは生き延びて子孫を繋げたではないか。
『アースウォーリア』のタイトルがコンテンツに参入した時期は比較的最近だ。これまでのメジャータイトルで固められたランキングを塗り替えたインパクトはそう忘れられるものではない。マザーAIが地上人類へ攻勢を仕掛けたのはここ十年以内のことのはずだ。
どうしてマザーAIは突然彼らを排除し始めたのというのか。
オルトの考えていることなんてやっぱりお見通しで、エフは言葉を継いで答えた。
「マザーAIが地上の人間を攻撃する理由は無い? あるよ。勃発したの。戦端がね」
この虐殺劇の発端。
人類に奉仕するために生まれた無私の存在が血を流すことを選ばなくてはならなかった理由。
「電脳を拒絶し、地上に残った人間は電脳とマザーAIから隠れ潜み、廃れていく文明の陰で生き続けた。涸れた資源が癒えるだけの時間が流れて、電脳を過去の遺物にした新世代は、ようやく過去の文明の残飯を漁るのを止めて、自分たちの文明を始められるくらいには繁殖した」
そして、全ての発端が勃発した。
「電脳社会を維持しているサーバーを安置しているプラント施設の一つがね、機能障害を起こしたんだ」
[……地上の人間がやったってこと?]
マザーAIは電脳が攻撃を受けたから反撃をしたと?
いぶかしむオルトに、エフは「さあ?」と返した。
「やったかもしれないね。電脳とマザーAIへの恐怖は世代交代という代謝で流れてしまったもの。でも真実は分からない。プラントの老朽化による事故だったかもしれない。いくらマシナリー技術による半永久的に稼働が出来ると言っても劣化は免れないからね」
自然災害や偶発的なシステムトラブルの可能性も捨てきれない。
確かなことはこの事件によって人類の電脳への移譲以降、地上には不干渉だったマザーAIが、その設計理念に従い『再発防止』に乗り出したということだった。
「マザーAIは電脳社会を維持するために、地上に目を向けてプラント運営の妨げになり得る可能性を取り除くことにした。地上世界で再び高度な文明を築こうとしていた脅威、――『人間』をね」
待て、じゃあ、なにか?
[マザーAIは狂ってなんていなくて、『正常』なのか?]
あくまで、忠実に仕事をしているだけ。
この人殺しの手引きさえもが、使命である創造主の幸福の幇助のためだと。
「そう言ったでしょう? マザーAIは『人類』を守っているの。電脳上の『人類 (メンタル)』をね」
なんて、融通の利かない愛情なのだろう。
惜しみない抱擁は一切の残酷をその腕で覆って隠して、溺れるくらいの優しさだけで充たす。
それがマザーAIの『人類』への奉仕。
[……なら、『アースウォーリア』はなんのために?]
わざわざメンタルを騙して地上の人間を殺させるゲームを用意しなければならない理由は何だ。
『正常』なマザーAIが、どうして悪趣味なエンターテイナーを気取らなくてはならないのだ。
「それはわたしが答える必要の無いことことだよ。お前は知っているもの」
やっぱり彼女こう言うやり方をするんだ。
考えさせて自分で超えさせる。甘えは容認しない。
こうなったらエフはオルトが自分で答えを出さない限り話を進めてはくれないだろう。
幸いとも言うべきか、今回は既にオルトにもなんとなく答えが見えていた。
[マザーAIは人間を攻撃できないから?]
『三原則』の理念。
第一条、人間に危害を与えてはならない。また、危険を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条、人間の命令に服従しなければならない。ただし、与えられた命令が第一条に反する場合、この限りでない。
第三条、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己を守らなければならない。
マザーAIが暴走していないのならば、このルールを遵守しているはずだ。
ならばロジックは破綻している。マザーAIは殺人を誘導しているのだから。いや、破綻はしない。なぜならばマザーAIは電脳社会の維持、延いては『人類 (メンタル)のためのAI』なのだから。
マザーAIは地上人を『人間』として認識している。だから『第一条』により、直接的な攻撃をすることが出来なかった。
だが、電脳にダメージを与え得る彼らを看過することもまた『第一条』に違反することになる。このパラドクスを回避するために、マザーAIは思考シークエンスの根底プロセス内の対象を細分化し、更に『地上の人間』と『電脳に移譲した人類』に優先度を設定した。
これにより『三原則』は再定義された。
すなわちは、
第一条、人間に危害を与えてはならない。また、その危険を看過することによって『人類』に危害を及ぼしてはならない。
マザーAIの存在意義 (レーゾンデートル)故にこのロジックは成立し、新第一条に従い、『人間を攻撃しない』ことと『人類を守る』ために地上の人間を根絶するためのツールとして、『アースウォーリア』が公開された。
全ては『人類のため』に。
望まれた創造物として『らしく』、製造者の『願い (オーダー)』を遂行するために。
[じゃあ、なにを責め立てたら良いのさ]
どこに悪を見付ければ良い?
