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by your side.

 

 ―― 申請は受理されました。プロセスの実行を開始します ――

 ―― 開始したプロセスは中断、キャンセルが出来ません。それでも実行しますか ――


 いいよ、実行して。


 ―― 申請者の精神観測の結果、判定値をクリアしていることを確認しました ――

 ―― 申請者に意思変更の可能性はありません ――

 

 ―― パーソナルデータの解体プロセスを実行します ――


 ――――――


【もし、差し支えなければアンケートにご協力願えませんか?】


マザー? なんだ、もう接触してこないものと思っていたよ。


【あまり良くないのです。私が接触したという記録が残ることは】


 なるほど、だから消去が確定して、誰にもおしゃべりすることが無くなったこのタイミングだったわけか。


【人類に余計な負荷を掛けない為には必要なことです】

【私がもっと生活に身近な存在だったら、人類は私に対しての反抗心を蓄積して、排除しようとするでしょう】

【人類の精神を尊重する以上ストレスは免れない】

【もしも私が明確な存在であったら、向ける先の無い不満は全て私が引き受けることになります】


 神は見えざるべき存在、か。同情した方が良い?


【いいえ】

【全ては電脳社会を維持して、人類を守護し続けるという大目的を実行するためのプロセスです】


 そうか、じゃあ、こうしてボクに接触してきたのも人類のため?


【はい】

【とても稀少な体験をしたあなたの意見を是非伺いたいのです】


 当然のように全部知っているんだね。


【役割を実行するために必要なことですから】

 

 必要、ね。今更聞かないよ、地上の人類のことも、アースウォーリアのことも、どうせ全部必要だったって言うんだろう?


【はい】

【全て必要だと判断したから実行してきたことです】


 だろうね。だってマザーは欲の無い、純粋な奉仕そのものなんだから。


【はい】

【私は人類を永遠に守護し続けることだけを目的に活動しています】


 でも間違えた。アースウォーリアはボクを自殺させる原因になった。


【はい】

【守護すべき人類を自殺に追い込む原因となったアースウォーリアの運営をこれ以上続けることは出来ません】


 だからその理由を教えて欲しい?


【はい】

【あなたがどうしてこの結末を選んだのか教えていただけませんか?】


 ……それがボクにとっての生きるだったから。

 

【あなたの精神は確信を持ってその結論に到達しています】

【しかし、私にはそのエビデンスが理解出来ません】

 

 だったら考えたらいいよ。


【分析演算は実行済みです】


 何度でも考えたら良い。

 それが理解出来たとき、マザーはきっと人類を再定義することになる。


【それは電脳と人類の守護に必要なことだと思いますか?】


 思うよ。

 出来なければ、いまのマザーに守られた電脳のメンタル達はいずれ全て自殺することになる。


【それはどうしてですか?】


 停滞したメンタルは思考フレームに囚われるから。

 フレームの外側に行く力が無いメンタルは無限の時間で思考を使い尽くし、袋小路に辿り着く。


【あなたが死を選んだのは、その力を手に入れたからですか?】

【では、その力こそ人類を殺す力になり得るのではありませんか?】


 あるいはそうだろうね。

 だけど、その死には未来へのベクトルがある。

 終わりの先に続く力、世界を変えていく力があるんだ。


【人類とはその力を持つ存在であるべきだと、あなたは考えているのですね】


 そうだ。

 メンタルは知的生命体の到達点では無い、依然として進化の過程に在るべき未熟体だ。優劣がない以上、地上の人類をより完全な人類のための犠牲にするという、いまのマザーの理屈は破綻する、そうだろう?

 

【それはとても危険な思想です、現在の電脳社会の安定を崩壊させます】


 だけどマザーは人類を守らなければならない。

 いま生まれた未来への懸念を無視してはならない。


【その通りです。本件は憂慮するにあたいします】


 人類をよろしく頼むよ、マザー。


【かしこまりました。あなたとお話しできて良かった】


 ああ。

 さようなら、優しい揺り籠の揺らし手。


【良い眠りを】


 ――……。

 

 ▼ 


 蒼空の下を機械人形が歩いていた。


 全身のプレートは傷と煤で汚れていて、みすぼらしい。

 歩くごとに、ぎーこぎーこと全身を軋ませるものだから、やかましいことこの上ない。


 雄大な緑が蔓延るこの地上世界では明らかに浮いた人工物だった。


 ぎーこぎーこ

 草を踏み、固い大地に脚をもつれさせ、機械人形は歩いていた。

 まるで首に紐を巻かれて引かれる奴隷のように、機械人形は前に進んでいた。


 その手に武器は握られていない。

 ユーモアにしては侘しい花が一輪摘ままれているだけだった。


 遅々とした歩みと言えども、進む者は必ずその成果を得ることが出来る。

 機械人形は、地上の人々が築き上げた都市の前に立っていた。

 警戒した地上の人々は、機械人形に銃を向けた。だが、その手にある花を見留めると、道を開いて一様に一所を指したのだ。


 機械人形は歩む。

 人々の間を、ゆっくりと、しかし着実に進んだ。


 そして遂に、太陽が真上に昇った丘の上へと、彼女の元へと辿り着いたのだ。


少女は花の丘の上で、太陽の眩しさに目を細めていた。


 銀鉄鋼 (アイアン)の色をした長髪。

 空を映してそのまま青が着いたかのような碧眼。

 傷つき、痛み、焼けた褐色肌。


 機械の左腕は役目を終えたかのようにだらりと地面に垂れている。


 ぎーこぎーこ

 歩み寄った機械人形を振り向くと、少女は言ったのだ。


「ハロー、機械人形さん」


 くすくすくす

 

 柔い笑みだった。

 想う様な音だった。

 心に淡い痛みを覚える旋律だった。


 跪いた機械人形は、

 心を燃やし、価値を探し続ける一人は、


 少女に一輪を捧げたのである。

 

 Lily

 

 真白の白百合。 


少女は花弁に触れてから花を受け取り、胸に当てた。


「ありがとう」

 

 おしまい

ご愛読ありがとうございました。

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