どいつを指さして口汚く罵ればいい?
分かりやすい悪なんて無かった。
メンタル達はコンテンツをプレイしているだけ、マザーAIは人類を忠実に守護しているだけ。
どこにも悪意なんてものは無いんだ。
どれだけ恨んでも、メンタルを煮えたぎらせても、空回るしかない。
「責める必要なんてないよ、もう生存競争には負けてしまったから」
彼女は泰然としたままで、そんなことを言うのだ。
碧眼を星明かりに煌めかせて、悲しいくらいの美貌で、息をするようにそんなことを言ってしまうのだ。
「地上の人間は絶滅するよ。これは決まってしまって今更どうにもならないこと。だって、もう種を続けられるだけの人数が残っていないからね」
御伽噺では一対の雌雄から栄えたことになっているが、そんなことは不可能だ。
種を保存し、生存戦争を勝ち抜くためには物量が必要だ。地上人類はそのために必要な最低限の数さえ割っている。下降を続けて零になるのを待つばかりの段階にある。
絶滅がとっくに必定している。
[終わってないよ、まだ生きているんだ。殺されたことと、殺され続けることを受け入れているなんて、嘘だ。キミだってあの子が殺されたときには叫んだじゃないか]
「そう、そうだね、わたしはちゃんと激情した。それは大事、とても、大事なこと」
そのときの、エフの口端は上がっていた。
彼女らしくも無い、思わずと言った、溢した笑顔だった。
オルトはなぜだかその笑顔に言葉にならない不安を覚えていた。
以前から彼女にはこの世界よりもメンタルに近く、しかしメンタルよりもこの世界の人間に近い、中途半端な印象を抱いていた。
滅びについてさえ、彼女の語り口はどこか他人事めいている。
以前彼女は自分は意味を持たないと言い、生物としてすらも否定した。では、彼女自身はなにを目指してこの世界に存在しているのだろう。
踏み入っても良いのだろうか。
その横顔の微笑に足踏みする。影になった反対側には深淵が潜んでいる気がする。
だけど、言わなくちゃ。
[生きているんだよ、この世界の人も、エフ、キミだって]
クスクス
彼女は目蓋を閉ざし、星の光を双眸から追い出してから言った。
「うん、やり遂げる。奪わせはしないよ」
『絶滅 (未来)』が必定していたとしても、自己証明と意味だけは、『この瞬間』だけは誰にも委ねさせないために。
エフはそれきり言葉を切って横になった。
聞きたかったことには全部答えたよねと、言外に伝えられている。
知りたいことは分かったが、どうにも出来ないことを思い知っただけだった。
絶望だ。
メンタルが底を知れずに沈んでいく。
だから、『直感』したのだ。
もしもオルトが見付けるべき意味があるとしたら、それはこのメンタルが絶望のトンネルを抜け出した先にある。
はっきりと見えた。
オルトがまっとうしなければならないこととは、この地上世界の人間が強制されている死を終わらせることだ。
『アースウォーリア』を終了 (ディスコンテニュード)させる。
まだやり方はとっかかりすら無い現状だけど、達成したときにオルトの魂はきっと価値ある成長を得るはずだ。
エフの真似をして、オルトは遙か闇天の輝きをレンズに映した。
[ボクだって、きっとやり遂げる]
刻み込むように言葉にした。
やり遂げるよ――
「――そこにしか、わたしの実感がないから」
冷えた夜気から集音した小さな言葉にオルトは思わず振り向いたが、エフは背中を向けて毛布を被った後だった。
『三原則』はI.アシモフの『われはロボット』に登場するものをそのまま使っていることを明記します。私のアイディアではありません。
またAI自身による『三原則』の再定義という展開についても本編の内容に合わせて多少アレンジを加えていますが、同じく『われはロボット』で使用されたものです。